第三話
第三話
「さて、じゃぁまずは何が聞きたいよ新人くん!」
霙の日はカフェオレ。晴れの日はコーヒーを手元に、向かい合って席に着く
「んーと、俺ら変革者の任務って主に何があるの?肉体作業とか?」
そもそもの土台からして晴れの日は任務について何も知らないのだ
訓練生のうちは毎日が訓練でろくに任務について知ろうとしなかったのも問題ではあるだろうが、何も説明しないのはいかがなものだろうか、雨の日よ
「んー・・・ただの労働もたまにあるんだなこれが。まぁ滅多にないけどね~」
そしてカフェオレに口をつける。だが猫舌のようでアチアチ言っている
フーフーと息を吹きかけ冷まそうと試みる霙の日
「まず、ここ天候荘が何なのかって最初に聞かなかった?」
カップを置き直し熱そうに舌を突き出す
晴れの日は記憶を振り絞り何か言われていなかったかと思い出す
しばしの沈黙の後・・・
「あ!変革者を取り締まる、警察的な??」
「そのとぉーり!私たちは基本的に変革者として目覚めたものの力によって悪の道に行った人を捕獲、もしくは処罰するってわけ!」
指を一鳴らし
悪の道というと真っ先にあの日のバスジャック犯を思い出し、嫌な気持ちになる
「じゃぁ、戦闘になることも?」
「っていうか戦闘がほとんだよ。殺しも覚悟したほうがいいよ~?ま、最初の方はそんなに血腥い場所には送られないだろうし安心して!」
ここでようやく飲める温度になったのか霙の日はゆっくりとカフェオレを飲みだした
それにしても軽々しく死を語れるのはすごいことだ
「んで、組織的じゃない奴らのことをノラって呼ぶの。由来はそのまま野良だけどね~」
「組織的・・・?」
その単語に引っかかる。悪の組織的なのがあるのだろうか?
「そそ、なんかねぇ・・・変革者だけの国を作り、無能な人間はすべて滅びよー!って感じの物騒なやつらよぉ~・・・確かアナザーとか言ったかな?」
要するにテロリストなのだろう。晴れの日の母親は元政治家で平等社会を謳っていたことを思い出し、もしかしたら母親殺害の犯人はアナザーの仕業、と一瞬脳内をよぎる。だが憶測ですらないので声には出さない
アナザーと実際に対峙することになるかはまだわからないが、心に留めておこう
「しかも世界中に支部があって、私らといい勝負なのよ。勢力が」
「私らって、天候荘と?」
「あー正確には変革者健全育成所神奈川本部なんだけどね~。ま、ボスらが天候組だし天候荘なんだけど。あぁ見えて雷は日本の全施設のボスなんだよ~」
それは初耳だ
確かに一度手加減付とはいえ手を合わせた時に人外のちからを感じたがまさかそれほどだとは
あの時本気でなくてよかったと、鳥肌が立つ
「そ、そうなのか・・・すげぇ・・・」
「凄いでしょ~!あ、後はこの施設にはたくさんの小規模グループがあって、それがまとまってできてるの。たとえば、花の園。ボスは水仙で、特に女の子が多いかな、撫子ちゃんも確か花の園だよ!掛け持ちで救護もやってるけどね~」
そこで一旦お互い喉の渇きを潤し話は再開
「でね、グループごとに受け持つ仕事が違うんだよー。花の園と天候組は大体一緒だからペアもあり得るけど、陰陽館ってグループは偵察ばっかだったり、ほんと色々なんだ~」
と、ここで話が脱線したことに気が付く霙の日
てへ、と舌をだして話を戻す
「あ、話がそれたねっ~。まぁそのアナザーって施設の奴らは色々と企んでるみたいだけど、よく分かってなくてね・・・今はとりあえず、龍脈ってのを襲ってるみたい」
「龍脈?」
空になった二人のカップをフレディが下げにくる
タイミングは完璧。フレディの経営には頭が上がらないなと晴れの日は心底思う
「あ、龍脈っていうのはね、んーわかりやすく言えばパワースポットかな!うん。なんかこう、ぐわーって感じのすごいとこ!ま、さすがにこれは雨か雷に聞いて!」
大変参考になるご説明ありがとうございます・・・
晴れの日は苦い顔でパワースポットと勝手に結論付ける
「そ、そこを狙う理由は・・・?」
「なーんかとりあえず龍脈の力が欲しいみたいよ?でも、龍脈が襲われるとそこら一帯が荒れるからね・・・守んなきゃなの!身近のだと琵琶湖とかそうだね!」
アナザーとはやはり実態が掴めていない組織なのだろう
だがこれだけ話を聞いても晴れの日にはどこか他人事だった
それだけ大きな事案なら、新人に回ってくることはないだろうと安心していたからだ
「じゃぁ、基本的に任務は・・・」
「そだねー・・・はじめのうちはノラかな!」
「ノラが基本だけど、まぁその他もろもろ任務はあるわよ・・・」
2人は突然声をかけられ、弾かれたように声の主を見る
そこには、先まで二日酔いに苦しんで一眠りしたはずの姫、ならぬ風の日が顔色をまだ蒼くして立っていた
「だ、大丈夫!?顔色悪いよ!?」
心配そうに席を譲る霙の日
確かにかなり気分が悪そうなのになぜ出てきたのだろう
「フレディの作る・・・漢方・・・」
ひねり出すかのようにうめき声をだす風の日
その声を耳を寄せて二人は聞き取り、フレディを呼ぶ
「Oh!大丈夫?プリンセス・・・?」
どうやらフレディも姫、ただしくはプリンセスと呼ぶようだ
晴れの日が漢方を頼もうと口を開く前にフレディはさもわかった顔で
「OK!いつもの奴だね!」
そういって厨房に戻り小瓶ひとつと水を持ってきた
これは店で処方されているのか気になるところだが、不安になる晴れの日をよそに霙の日は水に小瓶の中身を溶かし込み、勢いよくかき混ぜる
色が赤褐色に変わったころ、風の日の手が伸びてきて水の入ったコップをつかみ、一気に飲み干す
「っぷは・・・ありがとフレディ」
「Yes!でも飲み過ぎ注意!プリンセス、お酒弱いんだよ?」
どうやら雨の日達ではなく、風の日に飲酒の問題があったようだ
申し訳ない、と後頭部を掻きながら軽くフレディに頭を下げる風の日
そこで晴れの日は気になることを・・・
「今の漢方ってフレディが作ったの?」
「Sure!薬剤師の資格もあるんだよ!」
いくつ資格を取るつもりなのだろう・・・いつかすべての資格を聞いてみたいものだ
だが霙の日達二人は何食わぬ顔なところを見るとこれが普通なのだろう
「さ、てと体調も治ったし自己紹介ちゃんとさせてもらってもいいっ?」
先までとは打って変わった顔色で、赤みを取り戻している
ここで断る理由もないので快く承諾した
「こほんっ私は主にフリーランニング担当教官の風の日って言います!ん、と先生は曇りさんよ」
「あ、そういえば私は雷さんだよー」
風の日の自己紹介に霙の日の紹介もはさんできた
能力について触れないあたり聞かないほうがよいのだろうか?
だが聞くタイミングを完全に逃し、話は進んでしまう
「君は晴れの日、でいいんだよね?」
「あ、はい!んと、これ身分証です」
礼儀正しく身分証を見せる。風の日は一目見るとすべてを理解したかのような涼しい顔で身分証を晴れの日に返す
「ま、教官って言っても普通に任務にでてるしもしかしたら一緒するかもしれないの!その時はよろしくね?晴れ君」
「姫はつっよいよ!私も強いけどねっ!よろしく新人君!」
「よろしくお願いします!霙も、よろしく!」
2人から差し出された手を交互にしっかりと握り、こちらこそよろしくと告げる
風の日と霙の日の参戦に物語はどう動くのか―――・・・