其ノ二十二
其ノ二十一
「・・・どうやって出てきたのか、は今はどうでもいいか。邪魔するなよ心もないクローン如きが」
「いんや・・・俺はクローンだけど、心はあるみてぇだぜ」
「ほう・・・」
「・・・やっぱみんな見捨てるとか無理だ。俺は天候荘の晴れの日!テメェらアナザーの敵で・・・最強の変革者だこのやろぉ!!」
途絶えそうな意識の中ひときわ響く晴れの日の声に心からの安堵をもらし、雷火の日はその眼から一筋の涙を流した
「・・・単純バカ、だなマジで」
「まぁまぁ雨。晴れが闇堕ちしなくてよかったじゃんか」
疲れきった雷の日に肩を貸しながら雨の日は晴れの日の単純差にあきれつつも頬をほころばせあの霧と同等とも見て取れる戦いをその眼でしかと見届ける
「クローンの分際でシステムに逆らうだと・・・!?」
霧の体術に劣ることなく晴れの日は銃から放たれる熱と己の体術を織り交ぜてハイスピードの攻防を繰り広げる
その隙を突いて霙の日と風の日が雷火の日の元へ駆け出し消耗しきった彼女に肩を貸す
「ツンデレちゃん、大丈夫・・・?無理しすぎだよぉ」
「・・・いいのよ、これくらい無茶しないとわたしはあいつに追い付けない気がしたから」
額から流れる血が雷火の日の視界を遮るが、それでもなお見つめるその先に立つ男は胸の内に秘めた情熱を絶やすことない彼女のパートナー。そして・・・いや、やめておこう。これは彼女のみぞしることだ
「クローンクローンうるせぇなぁ・・・霧、お前だって自分のからだ改造してるじゃねぇか!」
「・・・!?何故それをッ」
ニヤリと不敵に笑う晴れの日は大きく距離を取り銃口で霧の下腹部を指し示す
そこには熱によって破けたシャツ下、皮膚が裂け中から金属部が顔をのぞかせていたのだ
しかもそれを、本人に気付かれることなく負わせたのだ。確実に晴れの日は強く成長している
「気づいてなかったようだな?俺だっていつまでも人形じゃねぇんだ・・・でもよかったよクローンで・・・でなきゃ父親に銃なんか向けられないもんな!」
絞るように引かれた引き金。打ち出された熱は真っ赤に燃える太陽の破片の様に美しく、彼の内で燃える情熱のような強さを持っている
そんな熱線は霧の目と鼻の先に着くのに一秒を要さなかった
「くっ・・・防御も間に合わんか」
とっさに両手でコメカミを抑え自分の周りに静電気の防御壁を張ろうとした霧だが、残念ながら間に合わず右胸を大きく穿たれた
水風船が割れたかのような多量な出血が胸から。それは噴水の様でもあったが、すぐに収まり、吐血して霧はその場に膝をついた
「・・・すごい。私達が苦労して戦っていたあの霧をこうもあっさり・・・」
「はぁ・・・あいつあたしの戦闘技術かっさらっていったようなもんだもんな・・・」
玉霰の日や風花の日でさえ思わず感嘆が漏れる程だ
なにせ相手はアナザーのボスの側近。それを一人で倒してしまうなど末恐ろしい話だ
けれど晴れの日は勝ち誇った顔をするわけでもなく、紅銃を霧に向けたままゆっくりと近づく
「・・・俺の勝ちみたいだな」
「くっくくっ・・・甘い、実に甘い」
「・・・どういう意味だ。お前はもう負けた、その出血じゃ何もできないだろ!」
「聞こえないか・・・?地下から湧き上がるこの力の足音が・・・」
その時、突然地下から大量の人の足音が地鳴りとなって近づいてくるのを全員が感じた
それも、巨大な力を携えて
「・・・何かくるぞ」
薙刀を構え周囲に警戒する雨の日。当然全員が警戒度を高めるが、近づく力に恐怖すら覚える
それほどに強大なのだ
そして、地面が大きく盛り上がり爆発した
「はーっははっ!!侮ったな!!NO.75!お前のほかにもクローンは大量に居るんだぞ?それも全員が訓練済みの変革者!能力こそ違えどお前たちを殺すには十分どぁっ・・・」
霧が最後に高笑いしようと上を向いた瞬間、彼の胸を灰色の剣がその刀身を紅く染め上げて貫いていた
「ふぅー・・・ようやく追いつけた。霧、お前はもう退場だ」
「く・・・も、り・・・!」
「・・・改造されて強く成ったつもりかもしれんが、所詮は機械。粉々にすれば死ぬだろう・・・ッ!」
バンッと煙が彼を包込み、そしてまるで亀のように丸のみにする
後に残ったのは何もない無人の場
唯一立つのは口に煙草を咥え両手をポケットに突っ込んだ曇りの日だけだった
「曇り・・・!」
「晴れ、俺を置いていくなどひどいではないか・・・雨さん、任務は完了したぞ」
「あぁ・・・お疲れ、曇り」
晴れの日に少し皮肉を飛ばしたが、晴れの日も反省しているようで彼もそれを咎めるつもりはなさそうだ
任務の完了を報告し、はれて曇りの日はアナザーへの潜入任務を終えたわけだが、ソレを祝福している暇はない
すぐそこまで晴れの日のクローンたちが迫っているのだ
それも・・・姿見は晴れの日と全く同じ、研究員のような白衣を身にまとい、その手には銃が
制約は同じなのだろう
「って和んでる場合じゃないみたいよ・・・晴れの日の偽物がいっぱい・・・気持ちが悪いわね」
2人に肩を貸してもらいながらも相変わらずの毒舌を誇る雷火の日はこの危機に自分がもう動けないことの歯がゆさを感じながらもどうにかしようと頭を働かせる
「・・・白露、霖。ヘリの手配を。ここから脱出しろ」
「ん、了解ですです」
霖の日と白露の日にヘリの手配をさせているうちに曇りの日は大きく煙を吐きだし、晴れの日クローンたちを睨みながら振り返ることなく叫んだ
「全員、ここは俺にまかせて・・・行け。決して戻るな」
「え、ちょ、曇り!?何言ってんだよ!俺らも残るって・・・霧だって倒せたんだぞ?俺のクローンだかなんだかしらないけど・・・」
「いいから、行け。奴らはお前が思っている以上に厄介だ。長年アナザーにいたから分かる。アレは一体で霧一人と思った方がいいぞ。それも、あの数だ。全員が万全の態勢なら勝ち目がなくもないが、正直突入時の消耗でほとんど力を出し切ったのではいか?」
「・・・曇り、お前さん死ぬ気か」
「・・・」
雷雨の日が歳の所為か重たい腰を持ち上げた雷雨の日はやさしくも厳しい声色だ
その言葉を受けた曇りの日は顔を背けるだけで応えようとはしない
だが、晴れの日が曇りの日の前に立って叫んだ
「ふざけんなッ!絶対ダメだ。死なせねぇ・・・俺は消耗してねぇぞ!俺だって戦える!」
「ダメだ。アイツ等を一瞬で消すだけの力を使う。ここに居ればお前も巻き添えを喰らう」
「知るか!!俺は嫌だぞ。俺もクローンだけどな・・・人の死をはいそうですかで片付けられる程人間辞めちゃいない!」
晴れの日は全身全霊で彼の命をつなごうとするも、他の誰も声を上げようとしない
「なぁ・・・みんなも何かいってやれよ!曇りが死ななくてもどうにか切り抜けられるって!!」
「・・・晴れ、曇りの意志は固い。俺たちがどうこう言ったところで揺らぎはしない」
目線は反らしたまま雨の日は震える声で呟いた
その言葉に晴れの日は、首を横に振りながら後ずさる
「・・・いやだ、俺は・・・いやだ!」
「ちょうど、ヘリも来たぞ。急げ時間がない。幸い奴らは失敗作。ゆっくりしか進めない。射程内に入る前にヘリに乗れ!奴らの能力はさすがの俺達で瞬殺だ!」
上空に光る星が怪しく光る中三台のヘリコプターが彼らの上空に現れ、救出の準備が整ってしまった
「・・・くそっ何か方法が絶対あるはずだ・・!曇りが残らなくても戦わなくても死ななくてもいい方法が!!」
「ない。いいか晴れ、俺は死ぬんじゃない。お前らの心で永遠に生き続ける。だから行け・・・頼む」
「・・・曇り、本当にいいんだね?」
雷の日が深呼吸をしたのち曇りの日に尋ねる
だが当然彼は首を縦に振るだけでその意思を曲げようとはしなかった
「あぁそうだ・・・向こうでフレディと撫子によろしく伝えておくさ」
「頼んだぜ。あ、俺の部屋が汚くなってきたとか余計なこと言うなよ?撫子に祟られちまう」
「ははっ・・・了解した」
自分の体を変換できるものは曇りの日に敬礼をしたのち、次々上空目がけて跳び上がる
先から体調の悪い雪の日はというと、嵐の日がちゃんと抱きかかえ彼の能力でヘリに乗り込んだ
そして最後に残った晴れの日と、雷火の日
「・・・二人も早く行け」
「曇り・・・ありがとう」
「・・・行きましょう晴れの日。曇り、お世話になったわねこれまで」
雷火の日に捕まり、ヘリまで向かう彼ら
その姿を見届けた曇りの日は煙草を口から離し、靴で踏みつけ消火する
「・・・ターゲット補足。攻撃を開始」
「・・・声まで同じとはな。ま、お前らにはあいつと決定的に違うな・・・アイツほど、強くないッ!!」
彼の全身は薄い
そして向こう側が見えている。そう、彼は・・・煙の能力使いの変革者曇りの日は
制約なしで無理やり能力を発動し、一度きりの最大出力で超高濃度の毒ガスを辺り一面にまき散らす
それは、ふれるだけで腐敗し、匂いを嗅いだ時には絶命する毒だ
当然・・・吸い込んだ晴れの日のクローンは一瞬のうちに原型をも残さず塵と化す
「ふう・・・やれやれ、やけに今夜は晴れていて星がきれいだな」
そして、彼もまた夜空へと・・・
Episode2~煮え湯を飲まされる~ これにて幕引き