第十七話
第十七話
「なんとか河口まで着いたな」
「えぇ。それに試験も後1時間よ」
川沿いを歩き続けた2人は何とか廻りを見渡せるほど視界が開けたところに付いた
だが、かなりの距離を歩き、2人とも足がいっぱいいっぱいだ
「なんでとばなかったの?」
ふと思う
美咲の能力を使えば疲れることなく移動できるだろうに
「あのねぇ・・・いくら飛べると言っても疲れるものは疲れるの。むやみに使っていざって時使えなかったら最悪じゃない」
「なるほどな」
一理ある
それにしても、後1時間どこに隠れるかが合否を分けるだろう
残り1時間と言う事はあの3人も動きだすだろう
隠れてやり過ごさなければ確実に捕まってしまうだろう
「悔しいけどここから先は身を隠すのに専念した方がよさそうね」
「?」
「あんた、あの3人の力知らないの?」
曇りの日、雨の日、雷の日
この3人のコードネームから何となくのイメージは雄太にも着いている
しかし詳細まではしらない
曇りの日と一度対峙した事はあるがあれはかなり手加減されていただろうからあてにはできない
「悔しいけど、屈辱だけど!天パ皇子含め曇りさん、雷様の3人はその気になればこの世界支配できるくらいの力はあるわよ。それこそ核兵器なんかおもちゃに見えるくらいの、ね」
そんな人間がこの世にいてたまるものかと雄太は心底思うがここで美咲が嘘をつく事も無いだろう
それにリアリストでもある美咲は話を盛る事もそうそうない
「・・・1時間逃げ切れるかな」
「正直、運次第ね。雷様になら捕まってもいいかもだけど・・・」
最後の言葉は聴かなかった事にしよう
美咲なら本気で考えていそうで恐ろしい・・・
「じゃぁ、とりあえずこの崖に穴開けてそこに隠れるか?」
「それも良いけど、それだとばれたら終りね・・・一方通行だし」
確かにその時は八方ふさがりだ
せめてトラップ位考えたほうがいいかもしれない
「んー・・・ならどうするよ」
美咲はなにか思いついたように手をポンっと叩き隣に流れる川を指差した
「ここの下、とかどう?」
「・・・はい?」
つまり、川の下まで土を溶かせということだ
・・・なんという女王様
「で、でもなんで川の下?」
「もし穴がばれて鬼が来ても上を崩せば川の水が流れ込んできて鬼を足止め出来るわ」
鬼だって教官・・・死んでしまうのでは・・・
確かにトラップとしてはかなり効果的かもしれないが
「あぁ、先に言っとくと教官さん達は並大抵じゃ死なないから大丈夫よ」
「まじかよ・・・」
仕方なく雄太は近くの草むらから地面に穴を開け始めた
もちろん、美咲は何もしない。ただ、周りを見張り鬼の接近を気にしているだけだ
「く!中々溶けねぇ・・・」
「ほらほら~早くしないとあんた捕まるぞー?」
「鬼かお前は!!キャラもぶれてる!」
どれだけめんどくさいのか、若干キャラがぶれている美咲。雄太の方を見向きもしないのが心からめんどくさがっている証拠だ
とかなんとかいってるうちに雄太がすっぽり入るくらいの穴があいた
かれこれ十数分かけて、だが・・・
「間に合うかしら。そろそろ鬼の一人や二人きそうだけど・・・」
「怖い事言うな!」
雄太が力を込めて叫び、地面を溶かした
と、なんと一瞬で雄太の数メートル先まで土がとけたのだ
「・・・最初からやりなさいよ」
「い、いや、多分土の材質が変わったんだと・・・」
再び熱線を放つとやはりどんどんと溶けていくのが分かる。幸運なことに土が溶けやすくなったのだ
そして溶かし続ける事数分
「やっと川の下まで掘れたぜ・・・」
「おつかれ。じゃ、早速入りましょうか」
なんとか川の下にまで来た。ここまでくれば十分だろう
珍しく労いの言葉をかける美咲
流石にそこまで白状者でなくて雄太は少し安心した
「少し暑いわ・・・」
「しょうがないだろ・・・」
確かに穴の中は熱で溶かした影響もあってかなりあつかった
しかし耐えられないほどではない
「しかし鬼に結局一人しか会わなかったな」
「まぁ、鬼の人数からして妥当じゃない?」
ちらりと時計を確認すると残り10分だった
正直2人はここで10分やり過ごせると油断していた
・・・異変に気付くまでは
「穴の中も冷えて来たわね」
「お、そういやそうだね」
最初は少し冷えただけだったが・・・
「ねぇ、温度の低下ってこんなに激しかったっけ?」
「・・・なにかおかしいな」
雄太も美咲もこれが普通じゃないこと位直ぐに分かった
そして壁に手を触れようとした時
「へ~こんなところに隠れたか!良く掘ったね・・・」
穴の入口に、最も会いたくない男が
「よっ!時間的に、君たち二人が俺の最後のターゲットかな!」
雷の日が
穴の様子を物珍しそうに眺めながら笑顔で穴の奥へと足を踏み入れてきたのだった
まさに、一番会いたくない、本当の意味での鬼が
獲物を見つけた肉食獣のような目でこちらを見つめ、口角を緩めていた――