其ノ十七
其ノ十七
「今回の作戦は晴れの日の救出を最優先とする!別件で任務中だった雪の日と嵐の日にはすでに現地に向かってもらい、俺達の到着に合わせて別の切り口から攻略してもらう!」
晴れの日奪還作戦の開始、時刻は午後二時。秋ゆえに太陽も若干明るさを変え、夕焼けの準備をもう始めようとしていた
そんな中、全天候祭会場の島のはずれにあるヘリポートに今回の作戦参加者が集い、作戦の指揮を雷の日から受けている
「今回は突入班と救出班、それから周りのアナザーの掃討担当の班に分ける!まず突入班、霖の日、白露の日、玉霰の日、風花の日、天泣の日。それから現地の偽物妖精の合計七人!君たちには救出班の道を作ってほしい!」
「了解ですです」
「あいよ、暴れさせてもらいやすぜ?」
「建物全部ぶっこわしたっていいからね。それと救出班!これには雷火の日、霙の日、雨の日、雷雨の日に頼む」
「まぁ、俺はこれがメインで来たようなものだもんな」
「おい雷雨、あんまし口滑らせてっと何起きるかわかんねーぞ。まだそれは内緒だ」
雷雨の日と雨の日の関係は子弟というより父親と反抗期の息子に近い、と皆は認識しており、能天気かつ豪快な雷雨の日の言動を鬱陶しく思う雨の日が制す、そんな構図だ
「・・・そのことについては追々話すとして、最後の掃討担当には俺と風の日で臨む。以上、質問は?」
「・・・雷様、晴れの日は生きてますよね?」
雷火の日の不安げなまなざしを受けた雷の日だが、いつも見せる優しさに溢れた笑顔でこう答えた
「大丈夫。絶対に助けられるさ」
「うーい、そろそろ行くぞ。ヘリ何台かにわけっから班ごとに乗ってくれ」
腕時計を確認し、雨の日が搭乗を促す
各々、自分たちの班のメンバーと共に搭乗し、頭にヘッドセットを着ける
そして最後に雷火の日は天候荘のある方角を振り返り、小さく呟いた
「・・・絶対、晴れの日を連れて戻る。絶対に」
「おい雷火、早く乗れっての」
「五月蠅い天パ皇子」
雨の日の言葉を右から左に受け流し、乗り込んだ
『ツンデレちゃんもいちおー狙われてるんだから無茶はだめだかんね・・・?』
この間は真面目な話で口調がおとなしかったくせに、今は前と同様女子高校生の様な軽い口調に戻っている
まぁあまり細かいことを言ってやることでもないので気に留めず、そんなことを考えている余裕が自分に、おもわず笑みが漏れた雷火の日
「お前さん、随分と心持がいいじゃねーか。やけに張り切っちゃってよぉ・・・もしかして晴れの日の、コレか?」
腕を組んで小雷火の日の前の席に座り小指を立てる雷雨の日がにやにやと話しかけてきた
「違うわよ!アイツはただのパートナー!!あ、だからってあのダサいコンビ名で呼んだら承知しないからそのつもりで」
「へいへいっと・・・」
口をすぼめおとなしく口をふさいだ雷雨の日は雨の日と救出の算段を考え始めた
話している内容があまりに細かすぎて、雷火の日には理解できないが、よほど真剣に考えているのだろう。潜入のスペシャリストの霙の日でさえ、感心の眼差しを送っている
「ツンデレちゃん、落ち着いてる・・・?」
「霙、わたしはいつでも落ち着いてるわ」
「そっか。ならよかった!」
霙の日は励ましてくれたのだろう
無理しなくていいよ、強がらないで。本当はそういいたかったはずだ
だが、雷火の日のあまりにもまっすぐなその眼に覚悟を感じ、それ以上の言及は控えておくことにしたのだ
「・・・どうやって助け出すの」
「雷火ちゃん、もう少しだけ待ってもらってもいいかな・・・理由も何も、今は話せないけど、大丈夫だから」
緊張感を持たせるかのような落ち着いた声が装着したヘッドセットを通じて聞こえてくる
その言葉の根拠を問いただしたくもあったが、これまで雷の日の言葉が間違ったためしはない。ここは彼を信じることにしようと大きく息を吐き背もたれに頭を預ける
「・・・各班に連絡。到着まではもう少しかかる。それから、到着後は上空より飛び降りるのでそのつもりで!」
飛び降りるとは言ったもののこれは比喩でなく正直に飛び降りるのだ
変革者だからこそできる奇襲であり、豪快な技。当然飛行能力のない変革者も居るがそこは他の者たちの手腕。安全かつ素早く上空からの潜入が可能となる
作戦の練り合わせが各ヘリコプターで繰り広げたて、揺れるヘリコプターの中雷火の日は気を落ち着かせ奪還への思いを強く高めるのだった
「・・・俺は人間じゃぁねぇのか・・・いや、どのみち変革者でもねぇか」
『・・・すまない』
檻の中、鎖につながれた体をピクリとも動かさず虚脱した中独り言のように自分の存在についてを考えては諦め考えては諦めを繰り返している
デュラハンでさえ、伝えるべきではなかったのかと反省しているのが声色から感じられた
「お前が謝ることじゃない・・・もちろん、誰も悪くない・・・アナザー以外はっ」
じゃらっと鎖が張られ壁から埃が舞い落ちる
その急な振動に驚いた監視が若干腰を浮かしたが晴れの日の目には人たりとも映っていなかった
「なぁデュラハン教えてくれ。俺が思い、感じ、見て、学んだことは全て・・・奴らの思う通りなのか・・・?」
いつもならデュラハンからの返事が早いはずだというのに不自然な間が生ま檻の中に沈黙が顔を見せる
だが、それも数十秒たった頃にデュラハンが口を開いたことにより打ち破られた
『・・・すまない、そうだと言いきりたい気持ちがあるがそれを断言できる物証、ない』
「そうか・・・そうだよなぁ・・・ははっ・・・はははははははっ」
気が狂ったようにも思えるがクローンの製造段階で狂うことはまずない
晴れの日というクローンプロジェクトの恐ろしさは人として生かし物として管理するところにあるのだろう
これがその現状。魂の抜けた人形の様に目に光は無く、体に力が漲ることもない
と、その時階段を駆け下りる足音が一つ
「曇りさん、どうかされましたか!?」
黒いコートに黒ジーパン、全身黒でコーディネートされたいかつい男曇りの日の登場に晴れの日の眉がピクリと反応するがその体が動きだしはしない
見張りは曇りの日が階段を駆け下りてきたことになにかの事態を想定し慌てて駆け寄る
「・・・No.75に異常はないか?天候荘の奴らがもう直にここに来る」
「や、奴らがですか!?なぜここがばれっ・・・いやそんなことよりNo.75に異常はありません!このまま鎖でつないで別の研究施設に移りましょう!」
「その前に、No.75の押収品はどこだ」
ここです。と鍵のかかった机の中には晴れの日の信頼できる武器、紅銃が包装されて現れたのだ
司会の端でそれを捉えた晴れの日はゆっくりと生気のない顔を上げてその銃を確認しハッキリと自分のものだと理解した
だがそれと同時にその銃が自分に向けられている事にも気が付いた
「ちょ、ちょっと曇りさん!いくらあなたでもそんなことすればボスに殺されますよ!?」
紅銃を取り出した曇りの日がとった行動。それは紅銃の銃口を檻の中に晴れの日の眉間に構える事
デュラハンの入ったままの晴れの日を殺せばどうなるのかは分からないが、少なくともボスには怒られるのだろう。見張りの青年がかなり怯えている
「・・・曇り、俺はな、クローンだぜ。銃なんかじゃ死なないように作ってあるのが関の山ってやつだ」
「ほう・・・過去の思いではないくせに一般教養は入れられているんだな。驚いた」
両者がにらみ合い、火花を散らす中
ようやく研究所上空に全てのヘリコプターがそろい、全員が飛び込む待機を済ませている
「さてさて兄ちゃん。僕たち久しぶりの登場ですネ」
「ふん。前みたいに派手に登場してやろーぜ」
真っ白な髪に異人であることを示すかのような主張的な瞳の色
辺りの気温がさがり、風が吹き荒れ始める
上空
「それじゃぁ・・・みんなこっからは戦闘開始だ!いい?絶対晴れの日を救出するよ・・・!雨!カウントダウンを!」
飛び降りるにはヘッドセットを外さなければならない。だが風も強いし何よりプロペラの駆動音がうるさすぎるので飛び降りるタイミングは雨の日の水による視覚的な合図となる
「OK・・・さぁいくぞ野郎ども!!」
3・・・2・・・1
水が数字をかたどり、そしてついに0となる
一斉に各々好きな跳び方でヘリコプターからアナザーの研究所目がけて飛び掛かる
そう・・・これから
「晴れの日救出作戦・・・開始ィィィ!!」