其ノ二十
其ノ二十
2人の決死の戦いの最中、晴れの日は一人、行く先も分からずただ走り続けていた
「お、おいアイツも侵入者か・・・?」
「どのみちアナザーの証明書がねぇ!やっちまえ!」
幅三メートルもない狭い通路で二人組の敵と遭遇した晴れの日はゆっくりと紅銃を握りしめ指を引き金にかける
「世界最強のこのナイフ!きれないものはねぇぜ!」
「・・・当たらなきゃ意味ないだろ」
一人がナイフを振り上げて体を大きく開きながら突っ込んでくる
晴れの日は冷静に周囲の状況と敵の動きを読み、紅銃で左足の太ももを狙い撃ち、大きく焼き貫く
急に足を狙われてはバランスが保てず、敵は体制が左に傾く。その瞬間晴れの日の熱を帯びた蹴り上げが顎に決まり、敵は糸の切れた人形の様に崩れる
「こい・・・つ化け物か!?」
「化け物・・・そうかもな!」
敵が何か制約を払おうとしたがそれより早く晴れの日の放った熱線が彼の息の根を止めた
静かになったその場で晴れの日は紅銃をおろしどことなく虚空を見つめる
「俺の・・・生きてる意味って・・・」
『・・・そんなもの誰にもわからないさ』
「デュラハン。俺は最強になりたい。でもこれは俺じゃなくて俺を作った奴らがそう思うように仕向けたから、だ。俺自身の意志じゃない」
何も言い返せないデュラハン
しかし晴れの日はそれを責めたりはしない。自分でも意地の悪い質問をしたと思うがそんなことを考える自分の意志もまた自分の物ではないのかと考え始めたところで思考を止めた
「今は・・・独りになれる場所を探そう」
再び駆け出す晴れの日のすぐ真上、地上では
「時間押してない!?大丈夫なの!?」
「姫・・・信じるしかない、よっ!」
2人して大技を連発し続けるがそれでもやはりアナザーの数は減る由もない
恐らくこの研究所はとても重要なのだろう。戦力の大きさを疑いたくもなる敵の数と予定から少し遅い時間になっても戻らない彼らに徐々に不安が募る
「雪と嵐が反対側でほとんど食い止めてくれてるからこっちもしっかり防がないと中に入れるのは不味い・・・!」
「OKデ・・・スっ」
「お、おい大丈夫か雪!」
珍しく雪の日が立ち眩む
そのからだを嵐の日がしっかりと支えるも、そのせいで隙が生まれる
「戦場でしゃがむのはあぶねーぞお前さん達!」
2人を狙う敵にいち早く気が付いた雷雨の日が大太刀で一掃してくれた。だが、その額にはすでに一本の血の道が
「申し訳ないデス・・・少し目眩が・・・」
「珍しいなお前がそんなこと言うなんて・・・まだ戦えるか?」
「もちろんデス」
その言葉とどうじに周囲の数十人を凍らせて砕く
それをみた嵐の日は何故か少し悲しそうな目をしてから再び制約を払い今割れた氷を弾にして敵を撃ち貫き続ける
『風花ねーちゃ、圧されてる・・・かも・・・!』
「みたいだ・・・くそっまだなのか!?」
そろそろ圧され始めた彼らの額に冷や汗が垂れたその時、まるで火山が噴火でもするかのように地面が大きくせりあがり、地響きが敵味方問わず周辺を襲う
「この肌がびりびりびり~ってする感じ・・・かみなり!?」
「霧の能力・・・ッまずい!全員離れろ!」
雷の日の言葉をしっかりと聞き届けた天候荘のメンバーは一瞬でその場から退避し、残されたアナザーたちはなすすべなくせりあがった地面から空に向かって上る龍の雷に飲まれ、焼き焦げた
しかし、その中に一つ見知った人影が・・・
「あぁぁぁぁああぁぁぁッ・・・!」
「この声・・・雷火ちゃん!?」
雷火の日、だ
地下での戦闘に終止符が打たれたのか、地面から這い出てきたのは雷と、それから雷火の日だった
幸いにも、なんとかガードしていたようで意識までは手放していないがもし彼女が雷の日の雷で耐性を作っておかなければ即死していただろう
「雷雨!ツンデレちゃんを!」
月が出て能力が使えるようになった白露の日が今空に昇った雷をその手で受け止め力を受けようとする中、打ち上げられた雷火の日を助けるよう雷雨の日に叫ぶ
だが、彼女はまだ戦える
「ま・・・ちなさ・・・い!まだ、やれるわ・・・!」
空中で一回転した雷火の日は肩で息をしながらも宙に浮き、穴から這い出てくる霧を待ち構える
「その小娘・・・中々鍛えられてますね・・・久しぶりですよ・・・血を流すのは・・・!」
現れたのは額から血を流し、服も所々切れている霧だ
肩で、とまではいかないものの呼吸が大きく乱れている。彼は白雨よりも上位の実力者だというのにここまで怪我を負わせた雷火の日も相当に腕を上げたのだろう
「しかもまさか敵陣のど真ん中とは・・・まぁ、もうすぐ四皇帝も着くことだし、いいでしょう」
「え・・・四皇帝ですか!?」
「落ち着いてクダサイ霖。もうすぐ晴れを連れて戻ってきます・・・ヨ」
再びふらつく雪の日。今度は嵐の日の手も間に合わずその場に座り込む
「お、おい!」
「信じ・・・ましょウ・・・」
当然、先の地鳴りは晴れの日にも聞こえていた
「この音・・・出口が出来たかもしれねーな」
音のした方へ走り出した晴れの日は空気がピリピリとくすぐったいことに気が付いた
全身にまとわりつくような気味の悪い感覚に嫌気がさしながらも出口目指して走り続ける
『今向かってる先には恐らく霧というやつとお主の帰りを待つ天候荘のみなが居るぞ』
「・・・知ったことかよ!俺は・・・独りだっての!」
光が見えてきた
この先に出口があるという確たる証拠である月の光に何の感情も抱かず彼はただただその場に向かって走り続ける、はずだったが
そこに一人、彼の行く手を阻むものが
「・・・よう、元気そうじゃねぇか」
「雨・・・」
汗と返り血で汚れている雨の日だが晴れの日が彼の名前を呼ぶと同時に彼は自身の能力で体に付着する水分という水分を弾き、回る髪すらも整える
そして肩を一回しして上にあいた大きな穴から空を見上げる
「この上じゃ今、雷火と霧が戦ってる。他の奴らも加勢しちゃぁ居るが正直周りの雑魚が邪魔過ぎてほぼサシでやりあってる」
「・・・それがどうかしたのか?」
「・・・助ける、か?」
「・・・俺はクローンで、心だってない。それに俺は天候荘を抜ける。助ける義理はない!」
ハッキリと言い切ったその瞬間、雨の日が晴れの日の胸ぐらを掴み壁にたたきつける
その時晴れの日の腰のホルスターから紅銃が音を立って落ちた
「その台詞。上でもっかい言えよ。そしたら俺も誰も文句言わず消えてやらぁ」
「・・・あぁ、言ってやるよ」
パッと胸ぐらを掴む手に込めた力を抜き、晴れの日は首元を直す
そして、2人の頭上に大きく口を開けた天井に跳び上がり、実に久しぶりな日光に目がくらむ
「・・・俺は加勢に行く。テメェはどうするのか、自分の心に聞いてみな」
『・・・我は何も言わぬ。全てお主に委ねよう』
光に慣れ、開いた瞼
そこに映ったのは肩で息をし、額から血を流しフラフラになりながらもそれでも晴れの日を助けるために警棒を構える雷火の日の姿
皆が、霧の猛攻に耐え忍びながらも道を作り、仲間を思うその姿
「・・・俺、は」
霧の雷が雷火の日を捉えるその瞬間雨の日の防御壁が間に合いなんとか難を逃れるがそれでも一時の気休めにしかならない
彼の猛攻はまさに天災。次々と降る槍のような雷に苦戦する仲間達
「クローンで、人間じゃ・・・」
誰もが晴れの日の救出成功を信じ、自分の持てる力全てをここに注いでいる
と、雷火の日が動いた
これまで防戦一方だった中、一瞬の隙を見つけ無謀にも思える動きで霧の目の前に滑り込む
だが、霧は体術もそれなりに極めているようで振り上げられた足を半身捻りで避け、空いた体にけりを見舞う
「いっつ・・・!?こいつ・・・化け物なのかしら!!」
「化け物とは失礼な・・・私はボスによってつくられたいわば改造人間。無尽蔵な体力にずば抜けた運動能力。まさに完璧な存在!」
「・・・それを化け物と言うのよ」
敵前で腹を抱え蹲る雷火の日に霧が徐々に歩み寄り片手でサイドテールを握り彼女の体を持ち上げる
当然、頭皮が引かれ雷火の日の顔が激痛にゆがむ
「うるさい小娘だ。死ね」
逆手でコメカミに指を持って行ったその時・・・
「熱ッ・・・この能力・・・まさか!?」
頬を掠めた熱線に思わず雷火の日を掴む手が離れる。そして熱で焼き切れた頬を撫でながら発射方向を見る
その先には、紅色の銃口から煙を立たせ、怒りと希望に満ちた目をした男の姿が月明かりの中立っていた