第十話
第十話
「東の神青龍。西の神白虎。南の神玄武。そして私の北の神朱雀」
四人の背後にはそれぞれ青白茶赤のオーラのようなものがにじみ出ていて覇気からして先とは別物だ
天候荘がまだトップ4でやっていたころに白雨が考案した無我のさらに上の境地、四獣だ。従来の無我よりはるかに体力も精神力も使うが、その代り得られる効果は絶大
力、思考、すべてにおいて雑念が消え去り相手を殺すことだけに集中される
さらに、能力に磨きがかかりオーラのようになってにじみ出るのだとか
「いいわね・・・楽しくなってきたじゃない。やっぱ四皇帝なんかよりあなたたち相手にしてる方がよっぽど幸せ。あぁもちろん、殺すけどね?」
「・・・話が長い」
いつの間に移動したのかさえ誰にも気が付けないほどの超速度で雨の日は白雨の背後を取り持ち前の薙刀を真一文字に振るう。しかし相手も同じ無我を使用している。難なく上に跳ばれその身を守った
が、そこに雷の日の強烈な回し蹴りが叩き込まれ反応こそ間に合ったが反動で大きく横に飛ばされる
「雨さん・・・大して話なんかしていなかったぞ」
若干あきれつつも曇りの日が的確に吹き飛んだ白雨目がけて鋼鉄の刃を持った手裏剣を煙で作り出し数枚投げつける
「いい連携だわ」
しかし白雨はまたも全て弾き落とす
さらには三人に向けてレーザーのように真っ赤に燃える水を打ち出してくる。だがその程度の攻撃、落ち着いてそれぞれ三者三様に防ぎ、避け難を逃れ雨の日が再び目の前に飛び込む
「雨!!だから一人で・・・」
雷の日が途中まで声を上げた時だった。白雨が再び雨の日の腹部を水の槍で貫く
だが、それでも雨の日の動きは鈍ることなく至近距離の白雨の右手をしっかりと掴む
「・・・撫子の置き土産だクソやろォ」
撫子が死に際にしたことは二つ
一つは先の雨の日が伝えた通りの遺言
もう一つは、残るすべての力を振り絞り、20数年分の若さと引き換えに雨の日の細胞を超活性化させたのだ。そのせいで、彼女の遺体は無く光の粒子となって消えた・・・身体の時を、巻き戻した結果だ
「よくやった雨!!まとめて喰らえッ!!」
文字通り掴んだチャンスは逃すまいと雷の日が両手で指を鳴らし今日一番の落雷を雨の日もろとも巻き込んで落とした
電圧は億を超え、地面そのものが焦げるにおいが充満した
「・・・せいっ」
土煙の中から放たれる水の波動を曇りの日が強酸性で溶かし、雷の日と自分を守った
そしてまだ白雨が生きていると悟り、まだ晴れぬその土煙の中に毒性の強い煙をぶち込む
「いや、まだ甘いよ曇り!」
「む・・・そうか」
そういいながら雷の日は再び落雷を起こし、雨の日もろとも灰塵に化そうとする。それに乗じて曇りの日もさらに酸や鋼鉄、毒などの数多の属性を放り込んでいく
「・・・って待てコラァァァ!!」
「あ、雨だ」
「お、雨さん」
先に煙の中から顔を出したのは雨の日だった
撫子の超活性化で肉体は消滅しようとコンマ何秒でよみがえるその体は未だ健在のようだ
しかも不思議と服まで残っている
「テメェら俺毎殺す気か!?アァ!?」
「ふふっ相変わらず愛されてるのね黒?」
残念ながら、残念ながら!!
雨の日も、白雨も両方とも存命の様だ
全ての落雷を水で防ぎ、曇りの日の煙を全て弾き続けたというのだ。それだけの能力の酷使でさえ、龍脈を得た白雨にとっては容易いことなのだろう。まったく息が切れている気配すらない
「愛されてるぅ!?節穴かテメェの目は!!」
「くそっ・・・白雨さん、何て強さだ・・・っ」
「おい雷テメェ後で溺死させんぞコラ」
白雨と距離を取り雨の日が雷の日をジトメで睨みつけた
しかし、雷の日は全く動じず次の攻撃に移っていた
「曇り!!とにかく白雨さんの気を反らしてくれ!雨は特攻!死んだと思って突っ込んで!チャンスがあれば俺が打ち込む!」
「了解した」
曇りの日が端的に返事をし、数十に及ぶ煙の弾を生み出す。そのどれもが性質が違うもので、これを防ごうものなら白雨も性質を全て有利な物に変化させ続けなければならない。いくら龍脈を得ようと不可能だろう
「考えはいいわね。でも、不合格」
白雨が生み出した水の弾は数百。もちろん、全て性質がわずかに違う。弱酸性から強酸性までのパターンといった風に防ぐことはほぼ不可能だ
しかも数の有利で曇りの日を圧倒している
「・・・扱い雑だな俺。まぁいいか」
一瞬だけ水の生成に気を取られた白雨に刃を振り下ろすも、自動にも近い水の盾で弾かれる
だが、今度は弾かれただけでは終わらない。反動が大きい分後ろに体が固まるもその勢いを利用し後ろ向きに一回転。そして再び薙刀を振るう
「諦めなさい。あなたの刃は届かないわ・・・!?」
「はんっ・・・なーにが・・・届か・・・ないだとっ?」
ようやく、一撃が決まった
無我により強化された薙刀は通常のさらに三倍の速度でその刃を回転させ見事白雨の鉄壁の防御を貫通し浅くではあるがその身を引き裂く
「そんなっ・・・!?」
しかし、そんな中でも白雨は攻撃する手を休めはしなかった
作り終えたすべての弾を曇りの日目がけて同時に打ち出す。もちろん、曇りの日も一流の戦士。そう易々と喰らうはずもないのだが、いかんせん量が多すぎる
全段回避は難しいだろう
「曇りっ!」
「いくな雷!今がチャンスだ、撃てッ!!」
その足をふみとどめ、雨の日の言葉通り被弾と攻撃により確実に隙の生まれた白雨目がけ渾身の雷を電磁砲のように一直線に高密度の電流を打ち込んだ。それは白雨の体を見事に打ち抜き、体の内側から臓器をマヒさせる
「な・・・ん・・・げほッ」
一撃で仕留める威力を持った能力者、それが雷の日。体内から破壊されることなど水の能力では太刀打ちできないだろう。吐血する白雨をよそ眼に雨の日と雷の日は曇りの日に放たれた弾を減らそうといくつか撃ち落とし始める
しかし・・・時すでに遅く打ち出された弾はいくつか着弾し、確実に曇りの日の退路を消していた
「防ぎ・・・切れるか・・・!?」
まず、生み出した弾は全て白雨の放った弾と衝突させて消滅させる
だが、それでも桁そのものが違う弾に冷や汗を流す
そして・・・
「曇りィィ!!」
直撃したのか、盾を作って防いだのかは分からないが轟音と共に水蒸気があたりに充満し思わず雷の日と雨の日は顔を覆う。そして次に顔を上げたと同時に聞こえてきたのは天候荘の壁に何かがめり込む音だった
「・・・!?」
「お、おい曇り!?」
それは曇りの日だった。白雨の攻撃を防いだかどうかわかりえないが確かに今、数十メートルは吹き飛んで壁に大の字にたたきつけられたのは曇りの日に間違いない
しかし、そんな曇りの日を心配する雷の日は自分の背後に殺気が迫っていることを感じとっさに振り返ろうとする、がしかし
次に気が付いたとき彼は曇りの日まではいかないものの大きく突き飛ばされ、さらにその途中でその体の上に巨大な水球が落下しその身を地面に埋めた
「ぐぁぁぁぁっ!?」
ほんの一瞬だけ、雷の日の断末魔が聞こえる・・・
「・・・あなた達、教えたじゃない。敵はオーバーキルが基本だって。忘れちゃった?」
「テメェなん・・・!?」
確かに雷の日が打ち抜いた
いくら変革者と言えど雷に撃ち抜かれて平気なわけがないはず。だが確かに今ここに白雨はいる
曇りの日と雷の日を一撃で沈め、雨の日でさえゼロ距離まで接近するまでその存在に気が付けなかった白雨が、ここに・・・
「あなたのその回復邪魔だから、こうしてあ・げ・るっ」
クルリと指先を回すと雨の日の両方の腕毎胴をぐるっと一周水の縄が捕縛しさらに足も自由を奪う
そしてゆっくりと宙に浮き、逃げ出すことさえ出来ない
「そして・・・んっ」
拳を握りしめたその瞬間、雨の日を捕縛する縄がきつく締め付ける
「~~~ッ!?わりぃ・・・けど・・・俺はどっちかってっと・・・縛る方なんだが・・・?」
こんな時にも冗談を言えるのは世界広しと言えど雨の日くらいだろう
どんどんと威力の増していくその縄に逆らおうと力むものの、中々に壊れる気配はない
しかも能力を使おうにも痛みが邪魔でうまく水を操れない
「あら、奇遇ね私もよ」
「ほぉ・・・ならテメェはアツアツの蝋燭と・・・縄・・・なら、縄ってか?」
「そうねぇ・・・蝋は地味でつまらないもの」
そこで雨の日はニヤッと口角を上げて白雨に不信感を抱かせた
そしていつもの憎たらしい笑みで、こう告げた
「俺は・・・蝋燭だな・・・それも太陽みてぇに・・・あっつあつの・・・な」
「・・・ッ!?」
気づいたときにはもう遅い
真っ赤に燃え盛るその光線が、白雨の肩を貫くのに何の防御も間に合わなかった
そして、噴き出す血を抑えながら狂気に顔を歪ませた白雨が振り返るその先には
「遅くなってごめん雨さん!えーと・・・生きてる?」
「晴れの日。あの天パは死んでも死なないわ。でも安心して、わたしがいつか殺すわ」
太陽のようにあっつあつで燃える心を秘めた晴れの日と、棘のあるバラこそ美しいと比喩するにぴったりのツンデレ、雷火の日が今まで助けられてきた借りを返すために、恩を返すために
そこに立っていた