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変革者  作者: 雨の日
第一章~生まれし太陽~
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第二十一話

第二十一話


「ひ、ひたがひたいれふ・・・」


訳すとこうなる

舌が痛いです


どうしてこうなったかはいたってシンプルな理由だ

美咲は小瓶、中身はハバネロエキスなのだが,それをほとんど一瓶すべて雄太の使うスプーンにこっそり混ぜたのだ。直接料理に入れないだけ辛みは濃縮されるまさに鬼だ・・・

普通ならば気が付くことであろうが、高笑いで上を向いていた雄太は残念なことにそれに気が付けず案の定なんのためらいもなく大きく口を開け、口いっぱいにカレー放り込んでしまった

・・・その結果雄太は口から火を噴きだし、舌を真っ赤に染め上げてもがいていた

そして冒頭のセリフに行きつく


「はははははっ!!」


美咲が声を荒げて笑った

いつもみたいに乾いた笑いではない。心からと言える笑顔だった

顔をくしゃりとゆがませおなかを抱え気持ちうっすらと涙を浮かべて声を出して笑っていたのだ


「なにそのオーバーなリアクション!ははっ・・・おなか・・・痛い・・・!」


よほどツボにはまったようだ。顔の前で手を叩いたりおなかを抱えたりと忙しくせかせかと笑い転げる

もちろんその笑いは一向に収まらない

だが、雄太は痛みにもがく半心、美咲との距離は確実に縮まったと確信していた

その距離がどれくらいかは分からないが、それでもこの数日間共に過ごし中で感じた確かな手ごたえだ


「はー・・・笑った笑った・・・あんたが悪いのよ?」


でもやはり毒づくのは変わらないようだ・・・涙を浮かべるほど大笑いした挙句責任は押しつける。表情は柔らかくとも、相変わらずのようだ

だが今のセリフは笑顔で発せられたこともあって雄太は悪い気はしなかった


「おれ、ふぁるくへーよ!」


悪い気はしなくても舌の痛みは当然ながら引かない

舌をグラスに注がれた氷たっぷりでキンキンに冷えた水に突っ込み犬のように冷やしながら雄太は泣き眼で反論するがまったくもって効果なし

だがそれでも、笑顔の美咲につられて雄太まで口角が上がってしまうのをしみじみ感じていたのだった











「ごちそうさま」


「ふぅー・・・食った食った!」


舌の痛みはしばらくすると消え、何とかカレーを食べきった雄太と結局ゆっくりパフェを食べきった美咲はほとんど同時に食事が終わった

美咲は両手をしっかり合わせて食後の言葉をいい、雄太は背もたれにもたれかかって膨れたおなかをさすりながら言う

紙ナプキンで丁寧に口の周りを拭きながら美咲は立ち上がる


「さて、わたしはもう行くわ。明日の試験がなんであろうと合格が決まる大事な試験。寝て英気を養うことも大事よ」


確かに正論だ。雄太も異論はなかった。だが雄太は美咲のそばに駆け寄り何かを囁いた

普段なら近づくなと叱咤するであろう美咲だが内容が内容だけに聞き入る美咲


「・・・てことだ。まぁ明日の試験が違ったら意味ないんだけどな。それじゃぁ、明日もよろしく頼むぞ、相棒!」


「覚えておくわ・・・あぁそうだ、今日の食事は気まぐれよ。あまり勘違いしないでね?」


冷たい目でそういいながら身を翻し自分の寝床に向かっていった美咲だが、雄太にはそれが強がりとしか思えなかった

何故なら美咲の口元は確かに笑っていたからだ。今夜の美咲は終始笑っていた気もするがあえて何も言うまい。それが良い判断だと雄太は思う









「・・・よろしく頼むわよ」


誰にも聞こえないほど小さな声で美咲は確かにこの時、雄太に対して心を開いたのだった








翌日


『マイテスマイテス~全員、駐屯場真ん中に作った闘技場にしゅうごー。以上雨の日でしたー』


「・・・相変わらず、めんどくさそうな声だなー」


雄太は寝床からもぞもぞと這い出て着替える

外はあいにくの雨だった






「おー来たか新人」


今日は雨だと言うのに雨の日は相変わらずハワイアンでトロピカルな服装だった

海にもいけない天気だというのになぜそんな恰好をしているのか理解できない


「雨さん・・・今日雨ですよ?」


「ん?俺の日じゃないか!いい天気だ!」


しかしその声色には

はぁ・・・せっかくの海が・・・

と含まれていた気がした

ちなみに、雨の日はアロハシャツしか持ってきていないらしく、天気予報が雨だという事さえうっかり忘れていたのだそう


「さて、パートナーと合流してさっさと闘技場の椅子にすわっとけ。最後の試験はまぁお決まりだが試合だ」


「やっぱしそうなるか・・・」


予想通りの展開に雄太は武者震いが抑えられない

なにせ試合に勝てば合格の舞台が待っているのだ

たどり着いた闘技場はまるでスポーツ用のスタジアムのようなドーム状。試合を四方、上から見下ろすことが可能な設計だ。その中にある選手控室に雄太は案内された

希望反面緊張反面の心中で闘技場ないの選手席で美咲の姿を探す

だが思いのほかすぐには見つからずうろうろと歩き回る


「・・・ここにいたのね」


その時背後から声をかけられた。いうまでもなく美咲だ

迷子になっていたわけではないのだが美咲の目には呆れの二文字がハッキリと映っていたのを雄太はあえて笑顔でスルー


「ん、おはよう道重!」


昨日の今日で朝の挨拶が美咲から帰ってくるかと期待したがそんなはずもない

代わりに帰ってきたのは、冷静で落ち着いた


「わたし達は5組目の試合よ。それまでそこの席で待機ね」


との事務連絡だけだった


「りょ、了解!」


言葉の言い方こそ柔らかいが相変わらず手厳しい

さて、それにしてもいよいよ最終試験だ

対戦相手は誰なのだろう?

一応受験者同士の戦いではないと告知されたが・・・


『では、これより第一回戦を始める!該当する選手は場内へ!その他の選手は観客席に移動!』


そうこう考えているうちに曇りの日のアナウンスで第一試合が開始した

席に向い、美咲と隣で席に着く雄太

どうやら対戦相手は能力あり、だがもちろん手加減している教官達のようだ

教官の膝をつかせるか、教官が合格を認めるかが試験の合格内容らしい


「・・・舐められたものね。手加減だなんて」


美咲がとなりで若干不満そうにつぶやく


「いや、本気で来られたら流石に無理でしょ・・・」


流石の雄太も身の程はわきまえている。教官相手に本気で戦えなど勝つことは不可能に近いのだ

しかし美咲にはその声は届いていないようだった。食い入るようにして美咲は戦闘の一部始終を観察しているせいだろう

その時ゴングが鳴り響く

どうやら教官の拳が顎に決まったようで2人共戦闘不能になって落選してしまったようだ

随分とあっけないがこれも実力の差だろう


「・・・くじ運にもよりそうねこの試験」


雄太は無言でうなずいた

ここで最悪のカードは雨の日や雷の日。曇りの日などの上位組なのだから





次々と選手は落選と合格していき、徐々に雄太たちの試合が近づいてくる

隣では美咲も緊張からか呼吸が重くなって、拳を膝の上で強く握り閉める


「うーい、新人次だぞー降りてこーい」


ついに出番がやってきた。大きく深呼吸をする美咲だが、どこか肩に力がこもってしまっている

雨の日の呼び出しで雄太はさらに緊張して深呼吸すら忘れてしまった

だがその時、美咲が階段を一段一段踏みしめながら下りる雄太の背中を叩いた


「リラックス」


その言葉は言葉の意味として雄太に届かない

むしろ、あの美咲様が雄太に激励の言葉を贈ったという事実だけが雄太の緊張を驚きで覆い尽くした


「さて、お前らの対戦相手面白い事になったな」


顎を摩りながら雨の日は先導して案内してくれる

だがその言葉からはなにかを楽しんでいるようにしか思えない


「え?」


「どうゆう意味よ」


2人とも聞きたいことがあってか雨の日に問いかける。だが返事をそうやすやすと教えてはくれないのが雨の日という男だ


「秘密だ。まぁ上にあがれって」


いわれるがままに場内に上がるとそこにいたのは


「ら、ら、らーいーさーまー!!」


さっきまでの真剣な目付きはどこへやら、目が煌めき雷の日に飛び込んだ

だが、雷の日は片手で美咲の頭を押さえ、完全に子供扱い


「そそ、俺が担当でーす!」


「マジですか・・・」


雄太の内心は、この試験の不合格だけだった

終わった。としか思えない、どうやら運に見放され最悪のカードを引いてしまったようだ


「悪いねー・・・なんかこうなっちゃった」


「雷様と戦えるんですね!」


手の抑止から振り切り両手を胸の前で合わせ目を輝かしている美咲

雄太は対照的で失意の目だ


「だいじょーぶ、能力は無しだからさ!あと、俺に一撃入ったら合格で良いよ!」


何故だかこれだけハンデをもらっても勝てるビジョンを思いつけない

ここで、二人の試験は幕引きなのか―――


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