第十二話
第十二話
「わたし達、割と早い方だったみたいね」
「だな、まだ半数以上も残ってるなんてな」
扉の先では大勢の試験観客者が大歓声をあげながら迷路の中の様子をモニターで楽しんでいた
つまりは、そこがゴールだったのだ。それも雄太たちは早いほうで途中でのゴールらしい
リタイア数もかなりの数だが、まだ迷路内にいる人もかなりの数らしいこれまで雄太たちが引っかかってきた道の罠は大して困難ではなかったのだろう
でなければあんな罠で途中リタイアが出るのも珍しい
特に、中身が入れ替わる罠も、時間稼ぎ程度にしかならないだろう
美咲のせいで一瞬で破られてしまったが
「さて、と。じゃ、わたしはこれで。あんたとわざわざ一緒にいる意味がないしね」
ごもっともな意見である。ここで親睦を深めようなどと言っても詮無きことなのは既に雄太は分かっているのであえて言わない
どこかへ行ってしまう美咲の背中を見送り、雄太は雄太であてもなく駐屯地をうろうろしていた
「んー・・・眠いしちょっと仮眠取るかな」
と、そこへ雨の日がアロハシャツで現れた
「お~お疲れお疲れ、中々やるなぁ!で、いまからおねんねか?」
「まぁね。眠くて眠くて・・・」
大きなあくびをして、両腕を高く突き上げる
「まぁ、確かに今のうちに寝ておくのが無難だな。おやすみ」
「おう。そいや、アロハシャツ昨日も着てなかった?」
「持ってきたのが一着な訳がないだろう?」
流石雨の日
こういうところに抜かりはない
だが、少なくともこの組織のトップ権力者。これでいいのかと疑いを持たざるを得ない
「んじゃな~あ、お前のテントの裏の方に露天風呂あっから入っとけ。気持ちいいぞ」
「ん、そーしてみる」
汗も落としたいし、次の試験のためにも英気を養おうと夜にでも露天に向かうことにしてみた
その後は特にやることもなかったので一度仮眠をとり、その後は他の受験者の迷路の様子をモニターで見ることにした
試験の内容は雄太が思っている以上に多種多様で、そうやら出会えば即リタイアの罠もあるようだ
「・・・運に助けられたかな」
一人冷や汗をかきながら雄太はモニターに食い入り、時にハラハラ、時にスゴ技に肝を抜かれたりしていた
その夜
英気を養うために露天に向かった
露天は思っていた以上に豪勢だったが人の手の入っていない天然の雰囲気がより一層疲れた体に沁みそうだ
「っつあぁぁ~・・・」
まるでおっさんだ・・・
だが実際、この一日で大分歳をとった気もする
主に美咲のせいで
「ふぅ・・・次の試験は何だろう・・・つか、俺アイツとコンビでやっていける気がしねぇ・・」
と、雄太が思う中、美咲もまた同じような事を考えていたようだ
それでは、女子風呂へと視点を移そうか。ん?もちろん会話を聞くためだ。他意などない
「ねーね!ゆうきちゃんのパートナーさ、かっこよくないっ?」
「えー?あの人、意外とナルシストあってうざいとこあるよー?」
女子用露天風呂
男子用とは違い、こちらは数人が使用していた
数人と言っても続々と増えるので数は定かではないが
流石は女子、か。かなりの数が露天を利用しているようだ
「でも同年代ってだけいーじゃん!うちなんか10も上だよぉ?気まずいったら・・・」
お湯に濡れた髪が何とも言い難い艶を持ち、滴るお湯がまた一興だ――
・・・失礼。取り乱したかな。では再び描写に戻ろう
「いいじゃない。あなた達のパートナー、まともな人なんだから。わたしなんて全く使えない奴よ」
美咲の鋭いナイフが場の空気すら斬りつける
二人の少女は苦笑いしかできない
「ま、まぁまぁ・・・美咲ちゃん、求める基準が高いからさぁー・・」
「当り前じゃない。わたしは雷様以上の力でなきゃ認めないわ!あぁ、けどあの天パ野郎は論外よ」
「ほんと・・・雷さん好きだねぇ。雨さんのこと大っきらいなのにさ」
それはある種の禁句だ。そんなことを言えば雷の日の列強的ファンである美咲に火がつくのだ
「もちろんよ!あの雷様の包容力!若くしてこの組織の党首!もう痺れるわぁ・・・それに全国のボスよ!あの若さですごいと思わないほうが無理よ!設立時なんてまだ子供なのに、それでも国の軍に一人で戦えるほどの力があったのよ!?今の私と変わらない時なんて雷神なんて一部では呼ばれていたのよ!!」
案の定マシンガントークが始まった
熱く雷の日を語る美咲はまるでのぼせたかのように頬が赤く染まってきていた
「わかったから落ち着いて・・・」
しかし美咲の暴走は止まらない
「いい!雷様はね、ただの変革者じゃないの!自らの・・」
「体を能力に変換できる超上級者、でしょ?なんかい美咲に聴かされたか・・・」
オチを先に言われてしまい、美咲は一瞬フリーズした
しかし直ぐに立ち直る
「そう!それに引き換えわたしのパートナーときたら・・・」
ここで友人達も逃げなければさらに風呂に閉じ込められると踏んだようで、美咲をなだめつつ帰りたいオーラを醸し出していた
「はぁ・・・あ、みんな上がるの?ならわたしも~」
なんとか半ば強引に上がることを試みた少女たちの思惑通り、美咲も上がると言い出した。ここは年頃の女の子というべきか
結果的に見れば、露天での愚痴は幕を下ろした
「いや、でもそれにしてもあのバカは・・・!」
いや、次は更衣室での愚痴が始まったようだ・・・