第六話
第六話
「・・・不味い、このままじゃ追い付かれちゃう」
フレディと別れ子供たちを逃がすため単身地下に向かう霙の日は持ち前の気配察知で背後から徐々に迫ってくるアナザーの変革者の気を感じ額に冷や汗をにじませる
地下まではあと少し。さらに地下は絶対的な防御力を誇る霙の日特性シェルターがあるため一度入ってしまえばなんの心配もいらないのだ。そう、一度入ればの話だ
「ねーちゃん・・・妹の真広がいないんだけど・・・」
「・・・きっと後であえるよ!ほら、今は早くシェルターってところに行きましょ!」
男の子の素朴な疑問は全ての事情が分かる霙の日にはつらい質問だ
先ほどフレディが見つけた遺体の中に、真広という彼の妹も居た。つまりはもうこの世にはいないのだ
だが、そんな残酷なことを今この場で告げるわけにはいかない。もちろんそれが最適なのかどうかなど分からないが、少なくとも霙の日にはそうすることしか出来ない
「・・・ごめんねみんな・・・無事でいて」
誰に聞こえるわけでもなく呟かれたその一言は、どこかへ消えた・・・
その代り、言葉に応え現れたかのようにアナザーが現れた・・・
「ガキかよ・・・んあーめんど」
「まぁまぁそういうなって、お前さんなら生き埋めで一瞬だろ?」
霙の日達が振り返った時に見えたのは、大きな欠伸をしながら手を振り下ろす大柄な男と、その横でメガネのレンズを拭いていたいかにも余裕そうな二人組だった
そう、過去形だ。なぜならその姿を視界にとらえていたのはまさに一瞬。その次の瞬間には
全員、地下100mまで落ちていたのだ
「地面が!?」
落下していることに気が付いたのはどうやら霙の日が一番早かったらしい
だが、ワンテンポ遅れて子供たちも声を上げ始める
「わ、わ、え!?」
「落ち、落ちる!!」
明らかにパニックだ
致し方ないが、こういう状況下でのパニックは死に直結する。中には制約を払って辺りかまわず能力を発動し始める子供も現れる
「みんな落ち着いて!大丈夫だから!」
100mと言うのは秒数にしてみればあっという間のものの、体感にしてみればものすごく長い時間だ。その中でいかに打開するのか。霙の日の力量にかかっている
だが、本来であれば外壁や下のにある土を柔らかく変化させて難を乗り切る霙の日だが、こうも皆がパニックを起こしてしまってはどうすることも出来ない
「うわーーーーん!!!」
全身から発火できる能力を持った変革者が自分の親指を噛み、その能力を発動してしまう
そのせいで、すぐ隣に居た少女にまで引火する
「ちょっ!?誰か水出せる!?」
だが、声をいくらかけようとも子供たちのパニックが収まるわけも言うことを聞くわけもなく、霙の日が何とかするしかないようだ
「苦しいだろうけど・・・我慢してっ!!」
外壁の土を操り、燃える少女の全身に貼り付け酸素をうばう
時間こそかかるが確実に炎は消えるだろう
だがリスクとして少女の呼吸も止まるのだ
「・・・ぷはっ!!」
「よかった・・・なんとか間に合った・・・」
心配する必要はなかったようだ
思いのほか軽症で済んだその少女に安堵の息を漏らし、霙の日は下を見る
もうすぐそこまで迫っている地面に対し、何とか地面を柔らかくする方法を実行することにしたが、そのためには周りで暴れている子供たちを何とか鎮めなければ着地した後何が起こるか分からない
止む無く強硬策を取ることに決意した―――
「せい・・・やぁぁぁぁぁ!!」
霙の日が取った行動はと言えば、外壁すべてを一度に操り柔らかく変化させ対岸の壁から対岸に向けて柱を生み出し、その間に暴れる子供をはさむ。もちろん死にはしない威力だが気絶させるには十分だ
「ごめんね・・・っ」
例え暴れる子供を宥めるためだと言っても攻撃は攻撃。心が痛む霙の日
だがそんなことを言っている暇もなく地面はもうすぐそこにまで迫ってきているのだ。子供たちを静かにさせたその直後、着込んでいる服を再度整え能力の発動に備える
そして、両手を地面にかざし全力で柔らかく変化させ、例えるならばトランポリンのような弾力を生む
落下によって加速した速度は全て柔らかい地面がクッションとなり吸収し、全員が一度軽くボヨンと跳ねて無傷で済んだようだ
「危機・・・一髪・・・」
ふぅっとため息がつい漏れる。そしてすぐ隣でポカンと口を開けている少年の頭を撫でて微笑む
そこでふと上を見上げてみると先の男2人が穴の淵に立ってこちらを見下ろしているようだ。距離があり、しかも逆光なので顔の表情までは見えないが、どう考えても何か策があるに違いない
そんな嫌な勘が働いた直後
案の定、男の手から何かの液体を滝のように吹き出しそれを穴の中に入れ始めたではないか
その液体は銀色に輝く、そう水銀だ
「んげっ!?全員伏せてーっ!!」
声の限り叫ぶ。子供たちはこの奇怪な現象に呆気にとられ中々強には動けない
辺りをキョロキョロと見渡し自分の身に何が起きたのかを確認しようとしているのだ
「流石にそうなるよねっ・・・んもー!絶対誰か助けに来いよこのやろー!!」
霙の日は天候荘にいるたくさんの仲間たちに向けてせめてものメーデーをだし、自分の持てるすべての力を籠め、この穴の底に水銀が届く前に穴を
塞いだ
「うわっ!?まっくらだよー!?」
突然視界が闇に覆われた子供たちは更なるパニックを起こし、わめき始めたのだが一人の年長者の変革者が発光能力を持っていたようで満足とは言えないがそれでも十分な光量を産んでくれた
「お、ありがとう・・・んとみんな、よーく聞いてね?」
「なになにー?」
子供は無邪気で良い。微笑みながら思う霙の日は今彼女たちが置かれている状況を、希望的可能性が有ることを前提としてわかりやすく説明した
この天井のすぐ上には水銀が並々と注がれており、もし霙の日がこの天井を崩すようなことがあればここにいる自分たちは全滅だろうと
僅かな量ならば大丈夫だが、ああまで大量の水銀はさすがに耐えられないだろう
さらに言えば、この穴の中の酸素にも限界があるのだ
霙の日の能力、通称として錬金術を使っているが実際のところは、物理変化、化学変化を操る能力だ
制約として厚着をしなければならないものの着れば着るる程その力は増す
だが、酸素を生み出すなどと言った大掛かりな能力を使おうとすればここにいる全員の服を着ても足りないだろう
「・・・・・・という訳なの!大丈夫!もーすぐ誰か助けに来てくれるよ!」
「もーすぐって、なんふんくらいー?」
一人の子供が自分にわかる最大の時間での答えを求めてくる
だが、その答えを出せる程霙の日に助かる希望は無く、脳裏によぎる死が子供を映す瞳を滲ませる
「んー・・・もーすぐはもーすぐ!」
「なにそれー!わかんなーい!」
ぷくっと頬を膨らませる子を周りの少し大人びた子供たちが笑って和ませ、なんとか心の内から恐怖を払ってくれる
その子供は薄々気が付いているのだろう。助かる可能性が少ないということに
霙の日もそうだ。横穴を開けることも想像したが、水銀を支える土の維持に力を裂かなければならないので中々力を思うように使えないのだ
「さて!とりあえずみんなお昼寝しよー?せっかく洞窟に来たんだし、冒険家ごっこだー!おー!」
「おー!」
「ねむくないけど冒険家ごっこならやるー!」
今ここで気をつける事は酸素の残量。少なくとも話し続けるのはまずい
出来るだけ呼吸を最低限に抑えたいのだ
だからこそ、霙の日は全員を寝かしつけ一分一秒でも長く生き延びて誰かの助けを求めた―――