其ノ六
其ノ六
『さーて!!みんな!もりあがってるかーい!!』
サッカースタジアムを彷彿とさせるドームのど真ん中にマイクを持って立つのは雷の日
その隣には眠そうな目の黒シャツに紺のジーンズの雨の日と白シャツのスーツっぽい服装の曇りの日
観客席に座ってこれから行われるオープニングセレモニーを待つ雷火の日と晴れの日はセレモニーの余興に興味を少しばかり残しつつ、周囲の全天候祭出場選手を見定める
「・・・やっぱどいつもこいつも強そうだな」
「なに怖気づいたの?情けないわね」
「はっ!んなわけねーだろ、むしろ滾るねぇ!」
拳を顔の前でぐっと作り全身で興奮を現している晴れの日は、ふと誰かに見られているような気がして周囲を見渡した
その挙動に気が付いた雷火の日は声を細めて尋ねる
「・・・どうかした」
「いや・・・見られてる気がしてさ。まぁ、多分気のせいか」
一瞬警戒のレベルを引き上げていた晴れの日だが自分の思い違いだろうと結論付け肩の力を抜く
「そうね。それにわたしたちみたいに他の選手もわたしたちの事を観察していてもおかしくはないわ」
ごもっともな意見に納得したその時、どうやら雷の日の挨拶は終わったようで曇りの日から全天候祭のスケジュールについて話がなされはじめた
雷の日の挨拶の最期、全員が開幕の興奮に酔いしれ叫んでいたのにも関わらず、曇りの日が真面目な顔で前に立つだけで全員は口を結び真剣なまなざしで話を聞き入る
歴戦の戦士なだけあって誰もかれも紳士淑女的だ
『まず、怪我はしてもいいが死にはするな?それと、決闘に致死量の攻撃と制約の破壊以外に禁止事項はない。好きに暴れろ。あぁそれと、今年も全天候祭は二日間に分けて行う予定だ』
「二人一組が基本なのよね。確か」
「おうよ。俺らで全員倒してやろーぜ、雷火!」
すっと差し出した右手だが、雷火の日は一瞬その手を見つめ軽く叩いて腕を組んでしまう
だが、これまで長い間一緒に居た晴れの日からすればこれが雷火の日なりの返答なのだ
本心から毛嫌いされているわけでもないということもしっかり理解しているつもりらしい
「・・・わたしは先に控えしつに行って動ける格好に着替えるわ。晴れの日はどうする?」
「あー俺も着替えるわ。じゃ、俺らの試合前の試合になったら控室で!」
2人はいったん着替えるためにここで分かれた
そして雷火の日が着替えるために更衣室に入ると、中には荒天組の三人と風の日、霙の日の姿が
「あ、ツンデレちゃん!」
「ツンデレ言わない・・・ってあれ、霙は誰と出場するの?」
密偵や潜入がメインの仕事である霙の日は基本的に特定のパートナーを組んでいない。それ故に、全天候祭での二人一組出場ルールにのっとるためには誰かしらとパートナーにならねばならないのだ
その相手が誰なのかそういえば聞いていなかった
「ふっふー・・・聞いて驚けツンデレちゃん!なんと姫と出場するのだ!」
「ま、そんなわけで本気で行くからね?晴れの日もろとも覚悟しなさい」
「・・・わたしたちが一年間伊達に修行してないこと、証明してあげるわよ」
互いに火花を散らし始めた
だが、嫌悪の火花ではない。互いに互いを認め、そのうえで尚ライバルとして戦う意思をしめす火花・・・言い方次第では開幕の花火だ
「いいわねぇ、青春ねっ」
「まっくだ。あたしもこんなライバル欲しいね」
三人の様子を温かいまなざしで見つめていた風花の日と玉霰の日はこの状況を青春と形容した
「あら、わたしたちじゃライバルには物足りないのかしら?」
「・・・雷火、それ本気?」
「ふふっ」
霙の日と風の日にはよく意味の分からないやり取りだが、玉霰の日と風花の日、それから天泣の日には分かるようだ
少し眠たそうな目をした天泣の日が、玉霰の日のズボンの裾を引っ張り首を傾けながら尋ねる
「玉ちゃん、ぜんてんこーさい出ないんだっけー?」
「今回はちょっとお休みするの。ほら、パートナーも居ないしね~」
「むぅ~玉ちゃんとたたかいたかったー」
「天泣、今年はいつも以上に楽しくなりそうなんだぜ!玉ちゃんが出れないのは残念だけど、まぁ我慢しよ、な?」
「は~い・・・」
こちらも中々に長い間一緒に居るだけあって天泣の日のわがままの抑え方を完璧に理解しているようだ
そのワンシーンに心和ませながらも時は流れ、気が付けば全天候祭の幕は上がり、さっそく第一試合が行われ会場を大いに沸かせていた
「・・・始まったようね」
「今回の優勝は私達が貰うからねツンデレちゃん!それじゃぁ私達準備運動してくるから!またね!」
「んじゃ、あたしらも行くかね天泣。本気で戦えるのを楽しみにしてる!」
熱く握手を交わし、風花の日と天泣の日も霙の日達に続いて部屋を後にした
残された雷火の日と玉霰の日は一瞬沈黙する
「・・・ねぇ、気づいてるんでしょ?シルヴァに、聞かされているんでしょ?」
「・・・言わなくていいわ」
「そう・・・ならせめて・・・ラストワンを止められるのは君たち二人だけだって事忘れないで。押し付けちゃってると思ってるし、ごめんなさいって心から叫んでる・・・だけど」
「分かってるわよ。そのためにわたしたちは強く成った。それに、わたしより晴れの日の方が・・・彼だけ何も知らないで蚊帳の外。デュラハンも何も言おうとしない・・・わたし、わたし・・・」
俯き声が震える彼女に玉霰の日は手を差し伸ばそうとするが、彼女の心に触れる資格があるのかとためらいをうみ、伸ばした手はすぐにひっこむ
「・・・私がいえる身じゃないけど、彼を支えて上げて。雷火ちゃんにしか、出来ない事だから」
その言葉を残して玉霰の日もゆっくりと振り向くことなく更衣室を後にした




