其ノ十一
其ノ十一
「・・・ここに居たの」
ここは天候荘のいわゆる屋上だ
拠点としているこのビルは6階立てで、屋上にも意外と簡単に上がることができる
そこに、雨の日は暮れはじめる夕焼けを眺めて座っていたのだ
不意に白雨から声を駆けられた雨の日は驚きで一瞬体がビクッと脈打つがすぐにいつもの暗い印象に戻り、振り向こうとはしなかった
「・・・」
「いきなり消えるなんて忍者みたいな人ねぇ?」
無言のままの雨の日に歩み寄る白雨の日は同じように夕日を見つめた
2人の視線の先の空では夜が顔を出し始め空がうっすらと暗みがかり、それでもなお見える夕日によって淡い青にも見える
「綺麗な空ね」
「・・・」
雨の日は何も答えない
「そう言えば、さっき聞いたんだけどあなた黒雨って名前つけられたみたいね?」
「・・・・・・」
少しだけ長い沈黙の後、雨の日はゆっくりと口を開き始めた
その動作を白雨の日は見逃すことなく待っていたかのような慈愛の目で言葉をまった
「俺・・・自分のお母さん殺しちゃった。この・・・力が暴走して・・・それで」
まだ子供だというのに雨の日の言葉が震えることがない
強いのか、ショックで感性が崩壊しているのか
本来であれば人を殺した衝撃や実の母親を目の前で失う悲しみは計り知れないはずなのに、それでも雨の日はしっかりと自分の意志を持っているのだ
「なぁ・・・ここに居れば俺は、強く成れるかな。お母さんを殺してしまった罪・・・償えるかな」
「そんなの知らないわよ」
「・・・えっ!?」
白雨の日の返答は予想の斜め上以上の角度を持ったものだった。普通、そうだよとかなんだかんだで野菜い言葉をかけて、よしなら俺もここに居る事にする。が流れとしては望ましいというのに白雨の日はそれをぶち壊しに来たではないか
「私、あなたの力を開花させて味方にしたいけれど、強く成れるかどうかなんて私が知ったことじゃない。貴方次第よ」
「・・・俺、たくさん殺した。お母さんも」
虚空を見つめながら雨の日は言葉を零すように紡いだ
「あら、甘いわ。私なんか殺し過ぎてもう全身真っ赤よ」
「・・・ッ」
初めて人を殺した。その相手は実の母親だった
そのことを今思い出しても吐き気に襲われつい嘔吐してしまう。それに、その後殺した人たちの顔も脳裏から離れることもなく悪夢となって日々悩んでいるのだ
「で、どうするの?」
「え・・・?」
「黒雨の日。あなたの新しい名前よ。この名前を殺すか活かすか、決めるのはあなた」
そう告げて白雨の日はその場から踵を返し立ち去ろうとした
その時白雨の日は背中越しに雨の日が立ちあがったことを感じた
「・・・帰る」
「そう」
「うん。帰って・・・」
背中合わせでお互いに顔を見るわけでもなく言葉をつづける
「荷物まとめてくる」