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変革者  作者: 雨の日
EpisodeⅠ~昨日は今日の昔~
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其ノ二

其ノ二


「行っちゃった、ね」


「玉ちゃんと別れるのがってか?」


玉霰の日達と共にどこか修行場所へと旅立っていった2人の背を見ながら雷の日は呟いたが、雨の日に茶化された返しをされ思わずその場で数センチ跳び上がる


「お、図星かよ」


「ち、ちがう!!ただ俺は・・・」


「雷さーん!充電切れちゃったんで充電おねがいしていーっすかー!」


反論しようとした雷の日だったが、再建仕事に励む男に捕まってしましい止む無くそちらへ行くしかなくなってしまった

反論されなかったことを良いことに雨の日はにやにやと雷の日を眺め、まるで高校生さながらの茶化しを続けていた

だが、崩壊した天候荘を眺めた途端、その頬の緩みが少し違った色を見せる


「・・・よくみりゃボロッちぃなぁ。完成したときゃすげぇ綺麗だったのによ」


と、そこに霙の日が通りかかり、立ち竦む雨の日の膝を自分の両膝で小突く。いわゆる膝かっくんだ


「サボるなこの天パっ!!」


「のぅわっ!?何すんだこらっ!!」


「サボってるからでしょ!!まったく!大人なんだからサボりよくない!ダメ、ゼッタイ!」


びしっと指を差され、思わずその覇気に圧倒された雨の日は小さく頷く

それをしかと見届けた霙の日は頬を膨らませ腰に手を当て、わかればよし、と言ってどこかへ去って行ってしまった

その後ろ姿を少しだけ悲しそうに見届けた雨の日は崩れた天候荘をもう一度改めて眺め先の霙の日の言葉を思い出す


「・・・大人、か。早いもんだな。もう・・・28才か」


ふぅっとため息をついた雨の日。そして、天候荘が出来るより遥か前

自分がたどってきた変革者としての軌跡を思い出していた――――













変革者が変革者として目覚めるきっかけは実にシンプルだ

偶発的に、制約が払われる。それだけでいいのだ。もちろん、パッシブの能力者はいつでも開花できるので少し勝手が違うが

つまりは、晴れの日が変革者として目覚めてのは銃を手に持って発砲したからであり、風の日は家でコスプレをしてみたことがきっかけ。霙の日は、服をいつもより多く着込んだことがきっかけだ

・・・こうして考えると、目覚めやすい能力とそうでない能力。実に多種多様だ

そして、雨の日の制約は水を浴びる事。そう、母親の胎内にいるときからすでに

彼は変革者として覚醒していたのだ


雨の日 0歳


雨の日が生まれた時、空をすでに日が沈み、三日月が遥か高く、頭上にのぼっていた。しかもその日は歴史的にも珍しい大雨だった

そんな中、室内に元気な男の子の産声が響き渡った


「生まれましたよ!元気な男の子です・・・!」


長い間お産に立ち会ってくれたスタッフに抱きかかえられながらも元気に泣き叫ぶ男の子。それこそ雨の日だ

だが、悲劇にも似た奇劇がすぐに巻き起こる


「・・・あれ?この子濡れてない・・・?なのに髪の毛がクルクルしている・・・?」


その時だった。突然、周囲に水の弾がフワフワと浮かび上がり始めたのは・・・


「な、なにこれっ!?」


「母親を安全なところに!!そのこ・・・変革者よ!!」


それが、雨の日最初の能力の使用だった・・・

その後雨の日の能力によって生み出された水球は特に問題を起こすことなく消散し、全くもって被害が出ることは無かった

だが、生まれてきた子供が突然水を操りなどすれば恐怖でしかないだろう。まして、自分がおなかを痛めた子供が、だ

当時は今ほど変革者に対する認識がなく、変革者イコール悪

の感受性が強く根付いていたのだ。そのせいもあってか、スタッフ一同は混乱状態。首も座っていない赤ん坊を乱雑に、まるでモノのように持っていた

だが、母親だけは違った


「わたしの・・・息子です・・・抱かせてください」


「でもお母さん!今の見たでしょう!?あばれでもしたら・・・」


「大丈夫です・・・」


出産で疲れ切っているというのにも関わらず、母親の目には強い意志が宿っており、その言葉に誰も反論できなくなってしまった

観念したスタッフは赤ん坊をしっかりと抱き抱え、そっと母親の胸元に置く


「あぁ・・・可愛い子・・・きっと元気な子に育ってくれるわ・・・名前はそうねぇ・・・――。そう、――にしましょうっ」


その夜、雨脚は強く止むことは無かった









翌日、昨日までの雨が嘘のように雲一つない空から差し込む朝日に目覚めた

となりには険しい顔の父親が座って母親のみぎてを握っている


「目が覚めたか・・・!」


「あなた・・・おはよう」


昨日の出産時、父親は仕事先から大急ぎで病院に来ようとしていたのだが、いかんせんあの雨。交通機関がマヒして身動きが取れず結局間に合わなかったのだ

だが、母親はそれを咎めることなど決してしなかった


「立ち会えなくてすまんな・・・聞いたぞ、子供が変革者かもしれないと」


やはり話は行っていたかと母親は気を落とす。なぜなら父親は変革者に対して良い思いを抱いていないのだ

深い理由があるわけではない。だが、近頃ニュースでよくみかける変革者による犯罪の影響で悪だという印象が強いだけなのだ


「そうなの・・・ねぇ、それでも私たちの子供よ・・・?」


「・・・」


俯いたままの父親は何も答えない


「・・・あの子に名前だって付けてあげたの。勇介」


それでも、父親は何も言おうとはしない

きっと心の内で葛藤しているのだろう。子供を育てるか、それとも・・・

もちろん、法律は変革者相手であってもしっかり適用される。だが、現状生まれてすぐ目覚めた変革者の赤ん坊を事故として息の根を止めてしまう人も少なくないとか


「ねぇ・・・変な事いいださないで・・・」


「無理だ」


「・・・っ」


今、確かに二人の間に亀裂が入った

その亀裂はたった一筋だけだったかもしれないが、二度と戻ることのない亀裂だったろう


「変革者の赤ん坊だなんて危険すぎる。どんな能力かも分からないが、それでも化け物なんだよ」


パァン、と病室に平手打ちの音が響き渡った

それは当然、母親が父親に放った平手打ちだ


「・・・判子は引き出しの一番上の段よ」


「そう・・・か」


その一言ですべてを悟った父親は、静かに一人病室を後にする

そして、取り残された母親はその頬を涙で濡らしたのだった・・・


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