其ノ十
其ノ十
楽しい時と言う物程早いものはないだろう
今の晴れの日達の心境がそうだ
あっという間に試合が展開され、気が付けばもう一日目も終盤、晴れの日達の第二回戦だ
選手の控室、ふかふかの茶色いソファが二つとその間に丸机が一つ
飲み物などが自由に飲める施設になっているためドリンクバーのセットもヘヤノ隅に見える。もちろん試合前に飲み過ぎると支障をきたすので実際多様利用するものは少ないが
机には晴れの日がお茶を、雷火の日が砂糖とミルクを入れた甘いコーヒーが
「さて・・・次の相手は誰かしら、ね」
「誰が来てもぜってー勝から正直誰でもいいんだけどな!」
「もう・・・自信家なのはいいけれど、油断はダメだからね」
「わーってます、とそろそろ行くぞ」
わーっと響く大歓声の中二人の正面の壁が開く。これも変革者の何らかの能力が関わっているのだろう。壁が消えていく
「・・・お前さん達がかの有名な天照黒雷神か?」
その名を耳にした途端雷火の日が悲痛にゆがむ
またか、そう言いたげな表情だが見たところ相手は自分よりはるかに年上。それにこの場に立つには少し年が行き過ぎている気もする
全身を黒いマントで覆っており髪の毛はオールバックに白髪。うっすらとひげもみえる
身長も中々高く、180以上はあるだろうか
「そうだ! で、そっちは?」
いつもなら雨の日のアナウンスがはいるはずなのだが何故か今はアナウンスがはいらない
そのため相手の素性が何も分からないのだ
晴れの日はその男の質問に答えつつも相手の素性を尋ねる
「おぉっと失礼、名乗りが遅れたな!俺ぁ雷雨の日。お前さんたちのよく知る雨と雷の師匠ってとこだ。パートナーとかいらんので一人で出場な」
「し、師匠!?え、あの二人の!?まじ!?ってことはめっちゃ強いのか!?なるほど、それで一人ですカ」
「おおおお落ち着きなさい晴れの日!!師匠イコール強いとは限らないわ!」
両者落ち着いて居ないのだが気にしないでおこう
澄んだ目で晴れの日達のやりとりを眺める雷雨の日には昔の、まだ雷雨の日が天候荘に所属し、今のフリーマンになる前の仲のいい雷の日、雨の日、白雨の日、曇りの日のやり取りを思い出して時代の流れを感じていた
「まー俺も歳だしなぁ・・・ぶっちゃけお前さん達と戦うためだけに参戦したよーなもんなんよ?」
「な、なぜ・・・?俺ら、あったことありましたっけ??」
「いんや?でも強い奴と聞いたら戦いたい。それが男ってもんよ!だろ?」
「・・・その気持ち、ものすごくよくわかりますぜ」
「・・・あの天パ皇子の師匠が普通の人なわけないか・・・やっぱり雷様よく常識人に育ったと思うわ」
早くも雷雨の日と晴れの日は謎の意気投合。雷火の日はそれを見て呆れたため息しか出ない
だが、少し時間をかけすぎたようだ。周囲が中々始まらないことに違和感を感じ始めている
それを悟ったのか、雷雨の日の方から戦闘の準備をしてくれる
「お前さん達、もうそろそろ始めようか・・・?」
「あ、そうですね。んじゃ、本気で行きますよ・・・雷雨さんッ!!」
腰の紅銃を抜き出すと同時に前傾姿勢で突撃しそれに合わせて雷火の日も上空へと動き出す
その二人の行動をしかと視野に入れた雷雨の日はにこやかな表情を崩さぬまま迎え撃っているではないか
晴れの日が引き金を引き、ある程度熱い熱線を胸目がけて放つが、いつの間にか取り出した大太刀によって熱ごと斬られる。マントのせいでよく見えないが自分の身長以上の刀を片手で振り回しているようにしか見えないではないか
もちろん、それは雷火の日も気が付いたようでアイコンタクトで晴れの日にスイッチの合図を送った
「研ぎ澄まされた良い一撃だ・・・!!」
「余裕なんて・・・ないわよっ!!」
上空から重力を引き上げ急降下で警棒を振り下ろし脳天に直撃する音が聞こえた
はずだったのだが、驚くべきことに重さ500キロはあろうかという警棒を右手一本マントか出して受け止めたではないか
「重い・・・けどまだまだ軽い方だなっ」
「今ならよけられないだろ!無我っ」
集中が雷火の日に寄っているうちに無我を使い能力の純度を高め隙を突き死角から熱を放った
「ぬあっ!?アツ!!」
今度は見事命中。皮膚が焼ける痛みが雷雨の日を襲うが、長年現役を続けてきた男の神経はこの程度ではなんお傷にもならないようで、すぐに警棒を雷火の日毎弾き飛ばし晴れの日の前までほんの一瞬で移動する
「いい一撃だ!!」
「そりゃどう・・・も!?あぶっね、な、おい雷火!!」
両こぶしから放たれるマシンガンにも似たパンチが晴れの日を襲う。無我発動中の彼にとって避けるのはたやすいが反撃のチャンスがない。やはり雨の日と雷の日の師匠と言うのは伊達じゃないようだ
「呼ばれなくても行くわよ!!せい、やぁぁぁぁ!!」
振り下ろす警棒は背後から放ったというのにもかかわらず雷雨の日に白刃取りされてしまう。まるで後ろに目が付いているようだ
「いっやー驚いた!ここまで一撃の重みがあるとはねぇ!」
「の割に全部よけてますけどねっこのっちょこまかとぉぉぉぉ!!」
のらりくらりと煙のように、時に鋼鉄のように二人を翻弄する雷雨の日だが、反撃してくる様子はない
「よし!いいね、この辺でやめにしようぜ!!俺ぁ降参するぞー」
やめにしよう、降参だ
確かに今彼はそういった
聞き間違える筈がない。現に彼ら二人とも訳が分からず銃を構えた状態のままフリーズしてしまっている
そんな二人を見て一言、雷雨の日は言葉を落としその場を豪快に笑いながら立ち去って行った・・・
「・・・お前さん達、もっと強く成れる。そしたらその時また戦いてぇな」
つまりは将来に賭けた、と言う事なのだろうか
最初に二人と戦うためだけに来たと言っていたのはあながち嘘でも何でもないらしい。純粋に、今の天候荘の力量を知りたかったんだろう
「え、えーっと・・・?雷火、俺だけか?状況が意味不明なのは」
「いいえ・・・わたしもよ。これ、なに、不戦勝?」
対戦相手がいないのであれば不戦勝
一応これも全天候祭のルールである。なぜか放送席から声が聞こえない為この次どうすればいいのか分からない二人の前に新しく二つの人影が・・・
「不戦勝ってことはねーな」
「ふせんしょー!ふせんしょー・・・?ふせんしょーってなに?」
「・・・なるほど、代わりにあなた達ってわけ」
そこに現れたのはヤル気満々の笑顔で腕を胸の前でクロスさせ方を伸ばす風花の日とてとてと歩く天泣の日が
「まじか!2人と戦えるんか!!いやーいいねいいね!楽しくなってきたぞ!!」
「あいっかわらず元気だねぇあたしの天泣より元気でねーの?」
「元気っていうか五月蠅いのよ」
「んな!?五月蠅くはないだろ!!」
四人が合い見え、不完全燃焼に終わった雷雨の日の退場を塗り替えるように大歓声が巻き起こる
やはりみな、実力者同士の戦いが大好きなのだろう
「晴れ!しょーぶだぞ!」
「ふっ!俺たちが負ける訳ないんだからよ、この勝負俺たちの勝ちは決まりだな!」
何故、ここまで晴れの日が自信満々なのか・・・それは誰もが思う事だろうが、実際彼はこの一年間で驚くべき成長をいくつも成しえている
それ故に、自身に溢れ、また風花の日も強敵を前に額に一筋冷や汗を流していたのだ
「まぁー実際勝てる余裕は全然ないんだけどな・・・ほんと一年で強く成りすぎだ二人とも」
「お褒めいただきありがとう」
「よし!じゃぁさっそく始めようぜ・・・本気で来いよ・・・?」
「もちろん。天泣、鎌でいくよ」
「あいさー!」
それぞれが武器を構え、見合い、観客までもが静寂に包まれる
そして、時が制止したかのように音がなくなり振動すら起きない
だが、その静寂は一瞬で打ち破られる―――
「うぉぉぉぉおおぉ!!!」
「やぁぁぁああぁあ!!」
「せやぁぁぁぁぁあぁ!!」
三つの雄叫びが共鳴し合い、響き、観客の目にさえとどまることのない攻防戦が始まった・・・