第十六話
第十六話
「逃げるわよ!こっちに来てる!!」
「だー!分かってる」
美咲は宙に浮き一目散に真っすぐ落下していく。途中木の枝に引っかかりはしないのかと思ったがどうやら全てへし折っているようだ
なんとも荒々しい・・・
だがそんなことに気を取られている場合ではない
「っと、俺も走らなきゃ!」
「見つけた!悪いけど試験にゃからって手加減はしにゃいわ!」
「げっ!?って猫?!」
どうやら女性のようだ。だがなぜか猫耳に猫しっぽでコスプレを極めている
だがやはりそんなことを気にもしてられない
雄太はまず直ぐ先にある岩に足をかけ、そのまま木の上に跳びあがる
さらに枝から枝に飛び移り、まるで忍者の様な動きでうっそうとするこの森で軽快に動く
これには着いてこれまいと雄太はたかをくくったが、直ぐ後ろから雄太の立てる音と殆ど同じ様な足音が聴こえる
「フリーランニング旨いじゃない、でもまだ細部が荒いわっ!」
「やっぱだめか!?」
どうやら先生の方が1枚上手らしい
雄太の動きをさらに昇華させた凄技連発。さらにさりげなく木々を何らかの能力で切り裂いている
その音は徐々に徐々に近づいてくる
そこで雄太は後ろでなく前方からある音が聴こえた
水・・・それも滝の音だ
「くそう!せめて滝に飛び込めれば・・・!」
雄太は目一杯足に力を込めて木を蹴り、大地に足を付ける
鬼も同じく木から飛び降りる
銃を取り出して目の前の草木を溶かして進み、なんとか全力疾走ができるようにしていく
「右・・・いや左!!」
目の前の木を上手く右足でけり、ターンして左に身を翻す
しかし鬼も負けじと猫さながらの身のこなしの軽さで向きを変え、まったく速度を落とさずに追いかけてくる
このまま走り続ければ追い付かれることは確実。もし仮に逃げられても美咲と離れすぎている。このままだとペナルティの音が新たな鬼を呼びつけてしまうだろう
「あぁもう!これで少しは遅くなってくれ!」
神に祈り藁にでもすがる気持ちで前方に生える木の根元すべてに熱線を打ち込み道をふさぎにかかる
気が倒れきる前に雄太が滑り込み、倒れる木が雄太の通ってきた道を両断していく
それも何本も何本も木を倒す
正直、迂回すらできないほど道を覆い、教官であれ追跡が困難かと思った矢先
「ふっふっふ。にゃめるなぁ!」
鬼は能力を使用したのだ
どんな能力かまでは一目ではわからないが
気が粉々に切り裂かれ、その余波と思われる突風が雄太を背後から襲う
何事かと振り返ればまるで紙ふぶきに包まれたかのように木片を飛び散らかした鬼が立っていた
口角を上げどこか楽しげなその様子はまさしく鬼そのものに見えたのだ
「マジか。オワタやん・・・いや、まだだ!!」
諦めも肝心。と誰かが言った
だが雄太は、あの大先生の言葉を信じることにした
――諦めたらそこで試合終了
再び走りだし前方にひたすらに銃の引き金を引きまくる
そして草木を溶かして溶かしまくる
走って、逃げて、溶かして、逃げる
「諦めたら・・・そこで・・・試合終了ですよぉぉぉ!!」
「にゃにを突然・・・にゃつっ!」
後ろで溶かした葉に触れた鬼が一瞬足を止めた
鳴き声まで猫とはよほどキャラに入り込んでいるらしい
だがそれを確認できる程の余裕もない雄太は振り返りもせず走り、なんとか奇跡的に森を抜ける事ができた
そこは思い通り滝だった
だが、つり橋でもあった
そう、雄太が辿りついたのはよくある感じのベタなつり橋と滝だ
「げっ・・・」
ここで失速してしまったが幸い鬼はまだ来ない
渡るべきか悩む雄太
しかしその時救いの声が
「ボーっとしてないでそっから飛び降りなさい!後はわたしがなんとかするから!」
美咲の声だ
どうやら見捨てた訳ではなかったらしい
姿は見えないが声ははっきりと聞こえる
雄太は美咲の言葉を信じ、崖の淵に立つ
その瞬間背後から鬼が追いついてきて雄太に手を伸ばしていた
「早く!」
美咲の声で決心して跳んだ
結果として雄太は鬼にタッチされる事は無かったのだ
「にゃー!!飛んだぁ!?」
空をつかんだ鬼の声だけが雄太の耳にかすかに届いた
が、落下のせいで半ばパニックだ
「これを持ちなさい!」
落下中、美咲が現れた
原理は重力操作だろうが完全に宙に浮いている
そして手渡される警棒を慌てて両手でしっかりとにぎる
美咲は雄太が警棒を握るのをしっかり確認し、能力を発動させる
「ぐぎっ!?」
突然雄太の落下が緩やかになった
どうやら警棒にかかる重力の向きを上向きに変えたのだろう
しかし、急激な勢いの変化に雄太の肩は少しばかり嫌な音を立てたのだった
「助けてあげただけありがたいでしょ」
「その言葉、なかったら普通に感謝してたぜ・・・」