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変革者  作者: 雨の日
EpisodeⅡ~煮え湯を飲まされる~
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其ノ十九

其ノ十九



「ほら・・・撃てよ。そのために来たんだろ?」


「・・・いや、一服したい気分だ」


曇りの日は銃口を上に向け、胸ポケットから煙草を取り出し咥え、火を付ける

口の中から白い煙が吐きだされ煙草独特のにおいが鼻を突く

それと同時に、苦い顔で曇りの日の吐きだす煙に耐える晴れの日をつなぐ鎖が突然じゅぅと音を立てて溶け始めたのだ

まるで、酸でも浴びるかのように蒸気を出しながら


『これは・・・強酸!?』


デュラハンもいち早くその事実に気が付いたようだ

強酸が徐々に晴れの日の元に迫るのを感じ、恐怖よりまず疑問が浮かぶ

だがその答えは見張りのあわただしい言動で答えが導かれる


「ちょ、鎖を溶かしたりなんかしたら脱走されちゃいますよ!?」


「そうかもな・・・さぁ両手を頭の後ろで組め!もちろん声を出すなよ?」


今まで銃口を晴れの日に向けていたが突如としてみはりに向け、両手を上げさせる


「まさかお前・・・うらぎ」


「黙れと言っただろう」


紅銃が見張りの頭部に振り下ろされる。ガツンと鈍い音が響き見張りはフラフラと千鳥足になりながらその場に倒れ込み白目を向いて動かなくなった

その一部始終を見た晴れの日は思わず口が開いたまま閉じない


『・・・晴れの日、鎖が溶けるぞ』


「え・・・あ、おう・・・」


腕に強酸が着くその寸前、突然鎖の溶解が止まり、晴れの日は鎖の呪縛から解き放たれる

と、自由になった手首を摩り首を回しているうちに今度は檻が溶け始める

それと同時に曇りの日が顔を寄せ晴れの日に向かって手招きする


「・・・なんだよ」


「ここの階段を上がりすぐ左に曲がれ。そのまま四つ目の部屋まで走ってドアの前で待機していろ。おそらく雨さんと雷火が来るだろう。いいか、すでに外は戦場だ。だが無理に戦おうとするな。今は逃げ切ることだけを考えろ」


目に光を宿さない晴れの日に向かって答える間も与えず一方的に話しかける曇りの日

さらに、溶けた檻から紅銃を晴れの日の手にしっかりと握らせる

状況が飲み込めない晴れの日はどこか地に足が着かない気持ちのまま紅銃を握りゆっくりと曇りの日の顔を見る


「それと、恐らく霧はこの施設にいる。だが四皇帝は今はいない・・・この好機をのが・・・どうした、何か俺の顔についているのか?」


視線に違和感を感じた曇りの日が怪訝な顔で尋ねる


「あ、いや・・・だって・・・曇りは・・・」


『裏切ってなどいない。成るほど、そういう意味か』


デュラハンはどうやら現状が理解できたようで晴れの日の中で高笑いをし始めた

その声は、無論曇りの日にも聞こえる


「・・・そうだ。黙っていて済まない。なにせ極秘任務でな」


「・・・二重、スパイッ」


天候組屈指の指折り戦士が二重スパイ。考えてみればあり得ない話でもない

当然、助けを呼んでくれた事や味方であったことに感謝すべきなのだろうが、晴れの日が最初に言いだしたことは全くの別の事だった


「曇りッ・・・なぜ俺がクローンだって知ってて言わなかった!!」


「ッ・・・言い訳になるが俺はあくまで二重スパイ。あまり多くは語れない立場だったからな」


「んなこと知るか!!俺はっ・・・俺、は・・・ちきしょぉッ知ってりゃ俺は・・・こんな想い・・・!!」


胸ぐらを掴み前後に揺すりずるずると足の力がなくなりその場に座り込む

何か励ましの言葉を贈りたいと考える曇りの日だが、今自分がなにをしても逆効果でしかないことを重々承知しているので、彼はあえて何も言わず、現状を伝えた


「時間がない。下手に霧に気が付かれる前にある程度脱出しておきたいんだ。奴は・・・厄介だ」


「・・・あぁ」


零れる涙を裾で拭き、曇りの日に目を合わせることなく紅銃を構え階段を上る

その数段後から周囲に警戒し、合流ポイントまでの護衛を果たそうと歩みを揃える曇りの日だが、少し行ったところで晴れの日が急に振り返り睨みつける


「俺は一人で行く」


「お、おい何を急に!!」


「まず!俺はまだあんたが二重スパイだという証拠を得ていない。それと・・・俺に帰る家はもうない」


『お、おい早まるな・・・クローンだからか!?ならばそんな事気にするでない!我はお主の人間らしいところをたくさん知っているぞ・・・!』


「デュラハン。今は黙っていてほしい・・・曇り、俺は一人で行く。合流ポイントには曇り一人で行ってくれ」


紅銃を構える

それに、今までならば晴れの日は敬語主体で話してきたのにも関わらず突然口調が変わった

これも、クローンである事実を知ったが故の心の不安定さからくるものなのだろうか


「帰る家ならあるだろう・・・天候荘だ・・・!」


「家じゃない。俺は・・・独りだ」


引き金が弾かれ、紅銃から飛び出す高濃度の熱線

それは曇りの日でなくそのすぐ横の壁に当たり一瞬にして数メートルは溶かした

その影響で曇りの日は一瞬視界が奪われ、その隙に晴れの日は姿をくらました


「ごほっごほっ・・・不味い、どこへ行った・・・!もし霧に見つかれば・・・ッ」


晴れの日を救出できなければこの作戦に何の意味もない

曇りの日は長い間アナザーに潜入していたからこそ、アナザーの戦闘員のレベルの高さと危険性について詳しいのだ

それ故、晴れの日の行動の危険性に冷や汗が止まらず、緊急通信用の端末を起動し雨の日につなぐ


「雨さん・・・俺だ。問題発生だ。晴れの奴自分の正体しって天候荘には戻らないと言い始めて姿を消しやがった・・・急いで見つけよう・・・霧に見つかるわけにはいかない!!」








「おう・・・了解した。あぁ、大丈夫だ任せとけ。おう、お前もきーつけろ!」


「天パ皇子、なにか問題かしら」


端末を右足のポケットにしまいふぅっとため息をついて横目で雷火の日に現状を報告した


「・・・晴れの奴、どっか行きやがった。俺らとは一緒にいれないってさ」


「クローン、だから・・・」


視線を落とす雷火の日の頭を無言でワシャワシャとかき乱す雨の日だが、その眼は少し哀愁が伺える

やはり真実を伝えるべきかで相当悩んでいたようだ。それが解決し、喜べない方向に転んでしまったことが悲しいのだ


「今は曇りの奴が探してる。俺らはこのあたりの奴ら一掃してから探し始めよう。霧に見つかるとやばい」


「その、霧ってやつの強さはどれくらいなのかしら」


「・・・能力は雷の形質操作バージョン。強さで言えば白雨以上だ」


白雨。過去戦ってきた変革者の中で雷火の日が一番の強敵と思ったその人物より強い存在が今晴れの日を狙っている

それをしった彼女は当然落ち着いて居られるわけがない


「・・・早く晴れの日を探しに行きましょう!!」


雨の日の言葉をもう忘れたのか敵を掃討することなど頭の片隅にすら残っておらず一目散に駆け出す

当然、その足音は潜入の時には気をつけるべき音源だというのにどたどたと鳴り響く


「だからまずは・・・っておい!雷火!!」


雨の日の呼び止めにも一切耳を貸さない

さらに、運悪くそれが敵に聞こえたのだろう


「居たぞ!侵入者をコロせぇ!!逃げた女も追いかけろっ」


「あぁー・・・もうっ!めんどくせぇなオイ!!」


薙刀を生み出し、来る敵を切り伏せにかかる雨の日

そのはるか先、雷火の日の元にもすでに敵が彼女を取り囲んでいた


「・・・邪魔しないで」


「侵入者は・・・殺す!!」


敵が手にしたハンドガンが雷火の日目がけて発砲される

一直線に眉間目がけて放たれた弾丸。だが、まるでそれを予期していたかのように雷火の日は数センチ顔を傾けるだけで銃弾を避ける


「・・・はぁ!?」


「無想・・・知らないの?あんたたちの攻撃は一切当たらないわ」


無想

生物に備わっている防衛本能の一つに反射と言う物がある。熱いものに触れると一瞬で手を引っ込めるアレだ

しかしそれは本来人が生きる上で発動条件が色々と厳しく思うように反射されない

そこで生み出されたのが無想

あえて体を無防備にし、何も考えない。そうすることでたとえ虫が体当たりして来ようと反射が発生し、驚異的な回避性能を一時的に得られるのだ


「回避系能力かよ・・・くそっなら全員一斉にっ」


「違う。それに遅いわ」


敵が共に来たはずの仲間に号令をかけるより早く、雷火の日は自分にかかる重力を操作し、蝶のように舞い、蜂のように刺し、まさに一瞬のうちに全員の意識を狩り取この場を収めたのだ

返り血が服に跳ぶ


「・・・汚れちゃった。まぁいいか・・・それよりあのバカはどこに・・・!」


雨の日が騒ぎを聞いて集まる敵を全て相手しているうちに雷火の日は晴れの日を探すために駆け出す。しかしどこに行ったのか見当がつかないことはおろか、この施設内の構造がよくわからない

侵入者対策か、入り組んだ構造になっていて今通った道が初めてなのかそうでないのかさえもよくわからない


「・・・侵入者、か。まぁ私に出会ったのが運の尽きですね」


真っ白なスーツに白いハット帽

いかにも気取った男性がイギリス紳士を彷彿させる立ち振る舞いで姿を現した


「・・・一度見ただけだけれど覚えているわよ。霧、でしょ」


「ご名答・・・とか話しているうちに増援に来られても迷惑ですし、さっさと殺しますね」


頭も中々にキレるようで下手な時間稼ぎには期待でき無さそうだ

言葉をそれだけ言い終えるとコメカミを右手の中指で軽く小突く。その瞬間、これまで何度も見たことのある雷がまっすぐに雷火の日目がけて襲い掛かる


「雷様と同じ・・・っ」


「少し、違いますけどね」


霧の能力は静電気を操り、雷にすることの形質を操作できる能力

形を持つ雷とは想像しにくいだろうが、もし自由に形を持つ雷があるとすればそれはこの地球上でも指折りの兵器になりえるのだ


「鳩!?」


次に霧が放ったのは鳩の形を模した雷。不規則にフワフワと飛びながら襲いくる脅威に一瞬足がすくみかける

だが、心持で負けては勝負にすらならないことを一年の修行で学んだ彼女は自分を奮い立たせ背面跳びの要領で飛び越える


「ほほぉ・・・これは少し手間取りそうですね」


「個人的に恨みはないけど・・・邪魔だから死んでちょうだい」

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