第十五話
第十五話
「ここには誰もいないわね」
「よかった・・・って、音楽止んでない・・・?」
さっきまで気が付いてなかったが、よく耳を澄ませると明らかに曲が止まっていた
つまり、試験開始だ
「わーー!!」
「そっち行ったぞ!!」
「こないでよぉ!?」
雄太が短絡的に考えていた、森の中から大量の悲鳴が木霊してきた
幸い、ここにはまだ人影はない
「・・・ほんとに予想通りになって逆にこえぇ」
「あんたねぇ・・わたしの提案が無かったら今頃あの渦中よ?」
そう思えば美咲も良い奴だとは思うが、もしペアでの試験でなければ問答無用で叩き落とされていただろう
少しだけ美咲とパートナーをくめてよかったと思えた
「さて、わたし達は隠れる場所を探しましょ。一応能力に規制は言ってなかったから殺さない程度で攻撃していいんでしょうけど、他の隊長がよってくるからできるだけ戦闘や移動は避けたいわ」
ここで雄太は一つ考えた
こいつ、幼少期に鬼ごっこを極めた奴だ
、と
聴くわけにもいかないが・・・
「これなんかは?」
雄太が指差したのは、成人男性を優に超す大きさの岩だ
もちろん、タダの岩
「いい加減にして。この岩のどこに隠れるの?」
「俺の熱でくりぬきゃいい」
つまり雄太は岩でカマクラを作ろうとしているのだ
悪くは無い、と内心美咲は思うが口には出さない
「ふん・・・できるならやって見せてよ」
「見てろよぉ!」
銃口を対象である岩に真っすぐ構えた
そして、一呼吸おいてったら、引き金を力一杯引き絞り何度も何度も繰り返して、岩が溶けて仲が綺麗にくりぬかれているカマクラを作り上げた
「どや!!出来るもんなんだぞ?」
「えぇ、あんたはドライヤーから昇任ね。さしずめドリルってとこかしら?」
「なんだそれ・・・適当すぎるだろ」
明らかに適当だ
と、その時
背後で草村が揺れる音がした
それに驚き、雄太は体を半分捻った
しかし振りかえりきる前に美咲に突き飛ばされる
「って!?」
「危ないじゃない!何なのよあんた!」
その声は雄太に対してではない
鬼が来たかと焦ったが耳に入ってきた美咲言葉から察するのに別の問題が発生したようだ
「うるせぇ!おとなしくやられろてめぇら!」
「はぁ!?冗談じゃないわ!大体あんた何!?バカなの?死ぬの?てか死んで!」
雄太の視界に巨漢の男2人が見えた
どちらもボディビルダーの様な筋肉で顔も怖い
もちろん美咲の暴言も怖い
「見ての通り俺らは早くは走れねぇ!だからこそ、テメぇらみたいな弱そうな奴を捕まえて囮にして逃げのびるって寸法じゃい!」
つまりは、敵だ――
「道重・・・どうする?逃げとくか?」
そっと耳打ちするが美咲の脳内に逃亡の2文字は無かった
「冗談。逆にこいつら利用してやるわよ」
「なにごちゃごちゃいってんだ!わりぃけどここでリタイアしてもらうぜい!」
ヌンチャクを一人が取り出し、もう一人はメリケンを装着した
「ホワチャー!!」
おそらくは能力なしでの攻撃
雄太は拳銃を2丁取り出してガードする。その背中を踏み台に美咲は上へと跳んでいた
「いてっ・・・けど許す!」
「許すも何も悪い事はしてないわよ」
どこまでも女王さまだ
美咲は空中で警棒を取り出し、重さをある程度に調節し巨漢にまっすぐ殴りかかる
しかし隣からメリケンの方の巨漢が拳を振るい美咲の脇に吸い込まれる
「くうっ・・・!」
「道重!」
つい雄太は美咲に視線が奪われた
その瞬間を狙われて雄太の肩にヌンチャクが繰り出される
「よそみとは余裕だな!」
「が、はっ!?」
意識が飛びそうになる
しかしここで意識を手放せば一環の終わりだ
なんとか踏ん張るが目の間には巨漢が2人
美咲は脇腹を痛そうに抱えていた
「悪いね、ここじゃ弱肉強食なんよ!」
ヌンチャク男はどうやら勝利を確信したようで雄太を見下ろしヌンチャクをしまい、メリケン男が雄太の意識を刈り取るために拳を頭上に掲げた
「じゃぁなしょうね・・・・ふごぉっ!!」
言葉が途中で途切れ、グローブ男は大きく吹き飛ばされ、そのまま立ち上がる事は無かった
「ぶ、ブラザー!?」
「よそみとは余裕ね」
グローブ男を吹き飛ばしたのはほかならぬ美咲だった
凛とした態度でヌンチャク男を睨んでいる
「な・・・!てめぇぇ!」
ヌンチャクを素早く取り出して水平に美咲に殴りつける
しかし美咲は一切動こうともしない
そして一言
「あんた、これ防ぎなさいよ」
雄太にはすぐこの意味が分かった
右手を地面から離し、銃をヌンチャクに向けて引き金を引き絞る
放たれた熱は雄太のイメージ通りヌンチャクの先端を溶かし、美咲に当たることなく振り切られた
「あら、自慢のヌンチャク無くなったわね?それに背中がガラあきよ」
それだけ囁き警棒で首筋に一発お見舞いしてやった
強烈な一撃で三半規管が揺れ、ヌンチャク男もそれきり立ち上がりはしなかった
「ふぅ・・・情けないわね。あの程度の奴ら相手にピンチだなんて」
「道重だって脇抱えて痛がってたじゃねーか!」
なんとか立ち上がりながら雄太は叫ぶ
「何言ってるの?あんなの演技よ。だいたい、体重を殆ど0にしてたしむきも変えてたからあいつの攻撃なんて当たって無いに等しいわ」
なんという策士
あの一瞬でそこまで手のこんだ作戦を立てるとは
「あなたと違ってできる女なの、私」
心を読んだのか、一言を添えられた
「また一言多い!!」
しかし内心では美咲の実力を認めている雄太はそれしか言えなかった
「はいはい・・・で、この2人どうしよかしら?」
転がっている巨漢を指差して困ったように呟く
「・・・このままでいいんじゃね?まぁ、せめてもっと見つかりやすいところにしておくか」
美咲もそれには賛成して乱暴に引きずりながら巨漢を浜辺のど真ん中に放置し、先の乱闘で鬼が来るかもしれないと考えこの場を後にした
「で、結局森か・・・」
「まぁ、仕方ないわ。浜辺があの区画だけだったもの。必然的に森になるわよ」
「でもよ、もし鬼に追われたらどうする?二手に分かれるか?」
残念なことに浜辺はもうのこのエリアで終わってしまったのだ。仕方なく森に入ることになった二人は草木をかき分けできるだけ目立たない場所を探しながら作戦を立てる
「んー・・・ほんとは最悪の選択肢だけれどはぐれない方がいいわ。離れすぎて音鳴りだしたらそれこそ終わりだから」
「それもそうだな」
そう言い終わると同時に美咲が手で雄太の行動を制した
つまり、何か聴こえたのだ
雄太も耳を澄まし息をひそめる
が、時すでに遅し
「来た!!鬼よっ!!」
この時ようやく本当の意味での鬼ごっこが始まった
相手は教官。素直に鬼ごっこなどすれば一瞬で捕まるだろう
足音からわかったことだが、相当俊敏で草木をもろともしない走りだった
「まじかよ!?逃げきれんのか俺ェ!!」
決死のチェイスが始まった――