其ノ一
EpisodeⅠ~昨日は今日の昔~
「それじゃぁ・・・雷さん、そろそろ俺たち行きますね」
多くの変革者が天候荘の再建の為、自分の能力や肉体労働でひたすらに汗をかく中、大きなリュックを背負い手元の資料を見ながら指示を出す雷の日に背後から話しかける晴れの日
「あ、もうそんな時間か・・・ごめん!ちょっと俺席外すね」
一人の大柄な男性に軽く声をかけて雷の日は晴れの日の元へ歩み寄ってきた
そして、いつもの爽やかな笑みを浮かべる
「気をつけて・・・じゃないな、頑張ってね!一年後、二人の成長が楽しみだよ」
「雷様も、天候荘の再建に励むのはいいけれど無茶しすぎないで下さいね・・・?」
話が見えてこない。そう思う人も多いだろう
その答えは、数日前に遡る――――
「ったく・・・随分派手にやられたな」
崩落した天候荘を見てため息をつく雨の日。その隣には腹部に巻いた包帯が痛々しい曇りの日といたるところに縫合の跡がみられる雷の日が立っている
「大変なことになっちゃたねぇ・・・」
そこに、落ち着いていて透き通るようなアルトの声が響く
声に反応した三人は申し訳なさそうにはははと笑いながらも振り返る。視界に入ったのはまず、栗色のきれいな長い髪。腰ほどまであるだろう。服装はカジュアルで比較的大人しめの色合いだ
「玉霰、聞いたぞ。姫と霙を助けてくれたらしいな。済まない、礼を言う」
曇りの日が深々とその女性、玉霰の日に頭を下げる
しかし本人は改まった行動が苦手なのかおどおどしながら手をぶんぶんと顔の前で横に振っている
「曇りおじさん、お久―っ!」
と、そこに10才ほどの小柄な女の子がどこからともなく飛び出してきた
そのダイブに思わず曇りの日は慌てるもしっかりと抱きとめる
「相変わらず懐かれてるね曇り。それにしても玉霰、ありがとう」
「それに、天泣と風花もな。ウチのもんが迷惑かけた」
雷の日、雨の日共に感謝の意を述べる
突如名前が出てきたが、この場にはもう一人居るのだ。先日の戦いにおいて猛者のような戦いっぷりを見せてくれた女性、風花の日だ
ちなみに、10才ほどの少女が天泣の日、という
「いーっていーって!あたしらが好きでやったことだし、な?」
「うんっ!犠牲が増えなくてほんっとうによかった!」
「二人とも・・・」
だが、そんな感動的なシーンの中、曇りの日は天泣の日のおもちゃとなっており、悲痛な叫びをあげていた
「な、和むのもいいが、天泣どうにかしてくれっ・・・!」
「やーっ!!曇りおじさんのおひげじょりじょりそるのー!」
年は言うまでもなくかなり離れている。だが、本当に仲がいいようだ
しかし光景は恐ろしいとも言え、天泣の日の指が剃刀の刃のように変形しており、今にも曇りの日の髭だけでなく喉もろとも切り裂きそうな勢いだ
見ていてハラハラもするが、曇りの日と言えど大人。自分で何とかするだろうと誰も手を出そうとはせずにこやかにはしゃぐ天泣の日を眺めるだけだった
「それで、あたしたちは誰を鍛えればいいんだ?」
曇りの日と天泣の日以外の会話のトーンが低くなる
そして、今回三人がここへ来た理由が明かされる―――
「晴れの日、雷火の日。この2人がアナザーにとって何かしらキーになっている情報はいっているよね?」
「この間の資料よね?ちゃーんとみましたっ」
元気よく玉霰の日が返事をする。それだけで、周りの空気が明るくなるような気がした
だが、玉霰の日の癒しをもってしてもこの議題は軽くはならない
「だからこそ、鍛えてほしいんだ。どうやら、期限は一年もあるみたいだからね」
「・・・へぇ」
風花の日がおもしろそうだ、と小さく呟いたが、誰に聞こえるわけでなく消え去った
そして、雨の日がさらに続ける
「俺らが教えてもいいんだが、実際問題つきっきりになれないからな。そっちに二人を預けておこうってのが俺らの結論だ」
「それ、2人にはちゃんと許可とったの?」
「いや、まだだ。なんにも話してねーよ」
そう、とだけ玉霰の日がつぶやき顎に手を当て少し考え始める
その間に、風花の日は天泣の日を曇りの日から半ば強引に引きはがし、自分の肩に乗せる
まるで親子の様だ
「・・・そうね。是非私達に任せて!一年でしょ?きっと強い戦士に育てて見せるわ!」
「引き受けてくれるか!ありがとう玉ちゃっ・・・あ」
しまったと言いたげな雷の日だが、周りは誰も何も思っていないようだ
それが逆に疑問に思った雷の日は首を傾げて少し赤い頬をこころで宥めながら全員の顔いろをうかがう
「・・・え、まさかデキてるのバレてないとでもおもってたんか?」
「てっきり天候荘公認だと思っていたぞ?」
「は・・・・え、うそぉぉおぉぉぉお!?」
これには思わず雷の日も大声をあげて驚いてしまった。そして慌てて玉霰の日の方を向くが、玉霰の日はそのことについてすでに気づいていたようで何のダメージもない。いや、それどころか・・・
「ごめんね・・・?ついばらしちゃった!」
「ったく・・・大変なんだぜ~?毎日のように惚気聞かされるんだからよぉ・・・」
風花の日がやれやれと首を降る。それに合わせて天泣の日も肩をすくめて首を降った
そうやらかなり惚気ていたようだ。でなければここまであきれるそぶりもないだろう
「うわぁ・・・なんかはずいし・・・それに、その・・・」
雷の日は少し言いにくそうに申し訳なさそうに雨の日を盗み見る
その視線に気が付いたのだろか、雨の日は乾いた笑いで切り返した
「なに、気にすんな。あ、結婚式には呼べよ?ただ飯狙いだけどなっ」
笑ってはいるも、周りは素直に笑えない。少しだけ空気がさっきと違う重さを持ち始めた
「風花ねーちゃ、玉ちゃんと雷にーちゃけっこんするのー?」
それでも、やはり子供というのは凄い力を持っている。子供故の純粋な疑問に一同が一瞬にして和やかな空気に変わったのだ
そして尋ねられた風花の日もにこやかな笑みで頭上に座る天泣の日に優しく教えてあげる
「きっと結婚するよ~?楽しみだねぇ?」
最期の言葉だけは二人を見て含み笑いを浮かべたが、あえて雷の日は気が付いていないふりをした
「まぁ、結婚云々の日取りは追々決めるとして、晴れと雷火にはいつ伝えようか」
「追々決めちゃうの!?」
だが、雷の日の悲痛な叫びは誰にも相手にされない
「ま、それはてきとーに伝えとくわ。霙あたりが」
「相変わらずなのねぇ・・・無気力なの・・・」
玉霰の日が若干あきれたようにため息を漏らすが雨の日はほっとけとそっぽを向くだけだった
そして、晴れの日と雷火の日の修行が幕を開け始めたのだ――――
時は現在
「ありがとう雷火ちゃん・・・さて、二人ならきっと最強の座まで上り詰めるんだろうね・・・楽しみだよ」
「おう!もちろん雷さんも抜いてやるからなっ!」
男と男の熱い約束、だろうか
拳を打ち付けあいエールを送り受け取る
「さて、晴れの日。そろそろ行くわよ。雷様、また会う日までっ」
「うん!何度でも言うけれど、頑張ってね・・・それから、全員構え!!」
突然大声を上げた雷の日に驚いたが、雷の日の視線の先、つまり振り返った二人はすぐに
その意味を知ることになる。なんとそこにはこれまで世話になってきた全天候荘所属の変革者が、出口まで花道を作り晴れの日達の修行に祈りを捧げていた
そしてその先には荒天組の三人がみえる
「敬礼っ!!」
「晴れの日、雷火の日、武運を祈るっ!!」
雷の日の掛け声で、全員が一斉に激励の言葉を叫んでくれた
もちろんその列には雨の日や曇りの日もしっかり参列している
思わず感極まりそうになった晴れの日だが、ぐっとこらえ紅銃を高く掲げる
それにならってか雷火の日も警棒を天に掲げ、晴れの日が雲一つない空に向かって大きく叫んだ―――
「みんなっ・・・いってくる!!」