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変革者  作者: 雨の日
EpisodeⅠ~昨日は今日の昔~
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其ノ四

其ノ四



ゆうき君と雨の日の仲は、ゆうき君が卒園した後も続いていた

そして、いつのころからか親同士も仲良くなっており、今では日曜日など暇が合えばどちらかの家に子供はお泊りに行って、親はお茶会。や、どこか河原へバーベキューなども頻繁に行うようになっていた

最初は、息子が変革者であることを気にしていつか子供同士を引き離されるんじゃないかと心配していた母親だが、ゆうき君と何度も遊んでいるうちに、向こうの親御さんも変革者に対する思いがだいぶ柔らかな物腰に変わり、初めてお茶会のお誘いを受けた時は心底驚いたという


「ゆーきくーん!」


「ゆー君!あ、勇君のおかあさんこんにちは!」


日曜日の昼下がり、近所の公園に遊びに行くことになった二人は、母親の同伴で出かけることに。それにしてもゆうき君も随分と成長し、今ではきちんと挨拶もできている

雨の日もそれに感化されてかぎこちなく挨拶をするようになり、まるで兄弟の様だ


「こんにちはゆうき君。さて、2人とも出発するわよぉ~っ?」


「おー!」


「出発―!!」


三人は元気よく青空に拳を突き出して満面の笑みで叫ぶ。その声は、大空に静かに吸い込まれていった――――





またとある日曜日

今日は雨の日とゆうき君。それからゆうき君の同級生が二人ほど増えて、合計四人で遊んだ

初対面の男の子二人に中々話しかけられない雨の日であったが、そこは子供ならではのコミュニケーション能力。一緒にボール遊びや鬼ごっこ

それに雨の日の得意な水鉄砲遊びを通じていくうちにどんどん打ち解けていき、あっという間に友達になってしまった


「またあそぼーねー!」


「おう!またな勇佑―!」


夕焼け小焼けでカラスが鳴いて、雨の日は一人自宅へとかえる

今日の夜ご飯は何だろう。そんなことを考えながら全身泥だらけで家に着いた

だが、そこには見たくもない男が立っていた。そう、あの青年だ

まるで雨の日を待っていたかのような仁王立ちでこちらを見下ろす


「・・・君、その力が異常だとは思わないのかい?」


「い、いじょう・・・?」


幼稚園児の頭脳ではそんな言葉が理解できないことは青年もよく知っている

だが、それでも恐怖という物は伝わるのだ。子供心にして青年の纏う不気味な雰囲気に恐怖を感じその場にすくみ上る雨の日


「拉致もいいんだけどな・・・まぁそれだと色々と面倒だからな。小僧、もうすぐ君の居場所はなくなる。どこにも、な」


それだけ告げると青年はハット帽を深くかぶり直しふふふと不気味に笑いながらどこかへと消えて行ってしまった

残された雨の日は半べそ状態でドアを思いっきり開け放ち台所で料理をしている母親に抱き付いた


「ゆ、勇ちゃん!?どうしたの!?」


「うっ、うっ・・・ぐすっ・・・」


母親に格好悪いところを見せたくない雨の日の精いっぱいの強がりで、何も言わずただ嗚咽を漏らすだけだった

そんな雨の日を母親はやさしく抱きしめよしよしと頭を撫でて上げる


「お母さんに撫でられると・・・おちつく・・・」


「そりゃそうよ!いい勇ちゃん、誰かが泣いて居たり困っていたら、よしよししてあげなさい?」


「よしよし・・・?」


鼻をずずっとすい、涙をふく


「そう。そしたら、きっと勇ちゃんみたいに落ち着くわよ!」


「よくわかんないけど・・・わかった!」


先の青年のことなどすっかり忘れ、母親に撫でられたことを嬉しそうにしながら泥だらけの体を洗うため風呂場へと向かっていった


「・・・本当、自慢の息子ね。しかも、私の天パちゃっかり受け継いじゃった」


そう呟いた母親夜ご飯の支度を再開したのだった

これから毎日、毎日。こんな平和な日々が続けばいい

そう心から願いながら―――――








だが無情にも時は流れ、雨の日も早いもので小学生に上がり二年生になったある日

母親の願いは儚くも散った


「え・・・?息子がけがを・・・?」


事の始まりは一本の電話だった

スーパーでの仕事中の母親の元に学校から緊急の呼び出し電話があり、雨の日が生徒を怪我させたというのだ

それも、最上級生である六年生を

子供が変革者であることを知っている店長はいたって真剣な顔で行ってきなさいとだけ告げ、母親は何度も感謝の意を込めて頭を下げ、職場を大急ぎで後にした


「おれやってない!」


「黙りなさい!現にこうして息子の太郎君が大けがしたじゃない!」


「でも・・・」


「すみません遅くなりました!」


丁度その時雨の日の母親が職員室に滑り込んだ

しかし空気は険悪

校長先生も苦い顔だ


「んまっ・・・子供が子供なら親も親ね、遅刻だなんて、礼儀ってものがないのかしら」


「まぁまぁ落ち着いてください・・・能見さん、事情は電話で説明した通りです」


職員室に居たのはふてくされた雨の日と、腕をほうたいでグルグル巻きにし痛そうに顔をわざとらしくゆがめる男の子。それから、よく言えばふくよかな。悪く言えば太っている親御さんが紫色の服に金ぴかの真珠のようなネックレスをつけてふんっと鼻を鳴らしている

これが巷で噂のモンスターペアレントか


「はい・・・息子が、けがをさせたと。すみません、息子と少し話してもいいですか?」


「はぁ?そんなこといいから謝罪と慰謝料払い・・・」


「手短かにお願いしますね」


相手の親の言葉を遮り校長が許可をくれた

母親は深く一礼し、雨の日の目の高さにまでしゃがむ


「・・・なにしたの?」


「おれは何もしてない。突然あいつがぶつかってきて大げさに痛み始めたんだ。変革者にやられたーって」


「・・・そう」


質問はそれだけ。母親は立ち上がり相手の親をしっかりと見据えしっかりとした態度で言葉を紡いだ


「だ、そうです。私は息子を信じますので」


これには聞き耳を立てていた職員全員が驚いたであろう

だが、それでも母親は凛とした態度で言ってのけたのだ

もちろん、相手方は怒り心頭だ


「ふざけないで!!どう考えたってその餓鬼のせいでしょうが!大体、化け物を普通の一学校に通わせること自体おかしいわよ!そんな餓鬼、研究材料にでも何にでもうっぱらっちゃえばいいじゃない!」


「お、奥さん抑えて・・・」


校長が必死に抑え込もうとするがその口から溢れ出る罵詈雑言はとどまることを知らない


「はっ!親子そろって屑ってわけね・・・何?まさかわたしの言ってる事間違っているだなんていわないわよね?変革者だかなんだかしらないけど、化け物は化け物!!さっさと殺すかして消したほうがましよ!」


その時、母親の堪忍袋の緒が切れた


「私をばかにするのはいいけ・・・っ!?」


だが、先にキレたのは雨の日の方だったようだ

これまで見たことのない怒りに満ちた顔で、その手には水で出来た剣が握られていて、まるでチェーンソーの様に刃が回転している

しかもその刃は喉元に突き付けられ、今にも喉を切り裂き職員室を鮮血で塗りつぶしそうな勢いだ


「おれをバカにしてもいい・・・けど、お母さんをバカにするな」


小学校二年生にしては低い声。それに殺気が込められている

さらに、周囲の空気が乱れ始めている。能力の影響で風が起きたような現象が起きているのだ

机の上のプリントが舞い、雨の日の謎の風圧により髪も逆立つ


「ひ、いぃぃぃぃぃぃ!?」


「ママ!!ママ!」


失神しそうな程怯えている二人を見下す目は冷酷。流石の母親でさえ、恐怖心を抱かざるを得なかったが、それでも愛する息子。悪いことは悪いと叱ってやらねばならない


「勇佑!!今すぐ辞めなさい!」


「・・・っ!?」


母親の怒号にハッと我に返った雨の日は今自分がしていたことの過ちに気が付いたのか、一瞬のうちに全ての能力が停止し、両手が震えはじめる

その手を、雨の日はただ虚ろな目で見つめ、その眼を母親に向け何か助けを求めるかのような表情を浮かべた


「勇ちゃん・・・」


母親の、呟く声が雨の日の耳にはハッキリとクリアに聞こえてきた・・・


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