其ノ十一
其ノ十一
警棒と鎌がぶつかるたびに空気が揺れる
晴れの日の熱が風花の日を捉え皮膚を撃つ。そして腕に熱を纏い、鎌を素手で受け止めカウンターを見舞う
だが風花の日も負けてはいない。大ぶりの紫色の鎌を重さなんぞ気にもしない様子で振り回し、2人の体に紅い線を描いていく
この動作が全て秒単位以下で行われているのだ
三人とも無我を全力発動。当然観客席にも振動や風の余波が襲い掛かり、いつものような歓声は無く、真剣に勝負の行く末を見守っている
そして、十五分が経とうとしていた頃・・・ようやく戦況が動いた
「晴れの日!!そろそろ終わらせるわよ!」
「・・・いいぜ、やるか!!」
2人の疲れで乱れた呼吸が整い始め、揃い始める
もちろん、何か起こる前に止めようと風花の日が鎌を振るうが寸でのところで回避され中々妨害できない
『・・・もう少しゆっくりだ。そう、そのリズムが彼女のリズムだ。忘れるな?』
『あ、ちょーっとだけ早い!そう!そのタイミング!!いやーにしてもよく思いついたよね、こんな芸当をさ』
晴れの日の中にいるデュラハン。雷火の日の中にいるシルヴァ。共に正体不明の存在ではあるが体調や周囲の環境に何かと敏感な二人のその特異性に着目した雷火の日と晴れの日はデュラハンたちに互いの呼吸のリズムやテンポをそろえてもらい、行動のシンクロ率を上げることを可能にしたのだ
「くっ・・・まずいなこりゃ!!」
本能的に晴れの日達の雰囲気が自分にとって危険だと判断した風花の日は天泣の日の形状を大きな盾に変え、来る攻撃に備えた、のだが
「無駄だぜ風花!!俺らの攻撃は連携技に近い!盾なんか突破してやらぁぁぁっ!」
その叫びと共に熱線が放たれ、風花の日の持つ天泣の日にぶち当たる。質量を持たないはずの熱がなぜかとてつもなく重く感じる。これも雷火の日とのシンクロの影響なのだろうか
そんなことが脳裏によぎるが、両横に殺気を感じ気を引き締めとっさに回避行動をとる
『風花ねーちゃ!前!』
「くそつ、今のもフェイクだったんか!」
今両横に立っていたのは雷火の日と晴れの日。雷火の日の拳と晴れの日の熱の拳がつい先まで風花の日の立っていた場所を捉えていたが、それはトラップで風花の日が回避した先には雷火の日の警棒が
雷火の日の体組織が埋め込まれた警棒はいわば雷火の日の思うが儘に動く。つまり
「食らいなさい!!」
「誰が・・・喰らうかっての!無想!」
無我とはまた違う新たなる境地の技を発動した風花の日は雷火の日の放った遠距離操作警棒をダイナミックにのけぞって回避したが、その先には警棒を待ってましたと言わんばかりの晴れの日が飛び掛かってきた
「ナイス連携アシストだデュラハン!」
『ふっ・・・なに、これくらい容易いさ』
「ってなわけで俺たちの勝ちだな!!流石に無想でもよけらんねぇだろぉぉぉ!!」
雷火の日の警棒を手にした晴れの日はその警棒にも熱を纏わせ渾身の一撃を、無防備にのけぞっている風花の日のおでこ目がけて振り下ろし、ゴツンと鈍い音一つ立てて戦いの幕を、降ろしたのだった
「あ・・・うぅ・・・」
「風花ねーちゃ!?だいじょーぶ!?」
試合の負けを確信した天泣の日はその変身を解除し被弾場所を痛がる風花の日に寄り添い心配の眼差しを向ける
「大丈夫だっての・・・いてて・・・いやぁ負けちまったな、こりゃ」
「おう。俺たちの勝ちで良いだろ?」
倒れ込む風花の日に手を差し伸べ、その手を風花の日がつかみ立ち上がる
「ちぇっ・・・ま、あんな一撃喰らっちまったらこっちの負けだよな。いい勝負だった!お疲れさま」
「ありがとな!かなり疲れたけど、かなり楽しかった。お疲れ!」
硬く握手を交わした二人の元になんとなく不機嫌そうな雷火の日が歩み寄り、声を駆けようとしたその時だった
『・・・ッ晴れの日!!何かくるぞ!!』
「えっ・・・?」
デュラハンの悲鳴にも似た警告が響き渡りその直後、雷火の日によって突き飛ばされた晴れの日は雷火の日と共に倒れ込む
「シルヴァ!どこから!?」
シルヴァの方でも何か察知していたらしい
何故突き飛ばされたのかは分からないが緊急事態であることには変わらないだろう
晴れの日もデュラハンに尋ねる
「何が起きてる!」
『分からぬ・・・だが確かにお主を捉えようとする力を感じる・・・上と、それから、この近くに!!』
「お、おい何が起きたんだ!大丈夫か二人とも!」
状況が読み込めない風花の日が二人に尋ねるが、緊急事態につき説明している時間がない
その時、上空にヘリコプターの巨大な羽から生まれる体を吹き飛ばすほどの風圧と鼓膜を直接揺らすかのような爆音が響く
「風花ねーちゃ・・・あれって・・・!」
天泣の日でさえ、あのヘリコプターが何なのかはっきりと理解できる
この状況。天候荘以外のヘリコプター。突然の攻撃
アナザー以外の何物でもない
晴れの日と雷火の日はじっとそのヘリコプターを凝視し、デュラハンとシルヴァの警告を脳裏に思い出す
『我々二人は当然ながら人でない。それ故に』
『アナザーにいつ狙われてもおかしくないわ。二人の命を奪ってでも・・・ね』
「デュラハン、ヘリは一台か?」
力の流れや気配に敏感なデュラハンに、周囲に伏兵がいないかどうかの確認を依頼し、一瞬たりともそのヘリコプターから目を離さないように注意する
もし目を離したすきに攻撃を喰らえば回避次第では一コロだからだ
『・・・そうだな、だが厄介なことに上から感じる力は龍脈だ。おそらく、いつぞやの白雨とやらと同等かそれ以上の手練れ』
白雨。アナザーの四強、彼らなりに言えば四皇帝の一人で、元は天候荘の一員であり創始者だったがある一件を境にアナザーの一員として活動するようになった
晴れの日と雷火の日が一年間修行を積むキッカケとも言い換えることのできる人物だが、当時彼女の力は猛威でしかなく、天候荘の三強総動員でもぎりぎりの戦いだったのだ
それと同等以上の者が襲撃に来た。これは由々しき事態である
「風花、天泣、雷さん達を探してきてくれないか・・・?」
「いやいや待てよ。アイツ等がアナザーならあたしらが食い止めるべきだろ」
風花の日の言うことも正論ではあるが、この状況、素早く動ける風花の日の方が人探しには有効的だろう。もちろん、雷火の日も晴れの日に同意で、すでに警棒を構えている
『・・・相手の出方次第では退くことも考えたほーがいいからね?いくら修行したとはいえ、相手は龍脈持ち。強敵よ』
「分かってるわよ。風花、お願い。雷様を早く」
「・・・風花ねーちゃ、行こう」
「天泣・・・でもっ」
「でもじゃない!でも、だって、だからは五歳まで!ほら行くぞー!!」
「・・・良いこと言った!頼んだぞ二人とも!」
半ば強引に手を引かれた風花の日だが、晴れの日と雷火の日の熱意に負けおとなしく先から姿の見えない雷の日達を探して走り出した
と、丁度それを見計らったかのようにヘリコプターから一つ、人影が飛び出した
「俺っ参上!!」
全身に炎を纏い、真っ白なスーツに身を包んだ姿見は変な男が全天候祭の試合会場に足を着ける
しかし、それだけで肌がピリピリし始める
炎の温度もかなりのもので、数十メートル離れているというのに汗が吹き出し始める
「・・・どう考えても、アナザーよね?」
「あぁそうだぜそうだぜ!白雨と同じく四皇帝が一人!炎の森羅!以後よろしくぅ!」
真っ赤な髪を逆立たせ、指には指輪がじゃらじゃらといくつもついている。雨の日とはまた一風変わった飄々たる態度に若干の苛立ちを覚える二人だが、肌身で感じる力量の差がそれを抑え込んだ
「俺らを狙ってここまで来たんだろうな。でも悪いがそう簡単には捕まってやらねぇーぞ?」
「はっお前らが俺の相手?無理無理無理無理!白雨は倒せたかもしれねーけどアイツは甘ちゃんだしなぁ・・・天候荘襲撃~だって部隊編成30人とか馬鹿だろ、マジで!俺が兵を貸して殲滅作戦にしてやったのにそれでも失敗しやがってよぉ・・・なっさけねぇ!」
「どうかな?俺らだって一年前とはちげーぞ。案外、俺らの方が強かったりしてな。それにもうじき風花が雷さん達を連れてくるだろうよ。流石のあんたも雷さん達相手に圧勝って訳にはいかんだろ?」
炎と熱。似ているようで異なる二つの力の持ち主が火花を散らし合いお互いの手の内を探りつつ時間を稼ぐ
その時、晴れの日達の背後に気配が
『・・・なんだこの気配、不穏だ』
「どうしたデュラハン・・・?」
突如不安げな声を上げたデュラハンに晴れの日まで不安を覚えるが、背後から聞こえてきた声に振り返るとその不安は消え去りる事となる
「そいつは中々強敵だぞ。手を貸そうか?」
雷火の日、晴れの日の振り返った先には、いつもの星のマークの入った銘柄の煙草を口にくわえ煙を拭かせる曇りの日の姿が
雷の日と雨の日の姿は見えないが、それでも十分心強い味方である
「よかった・・・これでなんとかなりそうね晴れの日」
「あぁ。三人で戦えば少しは時間も稼げるはずだ!」
だが、デュラハンとシルヴァは感じることが晴れの日達とは違い、この状況がいかに最悪であるかを悟っていた
『雷火ちゃん!!曇りから離れて!!』
「え・・・?」
突然の叫びに脳の理解が遅れ、体が動かない雷火の日の腹部から鈍い音が聞こえてきた
・・・煙が、刃となって貫いている音だ
「なに・・・これ・・・っ」
その光景に目を疑った晴れの日は膝から崩れ落ちる雷火の日に向かって名を叫ぶが、声になったのかなっていないのかさえ自分では分からない。脳が追い付かない
何が起きた
ただその言葉だけが響き続ける
「・・・手ェ貸してくれんのか。そいつぁうれしいね」
先の曇りの日の言葉、晴れの日達に向けた言葉ではない
そう、森羅に向けての言葉だったのだ
「コイツらをやるには不意打ちでもしなきゃ無理だぞ」
咥えた煙草の先から昇る煙が意志を持つ生き物の様にうねり、紫色のドクドクしい色に変わっていく
雷火の日が崩れ落ち、その場に駆け付けた晴れの日は見開いた怒りの目で曇りの日を睨みつけた
「曇りぃぃぃ!何故雷火を・・・っ!!」
『落ち着け!!そう取り乱しては奴の思うつぼだぞ!!』
「デュラハンは黙ってろ!!」
気迫だけで人を殺せそうな恐ろしい声だが、それに一切の怯みを見せない曇りの日は煙草を口から外し、口から煙を吐いた
「なぜ、か・・・一々説明するのも面倒だが、要するに俺はアナザーの一員ってことだ。見れば分かることをいちいち聞くな。幼稚に見えるぞ」
「んなっ・・・!?」
信じられるはずがない
これまで天候荘の一員として励ましてくれ、力を育ててくれた曇りの日が、敵
「ふざけんな!!意味がわかんねぇよ!なんで・・・なんで・・・!!」
「しつこい。俺の今回の任務は晴れの日、お前の捕獲だ。おとなしくついてきてもらおう」
吹かした煙がは晴れの日を襲い、なすすべもなく晴れの日はその煙に包み込まれていく
紅銃を使いたいのだが、煙が邪魔をして引き金に指を掻けられない
「くそっ!なんだこの煙・・・!くっついてきやがる・・・!」
『まずいぞ!この煙、粘着性だけでなく催眠効果もある!』
「はぁ!?吸い込んだらやば・・・い・・・のか・・・」
デュラハンの警告時すでに遅く、薄れゆく意識の中、晴れの日の目が最後に捉えるのはようやく姿を現した雷の日達が雷火の日や自分に向けて何か叫んで、曇りの日に怒鳴っている光景だけだった