第十四話
第十四話
白雨が気を失い、地に向かって急降下する最中、流石にそのまま落下させるのもかわいそうに思えた晴れの日は曇りの日に頼んで煙でキャッチしてもらったのがほんの数分前の話
今は、白雨を失ったことで統率の無くなって収拾がつかないアナザーに対して各々獲物を取り始め、臨戦態勢に入ったところだ
もちろん、雷火の日晴れの日含め全員が先の白雨との戦いで大分消耗しており、かろうじて戦えるであろう雷火の日と晴れの日、それから肉体的な傷の言えている雨の日でさえ、人数的に考えて、戦えても勝てるかどうかが怪しいのが現状だ
だがしかし、当然敵は情けをかけてくれないのが当たり前。今にも襲い掛かってきそうないきおいに、雷火の日は警棒を、晴れの日は紅銃が吹き飛ばされているため拳を熱で強化してある
「・・・これ、やばいよな?」
額に一筋汗を垂らしながら晴れの日が雷火の日に震える声で話しかける。当の雷火の日もさすがにいつもの憎まれ口を叩ける余裕が無いようで、雷の日曇りの日の消耗具合を見てため息を漏らした
「ま、なんとかなるだろ。雷、曇り、テメェ等は下がってろ」
「ごめん・・・足手まといになっちゃって・・・」
先の戦闘ですら十分無理して動いていた雷の日は白雨に遣られた傷を恨めしそうに抑えながら曇りの日と肩を貸し合い三人にこの場を任せる
「・・・天パ皇子、あんたの能力で一番の大技使えばどれくらい消せるかしら?」
「あん?大技ねぇ・・・正直無理だ。近くに川とか湖ありゃ話は別なんだがよ」
「ってことは薙刀オンリーか・・・」
「ま、そゆこ・・・っと、なんだ・・・晴れ、雷火。俺らの出番はなさそうだぜ?」
突然雨の日が空を指さす。その指さした方向に二人が目をやると、太陽のせいで逆光になりシルエットしか見えないものの、二つの影が見えた
そう、ようやく登場。偽物妖精の双子だ
「・・・兄ちゃん、僕らいつも残党狩りとかデスネ」
「言うな。それは俺も思っている。我慢するしかねーなこりゃ」
その存在にアナザーも気が付いたのか、天候荘を囲む全てのアナザーが正面玄関に集合し、晴れの日達と対峙しながらも上空に突如現れた二つの大きな力の塊に恐れをなしつつも武器を取る
だが、援軍はそれだけではなかった
「あ!雪―!!」
晴れの日達の背後から唐突に上空の雪の日目がけて大声で名前を呼ぶ声が聞こえた
そう。生き埋めにされ、生死の境目をさまよった霙の日だ
そしてその隣には全身ボロボロになりかろうじて巫女服だと推測できる服を着た風の日が腕を組んでアナザーの残党を鋭く切れ味のよい目で睨み続けている
「霙っ!すみません、遅くなりましタ・・・」
「いいのよ雪、気にしないで・・・ほら、霙も興奮しない。どーどー」
雪の日が申し訳なさそうに頭の後ろを掻き高いところからではあるが軽く頭を下げた
「むっ!興奮なんかしてないしっ!」
ぷっくり頬を膨らませた霙の日が首の後ろを掴む風の日のその手を振りほどきながら抗議したがハイハイ、と風の日には軽く流されてしまった
「みんな・・・っ無事だったか!!」
みんな。そう、晴れの日は、まだこの戦いの犠牲を知らない
撫子とフレディ。大切で大事でかけがえのない仲間を・・・失ったことを
「ふ、副隊長!不味いですよ・・・消耗している奴らだけならまだしもこの量の敵を相手にするのは・・・」
一人のアナザーの兵が副隊長に撤退を促してみたが、当の副隊長はボスである白雨が倒され自棄になったのかその助言を無視して全軍に向けて指揮をとりはじめたのだ
「わ、我々は何があっても撤退しない!たかが十数人!!打ち取ってしまえぇぇぇ!!」
その声が晴れの日達天候荘サイドにまで響き渡り、全員の目付きが変わり纏う空気も変わる
各々が能力を発動するための制約を払い、そしていざ決戦のその時―――
「んもうっ!風花ちゃん!ここアナザーの陣地じゃないっ!」
甘い声がアナザーの集団のさらに奥からこちらにまで聞こえてくる。その声に敵意や緊張は全く感じられず、ここが戦場であることを一瞬忘れるかのような錯覚を起こす
そしてその声に返答する声もまた、ここが戦場であるという緊迫感のない声だった
「あっちゃー・・・あたしの方向音痴炸裂、的な?まーどんまいどんまい!」
『風花ねーちゃ、迷子はめっ、だよ!』
言葉使いこそ荒いがどこかかっこよさと張りのある声が聞こえたかと思えば、洞窟の中から声を発しているかのような響きを持った幼い声が聞こえた
もちろん、その声を聴いたアナザーでさえ全員、自分の背後に目を向けた
「え、なにあたしが悪いの!?いーじゃんたどり着けたんだしさ!」
「やれやれ・・・しょうがないなー・・・じゃ、ちゃっちゃと終わらせよっか!いぇいっ!」
『玉ちゃんが言うなら・・・ん、いぇーい!』
その掛け声が聞こえ、なにがなんだか分からない晴れの日と雷火の日は狐につままれたような顔をしていたが、他の天候荘のメンバーはいたって笑顔でその声を聞き届け、そして纏っていた殺気を消し去り戦意が失われる
「な、なにもんだきさまぶるぅぁらっ!?」
「てーいっ!ダイヤモンドぱーんちっ!」
奥の方で一人の男が宙に打ち上げられるのが見えた
さらに立て続けにどんどん兵が空へと舞い、すべてのアナザー兵の意識が今の三人の声の方へと向く
「ら、雷様・・・何が起きているの・・・?」
男勝りのような口調の人はその手に身の丈をはるかに超え、刀身でさえ自分の身長を超えているまがまがしく髑髏の付いた鎌を片手で振り回し、近づく者、そうでない者さえまとめて切り裂いた
そして、その鎌が一瞬光り、その姿をメリケンに変え拳に装着し、まるで大砲のような爆音と衝撃と共に兵を吹き飛ばす
「雷火ちゃんと晴れは初めましてだね・・・あの三人、いや今は二人か。とにかくあの人たちは・・・」
傷が痛むのかそこまで話して曇りの日にアイコンタクトで続きを託す雷の日達の先では瞬く間にアナザーの残党が減っていく最中、暴れたり無い雪の日と嵐の日が後方から獲物を欲する獣のように戦いに身を投じる
だが、すでに嵐の日は血を減らし過ぎたようで雪の日が作る細くて長い槍を乱雑に放つしか出来ていない
もちろん、それだけの攻撃でもアナザーには多大な損害だ
「・・・変革者最強が雷なら、変革者最強パーティ、は間違いなくアイツ等だろう」
甘い声の一人はひたすらに拳で戦い続けている。だが不思議なことに、いかなる攻撃でさえ当たっている気配がないのだ
いや、言い方に御幣がある。正確にはかわしてもいないのに攻撃が当たらないのだ
「アイツ等は・・・荒天組の玉霰、風花、天泣。俺たち天候組とならぶ天候荘きっての優秀グループだ」
「ここの天候荘じゃなくて、別の県だけどね!」
霙の日が補足説明、と言わんばかりに晴れの日の後ろから顔を出す
一瞬驚いてしまったが、霙の日も見たところ大きなけがも無いようで少しほっとする
そしてその時と時を同じくして、荒天組の変革者と雪の日がこの短時間で全てのアナザー兵を、倒しきって見せた・・・つまり
白雨というボスを倒し、残ったアナザーの変革者をまさに一瞬で倒した今この時・・・ようやくこの戦いに、決着がついたのだ
だがもちろん失った代償はあまりにも大きい。素直に喜ぶことなど誰にもできやしないほどに、だ
勝利した安堵に緩んだ頬でさえ、振り返って視界に捉えた崩壊している天候荘の前に、悲しみの表情に変わっていった・・・