第二話
第二話
「最初は雨のとこ!私任務終えて帰ってきたばっかだから報告しなきゃなんだ・・・めんどくさいけどぉ・・・」
最後の方はため息交じりだ。それに目から生気が一瞬減る。そんなにめんどくさいのだろうか・・・
霙の日の背後を三歩後ろから歩く晴れの日だが、ようやく雨の日の部屋にたどり着き、隣に立つ
雨の日の部屋の扉は木製でシンプル。事務室らしいところはなく、ただの個室のようだ
「たっだいまもどりました霙でーす」
ノックと同時にドアを開けた
霙の日の性格なのか、雨の日の性格なのか入室に対して遠慮がない
だが性格で考えるならどちらもガサツそうだと晴れの日は心で呟く
「雨~任務終わったよ~。結局黒でしたー」
ドアを開け、室内を見渡す
室内も基本木製で雨の日にしては落ち着いたゆったりできる空間だ
ところどころに木彫りがあったりアンティークがあるのもいいアクセントになっている
そんな中雨の日はベッドの上でうつぶせになりながらマッサージを受けていた
撫子に、だ
「おっつ~・・・ったぁ!?撫子・・・そこアカン・・・ラァ!?」
「泣き言言わない!ほら、いくよ!」
もちろん雨の日は半裸。うつぶせの状態で、その上に撫子が跨り背中をマッサージしているという構図だ
だが晴れの日が気になったのはその背中に数多く残る傷跡だった。この間は湯気でハッキリとみることはできなかったが、雷の日以上の古傷、刀傷から銃痕。数多の傷だ
これが戦士の傷なのか・・・
「雨、またマッサージ?撫子ちゃんも物好きだねー・・・」
背中の傷にも撫子のマッサージ光景にも霙の日は見慣れた様子で、特に驚くこともなく無視しながら仕事の報告を進める
撫子は霙の日の指摘に舌を出して小悪魔に笑う
「で、黒だったかやっぱ・・・って!?そこ傷新しいから!!」
「うん・・・しかもまっくろだよ~早く潰したほうがよさげ」
何の話をしているか晴れの日にはわからないが霙の日は偵察が主だと言っていた
つまりは、だれかしら犯人らしき人物を突き止めたのだろう
「てか、なんで晴れ?」
ようやく晴れの日の存在に触れる雨の日
晴れの日もようやく存在を認知されたことに胸をなでおろす。ここで存在を無視されてはかなりショックだからだ
「あ、いや霙さ・・・霙にさっき会って天候組のメンツを紹介するって言われて付いてきたんだ」
なーる、とだけ言って雨の日は再び撫子のマッサージの餌食になる
ツボを刺激されているのか苦痛に顔をゆがませ話せない状態の雨の日の代わりに撫子が話し始める
「けど霙ちゃん、今ここには姫しかいないわよ?雷さんも曇りさんも晴れ君はあったことあるし、ほかはまだ任務中、よっ!」
最後の掛け声は雨の日の叫び声が付いてくる
ボキっと嫌な音が一瞬部屋の中にこだまして雨の日はピクピクと腕を痙攣させて動かなくなってしまった
「あり?皆まだかえってないのかー!残念っ・・・じゃぁ姫だけだけど案内するよ新人君!」
だが霙の日はお構いなしだ
「ぜ、是非・・・ってか雨さん死にそうですけどだいじょうぶなんですか撫子さん?」
悶絶する雨の日に横目をやり、撫子にさりげなく訪ねてみた
だが帰ってきた返答は・・・
「大丈夫よ!雨様の体はよくわかってるからね!!」
少しばかり意味深なセリフを残し舌をチロッと出す
愛くるしいしぐさの撫子の下からうめくような恐ろしい声が聞こえたのはその時だった
「な、なら・・・もう少しぃ・・・やさしぃ、くぅう・・・」
だが撫子には通用しなかった
ツボを探しているのか指の動きが明らかにプロのソレだ。確実にとどめを刺すつもりだろう
マッサージを受けたことがない晴れの日にはどんな痛みなのか想像もつかないが、きっと激痛なのだろう
「雨様がけがするからですー!!傷は治っても体力は直せないんだから我慢して!!」
「げふぅっ!?」
「ふふっ。じゃぁごゆっくり!新人くんいっくよ~」
霙の日にまたまた袖をつかまれ強引に部屋の外に出された晴れの日の視界に入った最期の光景は雨の日の死に物狂いの顔と、撫子の満面のやさしさにあふれた笑顔だった
「もー二人の仲をあんまり邪魔しないの!撫子ちゃんに怒られちゃうよ!」
腰に両手をあて前かがみで頬を膨らませる霙の日
だがそこまで本気ではなさそうな表情だ
まぁ確かにこれ以上あの場にいるのは二人のお邪魔なのだろう
とは言っても二人になんら親しい関係があるわけではないのだが
「さて・・・紹介しようとしたのにまさか全員居ないとは・・・ごめんねー?姫だけでも紹介するよ!ついてきて!!」
相変わらずのハイテンションで晴れの日はなすすべもなく連行される
特に予定がないのが幸いだ
それにしても天候組は一体どんなメンツがいるのだろうか
今のところ曲者揃いの集団なのだが、実の腕前がわかるのが雷の日と曇りの日しかいないのだから、他の組員の実力も知りたい
霙の日だって、能力はすごく強いし、偵察もこなせるということはかなり上位なのだろう
「そういえば、どうして姫、なの?」
少しばかりの駆け足のなか晴れの日は霙の日に尋ねた
「あぁ、会えばわかるよ!・・・あーでも今は姫じゃないけどね~」
どういう意味なのか晴れの日には全くもって意味が分からなかった
天候組のメンツはすべて天候由来のコードネームなので、ここに「姫」がいることはかなり違和感しかない。だが首を傾げるも答えは返ってこなかった
「さて、もうそろそろ姫の部屋だよ!」
連れてこられたのは教官たちの部屋が並ぶエリアだ
ここに連れてこられたということは姫は教官なのだろうか?
ちなみに、教官の上のクラスが曇りの日や雨の日などの上官らしく完全別室を持つことができるのだとか
「もっしもーし!姫―!」
ドアをどんどんと粗々しく叩き中の住人を呼び出す。ここの施設には呼び鈴も備え付けられているのでそれを鳴らすのが常識的だろうが霙の日にはお構いなしだった
それから程無くして姫と思わしき人が眠そうな顔で髪をぼさぼさにして現れた
「なぁに・・・霙・・・」
「うわ・・・寝起きじゃん!」
朝と言えどもうみんな起きているであろう時間なのに完全に寝巻き
「うるさいわね・・・昨日夜遅くまで雨達と飲んで二日酔いなのよ・・・」
「あ、そーなんだ。それはさて置き。ほい、天候組の新人だって~晴れの日だってー!」
「ど、ども・・・」
肩がはだけて目のやり場に少し困ったが本人も気が付いたのか寝巻きを着なおし、眠たい目を晴れの日に向けた
「あ・・・君鬼ごっこの時の」
よく見ると、試験の時の鬼ごっこで追いかけられたあの猫耳だった
今は猫耳こそ着けていないが、声をよく聞くとその通りだった
「あ・・・あの時の!」
「君晴れの日になったんだぁ・・・おめでとー・・・いつつ・・・ごめんね二日酔いで・・・私は風の日・・・うぷっ」
明らかに気分が悪そうだ。顔色も心なしか青い
姫、がお酒に弱いのか雨の日達が異常に強いのかわからないが、相当飲んだ様子
「い、いえいえ・・・それより体調大丈夫ですか?」
「あー・・・うん、ごめんもうちょい寝さして・・・多分あの双子ちゃん帰ったら天候組で飲むだろうしその時自己しょーするね・・・」
ごめんねとだけ言い残し、部屋の中に消えて行ってしまった
なんだかしまりのない初登場だったが、飲みのせきで改めて挨拶しておこうと晴れの日は思ったのだった
「じゃさじゃさ!折角だし任務とかそーゆーの教えてあげよっか!雨からどーせなんにも聞かされてないっしょ?」
確かに晴れの日は任務がこれからあるとは知らされたが内容まではしらされていなかった
このままだと何も知らないまま戦地に行き雷火の日にまた罵詈雑言を浴びせられるのが関の山だろう
「確かに・・・なんも知らないや・・・」
「じゃ、フレディのとこでお茶しながら話してあげる!」