第二十二話
第二十二話
「さて、始めるぞーい?準備OKみたいだし、試合開始!」
雨の日のアナウンスが闘技場に響き、観客一同歓声があがる
「いきます雷様!」
美咲は雄太の存在をないものとして扱っているようで、真っ先に雷の日に突っ込んでいった
警棒を勢いよく振り下ろすが、雷の日は左手で威力を受け流し、完全にノーダメージで美咲の最大重力の攻撃をいなした
「道重!協力する気ないのか!?」
「あんたが勝手にわたしに合わせ・・・・・・・・っ仕方ないから協力してあげる!」
美咲さんがようやく心を開きました
だがそのことを今は喜んではいられない
「わかった!雷さん!少し熱いけどこれが俺の攻撃なんで!!」
雄太は銃を抜き両手で引き金を引きまくる
一発目は雷の日がしゃがんでかわし、そのすきに美咲が殴りかかるが雷の日に足をかけられ美咲は地面に倒される
二発目の熱線は一歩下がるだけの単純動作で避けられてしまった
さらに三発、四発目なんかは熱線の軌道が見えているかのように殆ど動かずにかわして見せた
「まじかよ・・・」
「ほら、俺も攻撃はするからね?放心はだめだよ!」
一瞬絶望にひたってしまい心がここにあらなかった
雷の日は一瞬で雄太の目の前にまで跳躍してきて細いけれどもしっかり鍛えられた拳を振るってくる
体を大きく捻って回避と共に距離もとりまた一発熱線を放つ
がやはりかわされる
「ほら!もっと打ちなさい!わたしの援護!!」
立ち上がった美咲が飛びかかり警棒を横に薙ぎ払うが雷の日は片手で軌道を変え、美咲のガラあきの背中に軽くつぼを押す
「んきゃっ!?」
美咲は変な声を上げて地に落ちてしまった
しかしその体制から足をはらう
が、雷の日にはジャンプでかわされた
「そりゃっ!」
宙に跳んだ雷の日は身動きが取れないはず
だが、雄太の思いとは裏腹に雷の日はその場で体を捻り熱線を軽く避けた
「なんでだ!!」
「ははっ、狙いは良いけどばればれだよ!」
着地した雷の日は美咲の警棒を大きく後ろに跳んでかわし、雄太目掛けて襲いくる
その動きは正に稲妻のごとき速さ
気が付けば目と鼻の先にいる
「はやすぎるって・・・!」
みぞおち目掛けて繰り出される拳をなんとか両の拳銃で受けとるが、反動で後ろに跳ばされる
「せやぁあ!」
雄太に拳を繰り出して隙の出来た雷の日に美咲は警棒を振るう
だが案の定雷の日のノールックでのカウンターが炸裂し美咲は吹き飛び、警棒も落としてしまった
「連携はいいんだけど・・・コンビとしてはまだまだかなぁ?それに!絶対に合格するんだろっ?」
昨日の浴場での会話を然りと覚えていたようだ。小悪魔のような不気味な笑顔で雷の日は笑う
それにしてもこんな時でも2人の息を見抜くほど余裕がある雷の日に対し、美咲と雄太はすでに手いっぱいだ
すでに二人とも肩で息をしている
「一撃すら入んないのかよ・・・」
「強いとは知っていたけど・・・流石は雷様・・・」
ゆっくりと2人は立ち上がり雷の日をはさむようにして陣取る
「ほらほら!そろそろ試合終わらせるよ!次も控えてるしさ!」
「そうですね・・・!でも負けませんよ!」
唇を強く結び雄太は再び銃口を雷の日に向ける
美咲も歯を強くかみしめ警棒を拾いなおし応戦体制に入る
「覚悟!!」
引き金を引き熱線を発動する
ここまでは先の動きと同様だ
しかし雄太は銃口から熱戦を直線に放ちはしなかった
「っ!?下か!!」
雨の日との訓練で学んだ隠し技。なにも銃口から熱を生みださずとも他の位置から熱がでないかと試したところ集中力にもよるが自在に好きな処から熱が生み出せる事を学んだのだ
それを利用して、銃口からしか熱がでないと予測していた雷の日の不意を突いく
狙い通り雷の日は反応が遅れ今までとは少し違った大きい動きで熱線を慌てたように回避する
もちろんこれは大きな隙だ
「いまだ!」
「いわれなくとも!!」
もちろんそのすきを逃すほど美咲も落ちぶれてはいない
警棒を投げつけ、重力の方向を操作して雷の日の腹部目掛けて一直線に落下させる
観客含め本人までもが決着がついた、そう思ったが・・・
「おしい!あと一歩だね」
なんと雷の日は膝と肘で美咲の投げた警棒を挟み、受け止めていたのだ
「んな!?超人芸かよ!!」
思わず雄太は叫んだがだからと言って戦況は変わらなかった
だが、ここであきらめるわけにはいかない
負け惜しみの八当たりの気分で熱線を雷の日に放つ
もちろんこれまでと同じ様にまんまとかわされる
しかし、ここで雷の日は小さなミスをした
それは2人にとっては大きなチャンスだった
油断した雷の日は、警棒を落としたのだ
「・・・っ上がれっ!!」
美咲がその一瞬で警棒に命令するかのように叫んだ
すると警棒は落とされた道筋を辿るかの様に急激に上昇し、雷の日の頬を掠める
「っぶね!?」
「後少し右だったのに!」
「十分だ道重!」
ほんの少し当てが外れたようで攻撃があたりはしなかったが雄太は意識が自分から逸れた事を確認して一気に雷の日に接近する
もちろん雷の日もそれに気が付かないわけではない
回し蹴りが雄太の手にある銃を弾き飛ばし、美咲の第2波を警戒しつつ雄太の無力化をしてきたのだ
「あんた銃落としちゃ意味ないでしょ!? っ雷様!失礼しますねっ!」
美咲に叱咤される雄太だったが銃を落とさせること自体が雄太の狙いだったのだ
もちろん美咲も実は雄太の行動に気が付き、わざと叱咤したのだ。理由は簡単、昨日の会話を思い出したからだ
重力を変えた跳びひざ蹴りが雷の日の頭上目掛けて繰り出される。それを雷の日は両手で流そうと武器の無い雄太に背を向けた瞬間だった
雷の日は、背中が猛烈に熱くなるのを感じ、つい防御を解いてしまった
そして・・・
「ぶべっ!?」
「俺らの・・・」
「勝ちです雷様!!」
美咲のひざ蹴りが雷の日の顔面にクリーンヒットしたのだ――――――
誰もが、息を飲んだ一瞬だった
『・・・俺の能力って銃の引き金を引けば、発動するタイミングは俺次第なんだ。だからもし、明日の試験が試合ならそれを上手く利用する。道重はそれに合わせてくれ』
昨夜のセリフが美咲の脳内に響く
この戦い、雄太の努力によって編み出された一つの技で決着がついたのだ――
そして時は夕方。朝方振っていた雨も上がり快晴となっている
ところどころ水たまりが残っているがそれもじき蒸発するだろう
全ての試合が終了し、試験合格者の一覧が駐屯地のど真ん中に張り出される
その中には、しっかりと雄太と美咲の名前も刻まれていた
「・・・受かった」
「そうね・・・」
雄太は嬉しさのあまり無感動に、美咲は当たり前、と言ったかおで無感動に呟いた
しかし内心では笑顔でいっぱいだろう
「ふふっ・・・」
「あれ?道重笑った?」
これまで見た事のない優しい笑顔。昨日とはまたちがう笑みを一瞬こぼしたのだが雄太の一言でまたいつもの無愛想な強気な美咲の顔になる
「えぇ。あんたと離れられる事がうれしくてつい、ね」
「お前最後までホント性格わりーなー・・・」
「ふんっ、余計なお世話よ」
それだけ言って、美咲は友達のいる輪に行ってしまった
去り際に、本当に小さな声で、『ありがと』と言ったのは雄太には秘密だ
「やれやれ・・・さて、俺も帰る荷物まとめますか!それに早く寝て、明日から正式に天候組の一員としてがんばんなきゃな!!」
とそこへ私服でTシャツに『I♡日本』と書かれたなんとも言えない姿でフレディが現れた
そして雄太を見つけるや否や強烈なハグ
「Oh!ユウタ!シケンごーかくおめでとう!」
「フレディ!ありがと!」
がっしりと大きな腕に包み込まれる雄太
もちろん、いやな気はしない。だが少し苦しい
「ごーかくのお祝いに!Greatな食べ物!用意するね!」
「お!楽しみだな!ありがとう・・・って息がっ!!」
流石に巨漢に抱きしめられ続けては比較的小柄な雄太には耐えられない
頭をポリポリと掻きながらフレディは離れる
そして最後にしっかりと握手をかわし、フレディは他の受験者にお疲れや慰めを言いに向かった
フレディの友好範囲はどこまで広いのだろうか・・・
「さて、荷物はこれで全部だな」
対して大きな荷物もないため、案外すぐに帰宅の準備ができた
と、まるで見計らったかのように雨の日が現れる
「うーい雄太、天候荘帰ったら明日、合格者は雷んとこ行け?今後の在り方教えてくれるから」
「あ、わかった」
それだけ告げて雨の日はどこかへと姿を消した
だが合格の祝いの言葉は特にない。雨の日らしいのだが雄太はそこではない別のことに引っかかる
――確かに今、雨の日は雄太と呼んだ
これまでずっと新人だったのにようやく一人前だということだろうか?
どんな祝いの言葉より、その一言で合格した実感がわいてきて思わず空を見ながら笑みをこぼしてしまう
「さーて!今日で新人卒業だ!!明日から楽しみだぁっ!!」
両手を天に突きだして思いっきり叫ぶ
明日から雄太は新しい第二の人生を歩み始めるだろう
はてさて。待ち受けるたくさんの出会い、別れ。どう乗り越えていくのか実に楽しみだ――――
これにて変革者
第一章~生まれし太陽~
完結
この話で第一章は終わります!
でも、第二章もありますのでみなさま、期待して待っていてください!