其ノ七
其ノ七
『そこまで!勝負あったね、この試合、熊本支部の古ノ果実選抜チームの勝利!』
「・・・熊本支部、中々強いわね」
「お、雷火。そうだな、あの動き方、能力に頼らないで自分の力をベースにしてる・・・かなり厄介だ」
観客席の下、選手のみがはいれる控室でモニターで中継されている試合を見ていた晴れの日の元に雷火の日が先の更衣室での悲しみを無かったかのような涼しい顔で冷静に熊本支部の選抜チームの戦況を観ていた
「まぁ、当たるとしたら相当先だけれどね。それまではわたしたちの心配をしましょうか。次、出番でしょ」
「・・・あぁ、もえてきたぜ!」
椅子から立ち上がり軽く肩を回し、紅銃を腰のホルスターに入っているかの最終確認を行う
そして、2人の紹介アナウンスが雨の日によってながれた
『次のチームは俺ら神奈川本部の中でも期待の星、最近じゃ天照黒雷神なんて洒落た通り名で有名かもな。晴れの日&雷火の日ィィ!!』
珍しく雨の日がそれらしい仕事をしたことに驚きが込み上げてきたが、開いた扉から見える客席を前に気持ちが引き締まり笑っていられる余裕はどこかへ消えていった
「はぁ・・・ほんと、中二病みたいな名前勘弁ね」
あまり通り名が気に入らない様子の雷火の日は軽くため息を漏らして首を横に振る
それを苦笑いで晴れの日が流す中、対戦相手の紹介も始まる
『こちらも新人、北海道代表の野郎コンビ!その力は謎のベールに包まれたままのびっくり箱!アレックスとゴンザレスぅぅぅ!!』
現れたのは黒人の二人
アレックスの方が背丈が大きくスキンヘッドで、どこかフレディを思い出す。対照的にゴンザレスは小柄でスピードタイプにも見える
だが、先に雨の日が言っていた通りその力は未知数。油断できない
『んじゃ、俺の仕事は終わりだな。しあい、かいしー』
「っておい!雨さん紹介だけ楽しんで後は放置か!」
放送席に向かって晴れの日がぎゃーぎゃーと叫んだのも気持ちは分かる。だが、今は戦闘が始まった直後、気を反らしたほうが攻撃を受けることは目に見えていた
晴れの日達の読み通り、ゴンザレスがスピードタイプの様でどんな力かは分からないがよそ見をしている晴れの日の死角である体側にぴったりと詰め寄り、ゼロ距離からの掌底を放ち・・・気が付けばゴンザレスが地に伏せていた
「・・・ばか、な!?完璧な不意打ちだぞ・・・!!」
「いやいや、バレバレでしょーが」
目にも留まらぬ速さで繰り広げられた攻防に観客はもちろん、雷の日達も放送席で驚いていた
「・・・あいつ、滅茶苦茶強く成ってんじゃねーか」
「だね。もしかして俺たち負けちゃうかも?」
「・・・あり得そうだな。雨さん」
場を戻して試合場
ゴンザレスがなんとか体制を戻し、またも高速で晴れの日の周囲を走り回り、動きについて来れなくなることを狙った
だが、残念ながらそれは叶わないのだ。なぜならすでに・・・
「見えてるっての!!」
動きを見破るだけでない、先読みまでしてのけたのだ
そう、彼は次にゴンザレスが移動する位置を先読みし、タイミングを完璧に合わせて右エルボーを鳩尾に叩き込んだ
「そ・・・んな・・・ばか・・・な」
「ごんんんん!!!くそう・・・なら力でゴリ押すのみ!」
ただでさえ鍛えられた剛腕が能力によってさらに太くなり、象の足さえも凌駕する大きさになり晴れの日目がけて襲い掛かる
だが、晴れの日は口角を上げるだけでよけ受気配は全くない
なぜなら彼は、パートナーを信じているからだ
「軽い」
「んなっ!?俺の腕をこんな女に!?」
「えぇそうよ。1トンの重さがある、女に・・・ねっ!!」
片手で受け止めたその剛腕を大きく上に振り払い即座に腰の警棒を引き抜き背後から放たれた晴れの日の熱線と共にアレックスの意識を刈り取ってものの数分でこの試合にピリオドを打って見せたのだ
「お疲れ雷火」
「いいえ?こんな戦い、一年間の修行に比べればてんで大したことないわよ」
確かにはたから見ても物足りなさそうな二人の演武に会場は拍手喝采スタンディングオベーションの嵐だ
2人の名を叫ぶ声が聞こえ、拳が天に突きだされている。正直内心は勝利の喜びがあふれてきそうと言える彼らだが、柄じゃないと思いくるりと踵を返し背に歓声を浴びながらゆっくりと頭を振りながら立ち上がる敵選手に手を差し出し握手を交わす
「・・・噂通り、とんでもなく強いじゃねぇか」
「あら、わたしたちの事大分広く知られているみたいね」
「ふっ、天候荘所属の変革者なら大抵知っているだろうよ!まぁ、なんだ、がんばれ?」
「もちろん!優勝取ってきてやるぜ!」
その瞬間再び大歓声
そして、陽が傾いてきたのか紅葉似合う夕日が顔をみせ、ここに居る皆の頬を赤く染め上げた
逆光で黒いシルエットと化す鳥の羽ばたきの中、午前の部終了のアナウンスが鳴り、一同は熱に酔いしれながらもスタジアムを後にし、各自食事や休息、連携の確認へと移動していった
彼ら晴れの日と雷火の日も一試合目の勝利を祝うため場所を移す
「それじゃ、一試合目お疲れさまっ」
近くに設置されているウッドハウス。木造がベースでレトロな椅子に机は大きな樽だ
雰囲気ある店内のBGMはアコースティックギターでの生演奏。引いている曲のタイトルは知らないが、盛り上がりやすく落ち着きやすい不思議な曲だ
ちなみに、これは晴れの日達が知る由の無いことだが、作詞作曲はフレディとのこと
「えぇ。午後の部の出番は二試合だったかしら?」
片手にウーロン茶、手元には軽食としてサンドイッチを用意した雷火の日がすでに戦闘前の様な落ち着きを保ちながら尋ねる
「そーだったよ確か。でもま、全勝が当たり前だけどな~」
「ふふっ・・・強気なのね、いつでも」
「ん、まぁな!俺だって強く成った。それに、約束したしな!最強になって全員倒すって」
手に持ったジンジャーエールを一気に飲み干した晴れの日は樽にごんっとたたきつけるようにグラスを置く
「パートナー」
その時、雷火の日がぼそりと呟くように言葉を零しグラスを口に着ける
「・・・ん?」
「最強の、パートナーよ」
晴れの日の口角がこれまで以上に上がる
目こそ合わせないが雷火の日に確かにパートナーとしての意志があり目標がある。それが聞けただけでも彼にとってはうれしいことなのだ
「そーだったな、わりぃ・・・よし、目指すぞ変革者最強のパートナーってやつを!!」
「・・・楽しみね。晴れの日が変革者の頂点に立ってみんなを照らす日が」
「お、今の上手いな!ちょ、俺もそんな感じのこと言いてぇ!」
調子にのってあーだこーだ言葉遊びを考え必死に頭を回転させる晴れの日をため息一つこぼして暖かいまなざしで見つめる雷火の日だが急に表情が曇り、ふと中に居るシルヴァの言葉を思い出す
――――晴れの日は、人間じゃない。いうなれば実験モルモット
「・・・誰よりも人間らしいと思うわよ、わたしは」
「なんか言ったか?」
「いいえ。何でもないわ、それで?思いついた?」
ふっふーんと鼻を鳴らし晴れの日は独り言には興味を示さずどや顔で渾身の一言をかました
「俺が全員まとめて照らしてやるぜ!日焼けに気をつけな!」
「却下」