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変革者  作者: 雨の日
第六章~天の御心~
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第十五話

第十五話



「・・・黙祷」


雷の日が落ち着いた声で今回の被害により犠牲となった人々に黙祷を捧げる

その瞬間の一秒が、一分にも一時間にも感じる

沈黙に満たされ、全員が黒服で静かに目を閉じてその場に佇み、屋外で行われた葬式に参加した数は本来の天候荘の人数の三分の二程しかいない。

その人数の中には頬に涙を流す者もいれば、現実味が湧かず抜け殻のような顔で立ち竦むものもいる。晴れの日は、悔しさに涙を流す者の方だった


「玉霰、頼む」


「ん・・・」


玉霰、彼女は本来であれば天候組でなく荒天組として、ここ天候荘には所属していない変革者なのだが訳あって今ここにいる。そして、彼女の手が炎に包まれ、その火を雷の日が持つ松明に移された

燃えているその松明が雷の日によって、なんの装飾もない大量に並べられた黒棺にそっと触れる。その瞬間、引火した火がゆっくりと棺を包み込んでいった

燃える棺は白煙を上げて曇天の空に吸い込まれていく


「その魂は天に召され、そしてこの地の恵みとなるだろう・・・安らかに眠れ」


送る言葉を呟くように述べた雷の日に続いて、雨の日、曇りの日がそれぞれ目の前の黒棺に点火する


「・・・どうせ、空から見てんだろ。お前の事だ、別れの言葉なんかいらねーよな」


「未来ある子供の命まで奪うとはな・・・安らかに眠れ」


それぞれが、失われた尊い命に言葉を投げる

それを合図として、天候荘の全員が一斉に点火し始めた


「・・・貴方、今までありがとう。愛して、いるわ。いつまでも永遠に」


唇を強く噛み、涙を見せないように我慢した顔でフレディの棺に火を放つ奈緒美

その隣で晴れの日と雷火の日は静かに棺に火を付ける


「・・・虚しい、な」


「そうね」


雷火の日はただそう一言つぶやくだけだ


「何のために強くなったんだろうな、俺たち」


「いいえ。まだまだ弱いのよわたし達は。ただ、それだけ」


「そうか」


今度は晴れの日が一言つぶやくだけだった

今にも雨が降り出しそうな曇天の下、俯き佇む晴れの日と雷火の日だが、くるりと反転下雷火の日が晴れの日の一歩後ろまで歩き、止まった


「・・・へこたれる暇があるなら鍛える事ね。最強になるんでしょ?」


「あぁ・・・そうだよな・・・でも」


「でもも何もないわ。強くなる。その気持ちだけは崩しちゃだめ、絶対よ」


珍しく励ましの言葉を投げかけてくれている、と一瞬晴れの日は思ったが

違う

今の言葉は全て自分に向けた言葉だ

自分を・・・奮い立たせるための


「雷火・・・お前・・・」


泣いているのか?

そう聞こうとしたのだが、その言葉が出るより早く突然背後から拍手のような音が鳴り響き全員の視線が集まる

その時、空からは遂に雨が降り始めたようだ

頬に一滴の水滴が付く


「これはこれはお揃いで・・・おや?誰かのお葬式でしたか?誰の?」


「・・・誰だテメェ」


いきなり現れて不謹慎なことを言い始めた全身黒スーツに黒いハット帽のその男に全員が敵意をむき出しにして、能力をいつでも使えるように構えるものまで居た


「あら?忘れられてしまいましたか・・・口調のせいかな?仕方ないか・・・」


そういいながら、傘を差し、ハット帽を脱いだ

その瞬間、晴れの日の目が大きく見開きそして頭上にはハテナが浮かんでいた


「父・・・さん!?」


「お!雄太じゃないか!久しぶりだな~・・・元気か?」


そう。彼は晴れの日の父親、健人その人だ

服装にしろ、この場に居る理由にしろ、口調にしろ、なにからなにまで晴れの日には理解できない。ただただ思考がショートする一方だ

だからこそ、次に口を開いたのは健人の方だった


「まぁ、驚くのは無理もないか・・・私はアナザーのボスのいわば秘書ってところだ。あぁみなさんどうか殺気を静めてください。ただのお知らせのようなものですよ」


「健人。どういうことだ、お前がアナザーだと・・・?」


曇りの日が本格的に降り始めた雨に全身を撃たれながらも健人を睨み、怪訝な顔をする

しかし、対照的に健人は苦笑いを浮かべるだけで何も答えようとはせず、ただ人差し指を立てて唇に当てるだけだった


「私達アナザーは、最終的な目的を果たすためにデュラハンとシルヴァを回収したい。もちろん、今ここで。もし素直に引き渡すようなら今後一切の攻撃はしないと誓いましょう。まぁこの襲撃で攫うはずだったんですがね・・・まさか白雨が負けるとは思いませんでした」


「わたしと、晴れの日ねぇ・・・」


雷火の日が威圧的に腕を組み、睨みを聞かせ上体を反らす

完全に敵視していることが明らかだというのにも関わらず、健人の薄気味の悪い笑顔は消えようとしなかった


「霧・・・いや、今はもう健人か。悪いけど二人は渡せないよ。たとえ何人がかりで雇用とも、絶対に」


「ですよねぇ・・・まぁそうだとは思いました。でも余裕でいられるのも来年までですよ」


来年。随分と遠い話だと、頭のどこかで晴れの日は呟いた

が、次に発せられた健人の言葉でようやく合点がいく


「来年、万里の長城の龍脈が目覚めます。最強に匹敵する龍脈、私達が得たら最後みなさんの生死は保障しませんが?」


これはあからさまなおどしでしかない

だが、この程度の脅しにおびえるほど軟な人はこの場にはいないようだ


「望むところ、だよ父さん。なんで父さんがアナザーに居るのか教えてほしいけど、こういう時って基本教えてくれないんものだよな?」


晴れの日も、例外ではなかった

一歩前に歩みだし、そして臆することなく話しかけた晴れの日に、全員が少しだけ微笑む

それは、健人でさえ同じだった


「賢く、強くなったな・・・母さんも喜んでいるさ。そうだな、お前の言う通り教える気はない」


「だよな・・・でも、たとえ父さんが家族だろうと何であろうと、俺の仲間を傷つけた奴らの仲間なら手加減はしねぇさ。来るなら来い。俺が全員燃やしてやらぁ」


「・・・わかった。ではみなさん、交渉は決裂ということで?」


満場一致で首が縦に振られた

そして、雷の日が最後にこういった


「お前たちのラスト・ワンの計画もろとも、絶対ぶち壊すからな・・・健人」


「あぁ、それは無理ですね。では、私はこれで」


最期の一瞬、火花が散った気がするが気に留めないのが吉だろう

降り始めた雨は徐々にその激しさをまし、誰一人として傘を差していないこの状況で、全員を濡らし続ける―――


「・・・一年、か」


猶予は一年

死んでいった人たちの思いを受け継いで今まさに、

晴れの日達の人生は新たなるステージに突入しようとしていた・・・



変革者第一期

第六章~天の御心~


苦節半年ようやくこれにて、無事完結!

第二期

EpisodeⅠ~昨日は今日の昔~

近日公開

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