其ノ十七
其ノ十七
さて、長らく続いた天候荘誕生の秘話はこれより佳境に差し掛かるのだが一つ、語っておくべき話がある
それは彼、曇りの日が白雨の日のなかば脅迫に近い勧誘に心折れ仕方なく天候荘に加わってから数年が過ぎ去ったある日の事・・・
「黒、雷、曇り!!いるか!!」
三人で組手をする最中、いきなり雷雨の日が息を切らして屋上に上がってきた
これまで長い間彼と共に時間を過ごしてきた彼ら三人だが、こんなにも慌てている雷雨の日は見たことがない
「あぁ。何か用か」
相変わらず心に暗い影を落とし、口数さえ増えたもののその言葉にはどこか棘のある黒雨の日はやはりぶっきらぼうに応え、一応能力を消散させた
他の二人もそれにならい、能力の発動を中止する
「・・・緊急事態、とでも言うべきか。国会議事堂が、どっかの変革者集団に占拠されちまったぞ」
「話の腰を折るようですまない。それのなにが不味いんだ?」
確かに変革者の犯罪を取り締まると言った暗躍もしてきた天候荘の面々だが、国会が選挙されるレベルの事は国の防衛相や自衛隊に任せるのが筋ではないのだろうか
「いやな、俺も詳しくは知らないんだが天候荘が正式に国の組織になるための手続きとかを白のやつがやってるみたいでよ。今国会に混乱されるのは迷惑なんだと」
成るほど。確かにこちらとしても今この時期に国会に崩壊されてはまたも組織化が延期されてしまうではないか。そうなってはかなり困る。ただでさえ施設と呼べる場所もなくそれが原因で去っていく変革者も多数いるというのだ
一日でも早い組織化が必要だと、三人も痛感している
「・・・わかった。すぐに準備するわ」
「く、黒・・・珍しいなお前さんが乗り気だなんてよっ!」
バシッと背中を叩き珍しくやる気に満ちている黒雨の日に感動を覚える雷雨の日。だがそれは他二人も同じ気持ちだ
これまで、特訓以外の雑用や仕事に対していかにサボれるか動いてきた黒雨の日が真っ先に了解するとは思ってもみなかったことなのだ
「うっせ・・・ほらお前らも早くしろ。俺は暴れてぇんだよ」
「ふー・・・ん。黒、大人になったねぇ?」
「黒さん、頑張ろうな」
雷の日と曇りの日に対して黒雨の日は返事することなく、動きやすい仕事用の服を取りに下へと降りて行った
「先に何人かは行ってっからお前さん達には移動しながら作戦を伝えらぁ!シートベルト着けとけよぉぉぉ!!」
ベージュのサルエルに藍色のシャツ、それと中に黒のタンクトップ着た黒雨の日が補助席に。黒のジーンズに白のシャツを纏った雷の日が後ろに乗り込み、その横に黒いジーンズを履き、黒い革のジャケットを着てオールバックのいかつい曇りの日が乗り込む
「作戦の前に、戦況をお願いします雷雨さん!」
後ろから声を駆けた雷の日に応えるために首を半分捻り視線は前に残しつつ声だけ後ろへと飛ばす
「んーとなぁ・・・襲撃が始まったのは30分前で、数は分かってねぇがかなりいるいみてぇだ!だがな、変革者相手にできんのは変革者くれぇだからよ。たまたま近くで任務中だった霖とか白露が要人の救出を始めてっけど、霖はともかく白露は能力使えなくていまんとこ劣勢よぉ!」
「日暮れまで・・・あと一時間半か。それまでに解決してーけどな」
補助席で時計を確認しながら苛ついた顔で舌打ちを鳴らす黒雨の日の言葉を聞いた曇りの日が上半身を前に乗り出すように突き出し、前に座る二人に作戦の確認をとった
「この四人で戦うのか?」
「いや、俺は国会の奪還がメインだな。お前さん達三人には、白と一緒に建物の外にいる変革者の掃討を頼む」
これだけ大きな作戦に参加すること自体が初めての彼らだったが、白雨の日もいると聞き、少し緊張が和らいだ
「分かりま・・・ッ雷雨さん!!」
雷の日の言わんとすることは車内にいる全員が一瞬で理解していた。当然、運転手である雷雨の日が気付いていないわけではない
車を走らせること幾時間。国会議事堂が目の前に差し迫ったとほとんど同時に国会議事堂の方から変革者の能力と思わしき火球や鉄球が雨の様に降り注いできたではないか
しかし、雷雨の日は冷静に状況を把握し、全員に最後の通達をしながらシートベルトをはずし始めた
「よし、いいかお前さん達。無茶だけはすんじゃねーぞ。白は先に戦ってるみてぇだから合流しろ。俺の合図で作戦開始、飛び出せよ?」
こえから始まる戦闘に思わず余裕の笑みが浮かぶ黒雨の日。気を引き締め、乾いた唇を軽く濡らす雷の日。煙草を咥え、吹き付ける強風に煙を吹き付ける曇りの日
そして、ハンドルを握る手を話、懐から写真を取り出して車内で大太刀を一閃。屋根をふき飛ばしたかと思った矢先―――
「・・・GO!!」
その言葉とほぼ同時に全員が車から飛び出し降り注ぐ攻撃目がけて飛び掛かった
火球を水の薙刀で切り裂き、鉄球を雷で打ち砕き、矢にも似た棒状の攻撃を煙で吹き飛ばす
そして議事堂の門に勢い余って衝突しかけたその時、チャキと甲高い金属音がなり、門が木端微塵に。そして四人は無事、国会議事堂の敷地内へと進軍したのだ―――




