第十一話
第十一話
突然現れた援軍に怒りをあらわにし目が少し血走る白雨は傷のある肩を抑えながら視線だけを晴れの日に向けた
その眼力に、今までならば立ちすくむであろう晴れの日だったがそれは過去の話。今はもう違う。その眼をしかと睨みつけ気持ちの面から負けないと意気込みその手に握られ銃口からは熱を出した後の硝煙が昇る紅銃を強く握りしめる
「ははっ・・・雷火、雨さん殺したら大変なことになるからな? にしても情けないなー三人とも。そんなんじゃ俺が最強の座とっちゃいますよ?」
「晴れの日、余談している暇はないわよ?構えなさい」
警棒を両手で握りへその前にまっすぐ構える。この構えは剣道などでよく使われる構えでオーソドックスな構えだ
して、白雨は雨の日を縛り上げたまま放置し流れ出る血を自分の能力で止血し痛みをアドレナリンで乗り切り攻撃の目標を二人に移す
「晴れの日と・・・雷火の日・・・嬉しいわね、捕獲対象がそっちから来てくれるだなんてっ・・・!」
そういいながら雨の日を締め上げる水の力を引き上げ外傷こそ残さずに意識だけを刈り取りその口を封じた
これなら、いくら細胞が活性化していようとも関係ない。賢い選択と言えよう
「・・・やっぱり狙いは俺、ってかデュラハンとシルヴァか」
「あら、賢いじゃない。なら今私たちが戦って勝てる見込みがないことも明白だと思うけど?」
2人に向けて細く白い綺麗な手を差し出してきた
もしその手を取れば命は助かる
とでも言いたげだ。しかし当然二人の答えは決まっている。NOだ
「何?雨ってつく人はみんなウザったいのかしら??」
「!?」
雷火の日の声は不思議なことに白雨の背後から聞こえてきたのだ
だが、確かに白雨の前に立つのは晴れの日と雷火の日。すなわち今この場には二人の人間が同時に二か所に居る事となる
「意外と反応鈍いのね」
小さく嘲笑いその手の警棒を水平に振り払う。白雨は一瞬反応が遅れかろうじて盾を作るだけで手一杯だったようだ
全ての衝撃を吸収しきれなかった白雨の盾は粉々に砕け、500kgを超える重さでその警棒が脇腹を捉え10mは吹き飛ばす
「―――新技、蜃気楼ってとこかな?」
分身の種明かしは、晴れの日が熱で生み出した蜃気楼に雷火の日の姿を投影していたただそれだけ。しかしその精密さはまさに本物そのもので実力者の白雨が気が付けないほどだった
そのことに満足感を得た晴れの日は吹き飛ぶ白雨に向けて二発の熱線を放った
「正確ね・・・ッ」
予想外の強さに余裕が消えたのかその顔から先までの笑みが消える。そして水を二つ、握りこぶしほどの大きさで生み出し晴れの日の熱線の道に配置し的確に防ごうと試みる
が、しかし晴れの日の方が少し上手だったようだ
「水如きで防げるかってのっ!!」
ここにきて夢で積んだ訓練の成果が出始めたようだ
ハッキリと覚えている修行は最後に見た夢のみだが、先から少しずつ夢を思い出し気づけば二ケタ以上の夢を見ていたらしい
放たれた熱線は白雨の水を全て蒸発させて消し去り、わずかではあるが白雨の体を打ち抜く
「わたし達の事舐めてたでしょ?」
低空飛行に似た飛び方で転がる白雨に追い打ちをかけながら低く呟いた雷火の日の一言に白雨は一瞬だけ背筋に悪寒が走るのを感じた
これまで感じたことのない殺意とそれを実現させる勢いの強さ。その二つを歴戦の経験から感じ取り思わず武者震いにもにた感覚に浸る
「・・・ついさっきまでは、ね?」
「! 晴れの日、スイッチッ」
吹き飛ばされた衝撃で地面を転がるようにして飛ばされている白雨がその身を水にかえ雷火の日を迎え撃つために襲い掛かる
それをいち早く気付いた雷火の日は晴れの日に攻守交代のスイッチを叫び重力を上に向けて白雨の突撃を回避して見せた
「チッ・・・」
回避されたことに舌を鳴らし不安定な体制から立て直した彼女は上に逃げた雷火の日を恨めしそうに睨む
だが、すぐそこに危険を感じ視線を前に向けたその時だった
視線の先に目と鼻の先には晴れの日の放った熱線と、その奥で銃を片手で構える晴れの日の姿が飛び込む
「油断大敵ってやつだ」
「このっ・・・!?」
白雨は反射的に思わず身を伏せて視界を覆ってしまった
だが、それが初歩的なミスであり、大きな隙となる
「強くなった・・・ものだな・・・」
曇りの日が吐血しながらもその身を起こし煙草を咥える
その眼に映る二人と白雨の戦闘を親のようなまなざしで眺めながらつぶやくその言葉に反応したのは雷の日だった
彼もまた陥没させた地面から頭を起こしその様子を目の端で眺めむせるように笑い、額に流れる血を拭う
「・・・最強になるって宣言しただけのことはあるね。成長が・・・早いよ」
「まぁ、そうでもしてくれなきゃ、な」
いつの間にか気を取り戻した雨の日が雷の日に手を差出しその手を雷の日がつかみ体を引き上げて、その場に座り戦いの行く末を見守ることにした―――
「調子に・・・乗らない方がいいわよッ!!」
「あら、心外。いたって冷静よわたし」
指先で器用に蛇のように鳥のように水を舞わせ浮遊する雷火の日に次々と攻撃を繰り出しながらも晴れの日の動きに注意しその熱線をその身を動かし避け続ける白雨だが、先の雨の日達との戦闘が響き始めたのか、徐々に動きにキレがなくなってくる
どうやら、雷の日の一撃は効いていたようだ
「・・・龍脈、食べたんだろ?」
「それがどうかしたの?」
一息漏らした晴れの日は白雨を怒らせる最大の一言を口にした―――
「案外・・・弱いな」