其ノ十六
其ノ十六
「ここは・・・っつつ」
「・・・起きたか。まさか俺の担当の時に起きるとはな」
男が目を覚ましたのは到底ふかふかからは程遠いベットの上だった。そして声の主は黒雨の日。掌で水の球体を大量に生み出しながらめんどくさそうに男を見ている
「誰だお前っ!というか何で俺はこんなところに!」
「騒ぐなっての・・・待ってろ。話し通じる奴連れてくる。俺はただの看病なんでな」
そう告げた黒雨の日は何故かため息をついて席を立った
一人誰もいない廃墟の一室に置いてけぼりにされた男はあたりを見渡しここが自分の知っている場所でないと察し、重たい体をゆっくりと起こした
「誘拐・・・か」
普通に考えればそうであろう。もちろん名目は保護であるが保護される方には自分が変革者として暴走していた時の記憶があやふやだ
ハッキリ言ってしまえば誘拐されたとしか思えない
「逃げるか・・・」
幸い、手錠などといった拘束具は見当たらないし、見張りらしき人もいない。逃げてくださいと言っているようなものだ
男は出来るだけ静かにその場から立ち上がり、懐に財布や鍵、貰った煙草などが全て入ったままであることを確認し窓へと向かった
「・・・二階。だがあのゴミ捨て場に飛び込めば行けそうだな」
窓の下にはゴミ捨て場があり、かなりクッション性の高い物だろう。だが、彼はまだ気が付いていないのだ。このビルの古びた耐久性に―――
「目覚めたのねっ・・・ってあら?」
現れたのは白雨の日。そしてその背後に黒雨の日と雷の日
だが、三人が目にしたのは誰もいない無人のベッドのみで、一瞬戸惑う
「あっあれ!」
雷の日が男を発見し、指を指して叫んだ。二人はその方向を一目に見て慌てだした
何故なら、彼が立っている場所は特に老朽化はひどく今にも床が抜けそうな所だからだ・・・と思った矢先、ついにガタがきたのか地面にひびが入り始めたではないか
「ちょ、いい!?とにかく落ち着いてその場から離れて!」
「くっ・・・五月蠅いっお前たち、俺を誘拐してどうする、き・・・だぁぁぁぁぁ!?」
「あー・・・言わんこっちゃない」
黒雨の日、雷の日があちゃーと言わんばかりに額に手を当て、白雨の日は落下先に水を産み、衝撃を吸収できるほどの弾力性を持たせる。当然狙い通りに男は白雨の日の水に着水(?)し事無きを得た
「し、死ぬかと・・・思った・・・」
胸に手を当て、逸る動悸を抑えながら大きく深呼吸する
「大丈夫ですかー?」
上の階から雷の日が心配そうに顔をのぞかせる。男はとっさに大丈夫だ、と普通に返答してしまうが誘拐犯と仲良く成ろうと思う気はさらさらないので今がチャンスとばかりに走り出した
「・・・もぉ。雷雨!」
「んぁ~なんだ・・・あ、なるほど」
眠たそうに大きく伸びをした雷雨の日がいるのは一階。ちょうどその前を全速力で駆け抜ける男を目にした雷雨の日は白雨の日の言わんとすることを理解し懐から一枚の写真を取り出した
「よし・・・このまま外に・・・っおおぉぉお!?」
「そう騒ぎなさんなっての・・・」
雷雨の日が手にしているのは鞭。そしてそれは男の体をしっかりと捉え、完全に身動きを封じていたのだ
「離せっ・・・!!」
「よっと・・・ねぇ落ち着いてくれないかしら?」
白雨の日がようやく階段を降り切り二人を連れて現れ優しく話しかけた
だが、男は敵意むき出しで白雨の日にこう告げた
「五月蠅い。ビッチが」
「・・・雷雨、鞭貸して」
「は・・・はい・・・っ」
ここから先を語るには少し精神面に異常をきたしかねない・・・
この世に地獄があるならば、きっと地獄絵図の方が美しく見えたことだろう。それだけに彼は白雨の日に対して言ってはならない言葉を投げたのだ・・・全世界の男性よ紳士であれ・・・
あぁ・・・南無三