其ノ十四
其ノ十四
「シルヴァの声、聞こえたの・・・?」
これまで雷火の日以外の誰かが聞こえたことのないシルヴァの声が風花の日と天泣の日にも聞こえた
その事実が何を示すのかを、シルヴァはすぐに理解し現状がいかに緊急事態であるのかも、理解した
『・・・なぜ彼が連れていかれたのか、わかった。ウチらの目覚めが近いんだ』
「シルヴァ?」
「・・・変な感じだ。ツンデレちゃんの中から直接脳内に響くような、そんな感じの声」
念話が出来る変革者の能力を借りたことがある風花の日でも、脳内に響くシルヴァの声は初めて経験するもので、若干の悪寒を禁じ得ない
『ねぇ、みんなが居る所へ案内して。ウチらの正体と存在の意味、ようやく話せるから』
「いつになく真面目なトーンね。でも悪いけど今は晴れの日を助けるのが先なの」
「いや、ツンデレちゃん。どっちも平行に進めて大丈夫そーだ」
その言葉が言い終わると同時に医務室のテントの入り口から雷の日を筆頭に天候組及び荒天組の面々が勢ぞろいしてその顔に笑みや余裕は見えない
「・・・雷火ちゃん、目が覚めたところで申し訳ないんだけどシルヴァと話がしたい。もちろん、晴れの事もなんとかする。けど順番ってものがあるんだ、分かってくれるかな・・・?」
いつになく命令に近い物言いに雷火の日は不安に心が覆われそうになったがこれまでの経験と信頼から小さく頷く
シルヴァの声が皆に聞こえるようになった今、体を貸す必要はないだろう。雷火の日も会に参加しつつ皆の注目が集まる中ゆっくりとシルヴァが話始めた
『まず、ウチが変革者ってところからきちんと話すね・・・ウチは』
一陣の風が冷たい秋の風にいつ変わったのだろう
紅葉したのはいつだったか
世界が変わったとしてもじっくり観察し続けなければ気が付かない小さな変化。だがちりも積もれば山となるのだ
物語は、最期の山を紅き血によって紅葉させようというのだろうか・・・
「・・・出せよ!!おい!聞こえてんだろ!!」
出口のない檻に閉じ込められて暴れれば眠らされる。そんな時間が幾度となく続いた
見張りも、最初の方はいつか突発的に鎖が切れたりしないかと不安そうにちらちらと中を除いたりしていた者の、今となってはその叫び声を遮断するためイヤフォンで耳をふさいでいた
「ちきしょぉ・・・デュラハン、どうにか出来ないのか!?」
『済まない。我にはどうにもできそうにないのだ』
「八方ふさがりじゃねぇか・・・」
以前富士山麓で捕まった時とはわけが違う
晴れの日の為だけに作ったと言っても過言ではないその檻はいかなる自由もなく、ただじっと何かを待たされるのみだ
しかも時計の類は一切なく、現時点でどれくらい時間が経ったのか見当もつかない
「・・・元気そうじゃないか健太」
「久しぶりに客かと思えば・・・もう父親とは呼ばないぞ・・・!」
鋭い目つきで自分の思いをぶつけるも、檻をはさんで向かいに立つ不敵な男、霧はニヤリと口角を吊り上げるだけだ
そして無理やり鎖につながれている晴れの日の目の高さまで膝を折りまるで子供をあやすときのように優しく声を駆ける
「そんなに叫んでちゃ、喉壊しちゃうよ?」
「余計なお世話だ。いいからこっから出せよ!」
『・・・落ち着け。怒りは不幸な結果しか生まんぞ』
「お、デュラハンいいこと言うねぇ、そう!そうだよ!怒りなんか捨てちゃいな?」
両手を広げ、まるで狂人のように語る彼の中に晴れの日が共に過ごした父親の面影は一切残っていなかった
ただ、不思議と寂しさは感じない
「うっせぇな・・・俺を出す気がないならどっかいってくれ」
「一つ、お知らせしようかと思ってね。君の寿命が決まったよ。明日の夜8時だ。本当はもっと時間をかけるべきなんだけどねぇ・・・どうやら君のお仲間が邪魔しに来ちゃいそうだから、ね。せめてもの救いに最後の晩餐はなにがいい?可能な限りそろえて上げよう!」
寿命が決まった
いや、寿命は決まっていない。ただ、どのみち晴れの日はこのままいけば殺されるという訳だ
「最後の晩餐だと・・・へっ、ならお前らアナザー全員の魂とかもらおうか」
「・・・調子に乗るな」
霧が自分のコメカミを中指でトンと叩いたその瞬間、晴れの日の全身の欠陥を電流が流れ、内側から体が焼かれる
神経そのものを刺激されたかのような激痛に声も出ない。まさに絶叫した
「ごほっ・・・げほっ・・・くっ、げほっごほ・・・」
「お前が私を父と見ていないように、私もお前を息子として観たことは一度もない。人形の分際で・・・もう一度言う。調子に乗るなよ?」
口の中が鉄の味で満たされるのを感じながら霧の言葉が身に溶け込むように入ってき、言葉の意味を考えようと知性を働かせようとするが、暴れすぎたためか睡眠ガスが噴射され意識が徐々に薄れていった・・・