第十三話
第十三話
「あばらが折れたのは痛手だけど、不意打ちは成功・・・ね」
吐血しながらも白雨はその場に座り込み、気を失った雷火の日を一瞥した後、制約の払えなくなった晴れの日の方を見て勝ち誇ったかのような表情を浮かべ、言葉をつづける
「三大将は何してるんでしょうね?このままじゃ、大事なお仲間死ぬことになるわよ―――」
最期の一言は確実に晴れの日に向けた言葉だろう。その証拠に、水で出来たマネキンのような白雨の分身が二人同時に襲い掛かってくる
「流石に不味いぞ雨さん」
少し離れた位置から曇りの日が少し慌てたように早口でまくしたてる
もちろん、なにが不味いのかは言うまでもあるまい。それに雨の日だって危機感を覚えているところだ
「雷!そっから白の分身ぶち抜けるか!?」
「流石に無理そッ・・・さっきの攻撃で視界がちょっとぶれちまうッ・・・!」
流石に能力なしで晴れの日が二人同時に勝てるわけがない。雨の日に近接の動き方を教わったとはいえ、それはあくまで護身且つ回避用。迎撃用の動きは本当に少しだけしか学んでいないのだ
「大丈夫・・・俺は負けないさっ・・・」
「・・・晴れ?」
しかしそんな心配はよそに静かに目を閉じた晴れの日の行動に周囲の三人は思わず動きが止まる。まさか戦意喪失したのでは?と少しだけ疑ったがそれは浅はかな考えだったと白雨含む全員が悟った
「無我―――」
まず、無我を発動する
その瞬間、白雨の分身の内一人が晴れの日をはさんで陣取りその手を剣に変え一人は振り下ろし、一人は薙ぎ払った。そしてその剣が晴れの日の体に触れるか否か、といった刹那
「消えな」
凍てつくような冷たいまなざしと共に晴れの日の両腕が紅く染まる。そのまるでマグマのような輝きを放つその腕で二つの剣を受け止め、いや正確には白雨の分身の腕毎蒸発させる
そして、その場にとっさにしゃがんだ晴れの日は地面に手を着き全身を支え逆立ちし、両足を大きく広げ手の力だけでそのまま一回転。分身にけりを叩き込み、流れるように上体を起こした晴れの日は燃えるその手で分身の顔をきれいに打ち抜き蒸散させる
「・・・晴れのやつ、いつの間にあんな動きをっ?」
今まで誰も教えてこなかった動きを完璧に習得した達人のような動きで繰り出した晴れの日に驚きを隠せない雨の日達三人だが、形勢逆転の現象に歓喜もしていた
対照的に白雨は、たった一撃で自分の作った分身が消されたことにショックを隠せずにいる
「・・・白雨、計算不足だったな!言ったはずだ俺は・・・最強の変革者だってな!!」
「・・・たかが一人。それにそんな中途半端な体質変換で勝った気にならないで・・・?」
その言葉の終わりと同時に分身の形が変わり始めた
大きく、赤く、羽の生えた・・・朱雀へと・・・
「でっけぇ・・・けど鳥、ねぇ・・・はッ焼き鳥にしてやんよ!!」
拳を強く握りしめた晴れの日だが、白雨の狙いは朱雀の生成ではない
「いいことを教えてあげるわ。自らの体を能力の属性に変換できるということは・・・」
そういいながら体が水に変わり朱雀の元へと流れていき、それをまるでゼリーを一気に飲み干すかのように朱雀が大きく口を開け一息で飲み込む
当然白雨が自害したわけではない、声はまだ聞こえているのだ・・・朱雀の中から
『体そのものを自由に変えられるっていう事なのよ!!』
自分の体を変換し、能力と融合など雨の日達でさえ不可能な芸当だ
それに、下手をすると元には戻れない可能性だってある。しかしその分得られる力は膨大なようで確かに晴れの日は危機感を覚えざるを得なかった
だが・・・たかが鳥。負けるつもりなど毛頭ない
「負けそうになったら巨大化・・・日曜朝の戦隊物じゃねーんだから勘弁してくれよ・・・」
ゆっくりと上昇していく際に見えた羽を広げた全長は横10mは超えているだろう。だが、それでも威圧感に負けることなく思ったことを素直に告げた
その言葉にこたえたのは、いきなり晴れの日の肩を掴んだ雨の日だった。彼は撫子の治癒能力の恩恵のお陰で傷は完全に癒えているようだ
「でもそいつぁよーするに白も最後の切り札って訳だろ?」
「考え方が楽観的だね相変わらず・・・」
少なくとも半身から出血している雷の日が乾いた笑いで片足を引きずりながら現れる
その横には折れ曲がった煙草を半ば無理やり吸い続けている曇りの日の姿もあった
「そんなこと言っている場合じゃないぞ。見ろ、何かは分からないが力をためはじめたぞ」
見上げてみると白雨はその翼に大量の水を集め始めぐつぐつに煮立ち始めているのが遠目にもわかる
四人は険しい顔つきに変わり円陣を組んで作戦を立てはじめる、がそこにもう一人参加者が来た。雷火の日だ
見れば唇を切ったようで若干赤いが、見たところ他に外傷はなさそうだ
「わたしも・・・やれるわ」
「・・・雷火ちゃん、もちろん頼りにしているよ!」
雷の日に頼られることがうれしいようで頬を赤く染めながら円陣に加わる
作戦を立てたのは曇りの日。簡単なプランだが、危険も当然伴う。しかも恐らくではあるがチャンスは一度きり
白雨の攻撃が貯め終わり放たれれば五人どころか天候荘が消えかねないのだ
「よし、これでいこう。作戦内容は―――・・・」
『さぁて・・・どうやって私に勝つつもりかしらねぇ・・・特に黒。あなたが私の誘いを受けなかった理由は分からなくはないのよ?私だって信じられなかったもの。ラスト・ワンの意味なんて・・・』
上空で力をためる白雨は感傷に浸ったような声で呟き、その羽に貯めた水を今度はバスケットボール程の大きさに分けていく
『・・・動き始めた、わね』
曇りの日がその場にいる全員の姿が見えなくなるほどの真っ黒な煙を放ち、白雨から下の様子が見えなくなる。だが、見えずとも気配で動くものは感じ取れる
少なくとも三つ、力の塊が三方向から同時に飛び出してくるのが分かった
「っひょ~!孫悟空みてーだなオイ!」
「何を呑気に言ってんの!?」
「もう嫌・・・なにこの天パ」
曇りの日が作り出し操作している雲にそれぞれ乗り込み雨の日の言う通り孫悟空のようなスタイルで白雨目がけて飛び掛かる。その距離100m程
地上では援護射撃をする雷の日と煙の操作と天候荘への万が一の攻撃を防ぐための曇りの日が待機している
『ふふっ面白いじゃない!!さて・・・生きてたどりつける人はいるのかしら?』
分け終えた水に回転を駆け硬質化。さらに沸騰している
まさに一撃でも喰らえば一巻の終わりの弾幕ゲームだ
「全員だぜ・・・覚悟しろ白雨!雨さん、雷火!行くぞ!!」
「えぇ・・・絶対・・・負けるわけにはいかないわ!!」
まるで豪雨のように降り注ぐ水球が三人を襲い始める。だが、目と鼻の先にまで迫った水球ですら、曇りの日の煙操作の前では止まって見える。まるで蝶のように自由自在に飛び回る三人に水球は決して当たることは無い
ごくまれにかすりかけたり不意打ちがあるが、それぞれ警棒、燃える拳、薙刀で難なく防いでいる
だが、それでけ避けるということは、その水球は全て天候荘目がけて落下していくのだ
もちろん、まだまだ天候荘の変革者は中に居る。やらせるわけにはいかない・・・がそこは我らが雷の日
一撃一撃が大きい雷の日はお得意のゆびぱっちんで天変地異並の雷を降らせ的確に水球だけを潰し続ける
「行けるッ・・・勝てるッ!!」
ここまで好調に進んできたことに晴れの日の心は勝利の二文字がハッキリと浮かんで来る
だが、油断は禁物。徐々にではあるが曇りの日の制度を超える操作の所為で白雨の水球が晴れの日達に当たることが多くなってきていた。まだ自分で防げるがそれもいつまで続くか・・・
『くっ・・・調子に・・・乗るなァ・・・!!』
その瞬間、晴れの日の頭に一発の水球がヒットする
岩のように固く、火よりも熱い。そんな痛みに気を失いかけるが気合で乗り切り落下しかける体をしっかり支える
「晴れの日ッ!」
動きが一瞬止まった晴れの日を心配して雷火の日が甲高い声を上げたが、額から血を流しながらも笑って返した晴れの日を見て少しだけ胸を撫で下ろしすぐ前を向き直る
が、その時にはすでに目の前に水球が・・・
「・・・よそ見すんなツンデレ娘!」
警棒で防ごうと構えた雷火の日だがその水球が当たることは無かった。思わず閉じてしまった瞼を開けると雨の日の薙刀が水球を真っ二つに切り裂いた瞬間が飛び込んでくる
「・・・礼は言わないわ。ツンデレじゃないから」
「えぇー・・・助けてやったのにそりゃねぇ、よっと!」
再び水球を切り裂きながら雨の日は曇りの日にハンドサインを送り一気に上空、白雨のさらに上まで登っていく
「作戦開始だ・・・雷火!こっからが正念場だぜ!」
雷火の日の一歩後ろから上昇を続ける晴れの日が両の拳に滾る熱をさらに強める
そしてこれから始まる曇りの日考案の作戦に向けて気を引き締めたのだ
「・・・でもまずはあの天パが成功してくれないと困るわッ!!」
「ま、雨さんなら大丈夫だろ。それより、とどめの一撃、頼んだからな!!」
最終戦を前に気持ちが高ぶっているのか若干の微笑みが見て取れる晴れの日を乗せた煙が曇りの日の操作により90度横に逸れ、雷火の日と別行動を始めた
一方上空では雨の日が煙から飛び降り、まっさかさまになりながら朱雀と融合した白雨の元へ急降下を始めていた
『何を企んでいるかは知らないけど、無駄よ!この形態になった私はもはや龍脈と同等のエネルギー体!この体が亡ぶまで無限に能力が使えるのよ!!』
「へぇ、なら・・・力比べといこうやッ!!」
「よし・・・流石だ雨さん。このまま注意を引き続けてくれ・・・」
地上で三人の煙を器用に操作し続けながらも天候荘に水球が当たらないように配慮している曇りの日が呟く。そのつぶやきは独り言であったのだが、隣に居た雷の日が少しばかり嬉々とした表情で応える
「なに、雨なら・・・いや、あの二人ならきっと勝ってくれるさ。なんせ、最強なんだし、ね?」
「ふっ・・・そうだったな」
朱雀が雨の日に向いたために、全ての水球が上に向かい始めたのだ
もちろんここまで曇りの日の計算通り。短気且つ雨の日を殺すことに執着気味の白雨の事だからと踏んだ読みは外れていなかったようだ
『全水分を集中・・・死ね、黒ォォォォォ!!』
口に次々と空気中から製造した水を集め、そして圧縮して沸騰させながらまるでビームの様な真っ白な水を放った
そのあまりにも規模が大きい攻撃に雨の日は一瞬苦い顔をするが、負けじと両手を朱雀の放った水に向けて突きだし、同じように水を集め、高速回転させながら透明に近い青い水を放った
「うわッ・・・衝撃が・・・!?」
「あの二人・・・互角・・・っ?」
両者の放った水はお互いから等距離の位置でぶつかりあい、その威力ゆえに大爆音と空気をも震わす振動を産みながら均衡を始めた
『あら・・・黒、まさかそれが本気じゃないわよね?もちろん私は本気じゃないわ』
「うる・・・っせ!まだまだ・・・こっか、ら・・・だっっての!」
だがしかし、実際問題雨の日の限界はもうすぐそこだった。なにせ相手は龍脈持ち。いくら実力者とはいえ、そこが知れている。さらに・・・
「まずい!雨の水が白雨さんに吸収され始めてる!!」
どうやら操作性においては白雨の方が一枚上手らしい。その証拠に、雨の日が作り出した水がどんどん白く染まり、その支配権が白雨の元にいってしまっている
「チッ・・・しゃーね!!晴れ、雷火!一気に決める!雷、援護頼むぞ!」
何か決め手があるのか、上空から大声で叫んだ雨の日の声は全員に届き、聞き届けた全員も首を縦に振った
そしてそれを見届けた雨の日は、自分の周りに数十本もの槍を生み出し、その刃を振動させ始める
『・・・?』
その行動に疑問が生じた朱雀は一瞬首を傾げた
「よいこのみんなは・・・真似すんなよッ!」
その刹那・・・すべての槍が雨の日の体を貫き全身から信じられないくらいの血が噴き出る。しかも、撫子の治癒能力によりすぐさま傷口が治り始め、そして再び鮮血が舞う
そんなことを繰り返し始めたのだ
「あ、雨さん、気は確かか!!」
「安心しろ曇り・・・俺は死なねぇよ」
その口元は、笑っていた
噴き出た血を雨の日は一瞥し自分の能力の支配下に置き放つ水に織り交ぜる
すると、不純物が混じったことにより雨の日の水は真っ黒に染まり始めさらには白雨による吸収も収まり始めたのだ
理由は一つ。自らの体液がそう易々と他人に支配されてはたまったもんじゃないからだ
「あの天パ、自分の血液なら支配力も強いって考えでも思いついたのかしら。バカだけど・・・賢いわ」
珍しく雷火の日が雨の日の行いを認めたその時だった
下から、雷の日のゆびぱっちんの音が聞こえたのは―――
『雷・・・?!』
思わぬタイミングで背後から放たれた電撃に完璧に油断していた朱雀は雨の日と均衡を渡り歩いていた水を消滅させ、持てるエネルギーを大いに使い下から昇ってくる雷の日の攻撃に対応した
だが、その瞬間今度は雨の日の血交じりの水が朱雀のがら空きの背中に突き刺さることとなった
「ナイス静電気!」
「静電気言うな!」
こんな時でも余裕のある2人はやはり最強に近い存在なんだなぁとこの時晴れの日は少しだけ感動をも覚えたのだった
と、その時ようやく背中に雨の日の能力が深々と刺さった白雨はその痛みにもがき始めた
それこそ、チャンスだ
「頼むわよ晴れの日!!」
「任せろ!曇りさんッおねがい!!」
その返事が声として晴れの日に届くことは無かったが、煙が作戦通りに動き始めたことを考えるに曇りの日に声は届いていたのだろう
晴れの日を乗せた煙は、まるで特攻部隊の様にわき目も振らず白雨目がけて突進していく
『小癪ね・・・っ見えてるわよ!!』
「曇り!白雨さんの視界をふさいで!」
「了解した!」
雷の日の的確な指示により、朱雀が攻撃に移行する前に曇りの日が真っ黒な煙で二人を包み込む
『こんなもの・・・吹き飛ばしちゃえば・・・』
「させるかよ」
「やらせないよ?」
その一言がさらりと二人の口から零れ落ちると同時に、朱雀の羽も堕ちた―――
晴れの日の道を作るために、ただその一つの目標の為に、雨の日が右翼を切り落とし、雷の日が左翼を打ち抜いたのだ
それにより、痛みとアンバランスにより体制が大きく崩れた朱雀。そしてその少し上空に、晴れの日を乗せた煙がようやくたどり着き、勢いよく晴れの日は飛び降りた
そして、右の拳に全神経を集中させて景色が熱気で揺れるほどに高温を帯びる
「ありがとう二人とも・・・!!行くぞ白雨ェッ!!」
『無駄・・・よっ・・・私の体はいまや朱雀・・・!!』
だが、まるで聞き耳を持たない子供の様にその言葉を無視した晴れの日は、渾身の拳を朱雀の顔面に叩き込んだ
「オッラァァァァァ!!!」
『な・・・何この力っ・・・!!朱雀が・・・解ける・・・!?』
その次の瞬間だった
突如大爆音と共に曇りの日が出現させた真っ黒の煙が消え去り、さらには朱雀の姿さえもなくあるのは白雨の頬を殴りつけている晴れの日だった
「雷火ッ!止めだぁぁぁっ!!」
まだ意識の残る白雨と共に上空から落下する晴れの日は、下で構える雷火の日に向けて大声で叫ぶ
そして、その声を聞き届けた雷火の日は、ゆっくりと目を開き無我を発動させて警棒を下に構える
「残念ね・・・この戦いは・・・」
「私が・・・負けるっ・・・!?そんな・・・龍脈も食べたのに・・・っ」
これまでに受けたダメージがついに限界を超えだしたのか、白雨に反撃する余力は見られなかった
今だって、龍脈の恩恵なしには意識を保っている事すら難しい状態なのだろう
「わたし達、天候荘の勝ちよッ!!」
大きく振り上げたその警棒が白雨の腹部をしっかりと捉え、遠くに居ても聞こえるほどの大音量で骨を砕いた
その衝撃にはさすがの白雨も耐えられないようでその眼から、光が消えた―――――