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変革者  作者: 雨の日
EpisodeⅠ~昨日は今日の昔~
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其ノ七

其ノ七


あれから幾年か経ち、雨の日は年齢でいうなれば六年生になっていた

そう。年齢でいえば、だ

あの事件の後、さすがに騒ぎが大きかったのか近所の誰かが警察に通報しあたり一帯に大量の警察、及び自衛隊が現れ母親の亡骸の横で泣きじゃくる雨の日にライトを当て、威嚇のために拳銃を構えていた

だが、その場に生き残っているのはまだ幼い少年の雨の日のみ。警察たちも子供の犯行ではありえないとその場で断定し、遺体は警察が用意した病院車両に、雨の日は一応事情を聴くためにパトカーに乗せられた

だが、自分の手で母親の命を奪ってしまった罪悪感で押しつぶされそうな雨の日は一切しゃべることなく心が欠落したような状態だったという


「・・・ボク、大丈夫かい?」


「・・・降ろしてください」


「え?」


暗い、いや黒い声が車内に響く。そして徐々に、雨の日の目から

光が消えた・・・


「降ろせ」


小学生から放たれるものにしては異質なその殺気にさすがの警官も恐怖を感じたのか恐る恐る車を減速させる。だが、さすがに本当に降ろすわけにもいくまい

なんとかして説得しようと試みたその瞬間だった


「・・・母さんは俺が殺したんだよ。自分の罪くれぇ自分で裁くっての」


その言葉と同時にパトカーの屋根にドンっと衝撃が走り、

まるで豆腐の様にスッと切れ込みがはいるではないか

あまりの一瞬且つ突然の出来事に警察は開いた口が塞がらない

その瞬間を突いた雨の日は一気に車内の空気中に含まれる水分を手にかき集め、切れ込みを入れた屋根を粉々に吹き飛ばし、降り注ぐ雨を支配して波を産み、波乗りの要領で飛び出したのだ・・・





その後雨の日は行く当ても帰るあてもなく

ただスラムのような街を徘徊し路地裏に行っては弱者を襲うカツアゲ、誘拐、はたまた変革者による犯罪を見かけ次第かたっぱそから能力で襲い、時に殺し合い、またある時には二度と歩けないレベルまで痛めつけ、逃げるように有り金や持っていたカバンを投げつけてくる彼らを繋ぎに今日まで生き延びてきたのだ

その結果、このスラム街ではちょっと名の知れた存在にまでなっていたのだ。もちろん恐れられる立場として、だ

その名も真っ黒な服に一切顔を見せないようにフードをかぶるその姿から

黒。と・・・


「頭・・・いそがねーとまずいでっせ?知らないんですけぇ?このあたりの有名な『黒』の噂」


「黒ォ?」


「んー!んぅー!!」


今まさにスラム街で複数の男たちが通りすがった女を二人縄で縛り上げ車のトランクに押し込み誘拐を企て居る真っ最中だ

だが周囲に人気は無く、猿轡越しの声では誰も助けに来ないだろう


「そーでさぁ。この地域で犯罪行為とかを容赦なく潰して周っている謎の変革者らしいですぜ・・・ほら、最近ウチのバックも被害にあって一つ潰れたぁじゃないっすか」


「・・・はんっ、どーせ噂程度だろ。大方サツにしょっぴかれたなんて情けぇねぇこと隠すための嘘だ嘘。ほれ、さっさと女連れてくぞ。今日の依頼主は薬漬けがお好きなんだとよ・・・俺らも混ぜてくれっかなぁ?」


「呑気ですねぇ頭・・・ま、薬漬けはぶっちゃけ好きっすよ。堕落していく感じがたまんねーんすよね!」


月明かりが照らすビルとビルの間

男たちが車に乗り込み誘拐の成功と己の欲の発散を確信する中、隣接するビルの屋上から一人の男がそれを見下ろしていた・・・


「・・・鬼ごっこ、だな」


そう呟いて走りだした男こそ黒こと雨の日だ

全身真っ黒な服にフードまでつけて中二病に等しい恰好ではあるがそこは今は気にする点では無かろう


「・・・ついでにアジトごと潰すか」


ビルからビルまでの間は、隣接しているとはいえそれなりに距離がある。だが雨の日はその間をまるで無視しているかのように駆け出し屋上の淵を強く蹴って両手を大きく振り跳躍する

そして、夜風を切り裂きながら向いのビルに飛び移り、着地の衝撃を受け身の前転で分散させた


「・・・右か」


車の音を聞き分けながらビルの淵を再び蹴って飛び出し、右手に水を収束さて着地点の廃墟のビルの一室の窓を粉砕し、そこに跳びこんだ


「散乱してんなぁこの部屋」


愚痴をこぼしながらも走ることはやめない雨の日は、目指す先の途中にあるデスクや観葉植物を飛び越えたり滑り込んだりとその速度を落とすことなく駆けつづける

そして再び窓を割り、今度は水の流れを生み出し、それに乗り滑り降りるようにビルの谷間を移動する


「・・・みーっけ」


先の車だ

誘拐するにはうってつけの黒いワゴン車故、簡単に見つかる

そして、その進行方向には一つ変わった建物が見えた

天井はドーム状で、入り口は鉄格子のような門。スラム街に合わせてか、老朽化しているようにもみえなくはないが、所々に防犯カメラがあったりと近代化がいが明らかに不審だ


「・・・頭ぁ、この女ども久々の上玉じゃぁないっすかぁ」


「おいおい。つまみ食いなんてしたら依頼人に何言われるかわかんねぇぜ?やめとけって。相手はここら一帯の裏社会のボスみてぇなもんなんだしよ」


車内では、男たちが縛り上げたた女たちをじろじろと視姦し気味の悪い笑みを浮かべている


「いやぁ惜しいっすよねー・・・まじちょこっとだけハメさせてくれって感じっすよ!嫌味な商売ですよねぇ運び屋って」


その時、車の上にドンっと何かが乗る音が響いた

音の正体は簡単だ。雨の日に違いない


「な!?なんだよ!?」


「何か乗ってきましたぜ頭!!」


「あわてんなっ!全員、しっかりつかまってろよ」


車内から屋根の上など見える筈もなく車内が一瞬だけ騒然とするものの、ボスが機転の利いた行動をとった


「くそっ!?」


急ブレーキだ

車上に乗っていた雨の日は慣性に従って勢いあまり体が前のめりになるが、四肢に力を入れて何とか持ちこたえるも、不安定な体制になってしまったのは仕方がないことだろう

しかもボスがハンドルを思いっきり右に捻り、車体が横を向き傾き、その影響で流石に雨の日も耐えきれなくなり車上から転げ落ちる


「・・・餓鬼?」


「あ!あ!あ!こいつですよ頭!例の黒ってやつ!まちがいねぇでさ!こんなに真っ黒な恰好、他にいねぇ!!」


膝に付いた埃を払い落しながら雨の日がゆっくり立ち上がり、男たちは車内から降りてくる

身長も体格も大きく差がある。まぁ当然だろうか、雨の日は未だ10代そこらの若造だ。むしろ今こうしてスラム街を生き延びているだけでも奇跡に近い

もちろんそれは変革者としての力あっての事なのだが・・・


「・・・一応おっさんらに言っとく。今すぐトランクに入れたお姉さんたちを解放して立ち去る気はあるか?」


雲が月を覆い、雨の日の顔はハッキリと見えていないが徐々に雲は晴れ、雨の日のその死んだ目が月明かりによって顕わになっていく


「おいおい餓鬼ィ、てめぇも早くママのとこかえってミルクでも飲んでろや?ここは子供の来るところじゃねぇぞ」


「母さんはもういねぇさ。にしてもどいつもこいつも下衆な野郎ばっか・・・人のこと言えねーけど「まっとうなじんせい」ってやつ歩んでみる気はねぇのかねぇ・・・」


やれやれと肩を落としながら雨の日はその手に刀を生み出す。刃の振動はマッハに到達するかしないか程だ

それでも、一般相手には十分な威力を持つ


「変革者ってやつか・・・売ればかなり高くつきそうだぜ」


「頭、ここは俺らだけでぇ十分でさぁ」


「はっ・・・なら頼んだぜ」


ボスともども笑みを浮かべ、各々バットやナイフを取り出し雨の日を囲む様にして立ち並ぶ

雨の日はそれを視界の端で周囲に散らばる男たち数名を認識してから、ボスと思われる男にのみ焦点を合わせ続ける


「舐められたもんだなぁ・・・言っとくけど俺強いよ?」


今の一言で短気なチンピラどもの導火線に火が付いた

一斉に獲物を振り上げて雨の日目がけて襲い掛かるも、雨の日にぶつかる前に雨の日が生み出した水によって弾かれる。もちろん、子供ながらの乱雑な防御ではあるが変革者の能力は子供であっても十分に恐ろしい


「え、ちょ、待て!全然攻撃あたらないんすけど!?」


「・・・チッ、鬱陶しいんだよ」


その言葉と同時に、雨の日を中心にして水の波が辺りに居る男たちを飲み込みもみくちゃにして廃墟のビルの壁にたたきつけた。その衝撃で、壁にひびが入るがそんなことお構いなしの雨の日はゆっくりと刀を握りなおしながらボスの下に歩み寄る


「お、おうおう餓鬼・・・落ち着け?な?ほら女とかいらねぇしさ!な!?」


「・・・」


膝をがくがくと震わせているその男に雨の日は思わず歩み寄る足止まった

そして、情が湧いたのかそっと手に握った刀を消失させため息交じりに呟く


「10秒以内に消え失せろ」


「あ、ありがてぇ!!二度とこんなことしねぇよ!!」


「うるさい。早く消えろ」


「あぁ・・・消えるとするさ・・・っ」


雨の日の横をすれ違いどこかへと逃げ去る男を目で追うことなく車に歩み寄り女性を解放しようとしたその時だった

鈍く低い銃声音が辺りに響き、硝煙のにおいが立ち込める

そして・・・雨の日の足元には真っ赤な液体が足を伝ってじわじわと広がっていた―――

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