第十一話
第十一話
翌朝
今日は昨日よりかは曇っている
お陰で少し動きやすい気温だ
「さて、今日中にクリアしたいわね」
「だな・・・流石に疲れて来たぜ」
「いえ、疲れより、早くあんたと離れたいわ」
「・・・・」
今日も絶好調な美咲さん
やはり雄太はとことん嫌われているようだ
こんな調子で今日中になんてことが可能なのだろうか?
答えは誰にも分らないが雄太はそう誰かに問いかけたかった
「とりあえず進みましょ。この感じだとトラップに沿えばゴールにいけそうね」
確かにトラップをかいくぐって行けば徐々に進めている気もするが、死にそうな思いを後何回すればいいのだろうと途方にも暮れる。今のところ難なくクリアできているが、ただ運のいいだけかもしれない
まぁ、一つ一つの罠の致死率は高いのだが・・・
「この角、右にしか曲がれないのね・・・」
直進も左も壁になっているL字路に行きついた。この道があっているのかは謎だが、ここまで大分歩いてきた。いまさら道が違うわけは無いだろう
もし行き止まりなら美咲の怒りがどうなるか、考えたくもない・・・
道がありますように。そう雄太は祈る
美咲がためらいなく右に曲がった瞬間、甲高い悲鳴が一瞬聴こえた
「きゃっ!?」
「!?大丈夫か!!」
やはり罠!
雄太は美咲の身を按じた。もしここで脱落なんてことが起きてほしくない
慌てて雄太も飛びだすと、そこには沼が
緑の、沼が・・・
「沼!? ・・・って道重大丈夫か!」
「うぅぅ・・・気持ち悪い・・・」
思いっきり突っ込んだようで美咲の全身は沼によって汚れていた
幸いにも即、体に異常が出るといった罠ではないようだ
「ほら、はやく上がれよ・・・」
雄太が右手を差し出すが、美咲はやはりあしらった
「自分で立てるわよ。その手は引っ込めなさい」
「あ、はい・・・」
立ち上がった美咲の服や髪の毛からは緑のヌメヌメが垂れていた
「ほんと最悪・・・ドジったわ・・・」
全身にスライムを浴びる罰ゲームをよくTVで見るが、あれをやる覚悟ができる芸能人はすごいと思う
少なくとも、まじかで見た雄太はそう思った
それほどまでに全身沼まみれだ
「おぉふ・・・ここは俺に任せてくれ!ドライヤーにでもなるんだぜ、俺!」
「ふぅん?ここに来てようやくあんたの価値が出てきたわね」
価値・・・低い
雄太はまたも落胆しつつ美咲に銃口を向ける
「嫌な気分ね、銃口を向けられるって」
「悪い・・・少しだけ我慢してくれ」
集中して取り組まないと下手したら美咲を焦がしてしまう
だからこそ集中。そしてゆっくりと引き金を絞っていく
この辺の力加減は修行の賜物。実に大変だった・・・
数分後
「おぉ、凄いわね。そこらのドライヤーより渇きがいいわ」
本来、泥などは乾けばパリパリになるが、雄太は泥そのものを確実に溶かし、元の髪に戻していった
ハーフアップの髪は艶をとりもどす
「そらどうも。見なおした?」
「・・・前言撤回。気持ちの悪い風ね」
どうやら一言余計だったようだ
「さて、乾いたぞ」
「ん、お疲れ様。じゃぁこの沼を突破しますか」
「ってかこの沼、タダの沼なのか?」
普通迷宮の沼と言うのは毒だったり酸だったりとするものだ
「漬かった感じでは普通よ」
「なら大丈夫だな。突っ切るぞ!」
そう言って沼に足を突っ込む
一歩、また一歩と歩みを進めるが、徐々に足元を沼に取られて動きが取りにくくなった
「や、やべ・・・進めない」
「バカね。わたしは飛んで先にいってるわ」
美咲は宙に浮き、反対側まで落下していった
案外さらっと表現しているが、美咲の落下はかなり需要があるようだ
「くそう・・・!俺だってぇぇ!」
銃を取り出し足元に乱射していく
と、沼がどんどん溶けてすこしではあるがあるけるようになった
「う、おぉぉぉぉぉおおお!」
一歩踏み出すたびに沼を溶かす。そして走る。溶かす。走る
もちろん自分の足を溶かさないように配慮もしつつ
「ちょ、あんた泥跳ねる!」
「あ・・すまん・・・」
びちゃびちゃと泥をはねながら雄太は何とか沼をやりきった
「っと、なんか聴こえるぞ・・・?」
福や顔に飛び跳ねた泥を落としながら耳を澄ませる
「え?なにかしら・・・歓声・・・?」
美咲も耳を澄ましてみると、なにか、歓声の様なものが木霊してきた
「これってつまり・・・」
「えぇ!出口が近いわ!」
その途端、さっきまで沼だったところに急に穴が現れ沼が全て吸い込まれていった
あとほんの数秒でも沼に足を取られていたら一緒にドボンだったろう・・・
「・・・狙いはこれだったのね」
雄太は自分の泥沼RUNの判断が間違っていなかったと心底思った
そして2人は聴こえる声の元目掛けて駆けだす
そして・・・壁に仕掛けられた扉を美咲が開け放つ
そこには―――・・・