第九話
第九話
「ふぅ・・・とりあえず、元通りだな」
デュラハンから体を返してもらい、手を握ったり開いたりして感触を確かめる晴れの日と
シルヴァが勝手に、雷火の日が来ている服を若干着崩していたのでそれを晴れの日に背を向けて治す雷火の日。デュラハンとシルヴァはと言うと、先の技や自分たちの素性についてはまだ教えられないの一点張りだった
渋々二人も観念して、とりあえずの目標であるこの場からの脱出を再開することに
だが、唐突にもそれは訪れる――
「ねぇ、何かおかしくないかしら?なんていうか、歪みが見えるというか・・・」
雷火の日がその敏感な感覚で周囲の異変にいち早く気が付く。それは、晴れの日にとっても違和感でありその異変にすぐに気が付くことができた
まず目に見えた異変は時間にすればまさに一秒にも満たないわずかな時間であった
突然、自分の腕がまるでノイズのひどいTV画面のようにぶれた、のである
「うおっ!?なんだいまの!?」
「腕よりもあれ!みなさい晴れの日!!」
自分の右腕の身を案じる晴れの日だが、それよりももっと大きな問題が迫っていた。雷火の日が指さす方向は背後。その先ではまるで地面が海の波打つ様子そのもので、周りにそびえる家々もノイズのような歪みが目立ち始めた
さらには、地面が大きく横に揺れ始める
「おいおいおい!?天変地異か!?」
「そんなこと言っている場合じゃないわ!!」
『・・・ウチらはここで一旦お別れかな!ウチら本来夢の中にしかいられない存在だからさ!』
とにかく後ろから迫る怪現象から逃れようと地を蹴りだしたその時、雷火の日の脳内にシルヴァの謎の一言が響く
だが、夢の中の存在が何を示すのか聞こうにも、そんな余裕がないのだ
実に腹ただしくやりきれない思いだが仕方がない。とにかく今は逃げるのが先だろう
「このっ・・・謎を残して行かれるのは嫌だけれど今は仕方ないわ!!晴れの日!走るわよ!」
「おう・・・っ上!!」
いち早く気が付いた晴れの日の叫びが耳に届くや否や雷火の日はその手にもった警棒で上を向くと同時に薙ぎ払う。まさにぎりぎりのタイミングではあったが、恐らくこの地下室の天井と思わしき岩盤が落ちてきていたのだ。もちろん、これ一個ではない。暗いのでよくは見えないが恐らく四桁以上の岩盤が落下してきているだろう
「とにかく被害の少ない方へ走るわ!」
雷火の日が戦闘を走りながら、比較的ノイズや地割れの少ない方へと走り続ける
その少し後ろを、両脇の家々や天井からの落盤から自分と雷火の日を守るように熱線で対応する晴れの日。だが、天変地異にも似たこの現象はとどまることを知らず、さらなる悪夢を生み出す
「っ雷火!右の家見てみろよ」
思わず二人の足が止まる
何故なら、二人の視線の先の家は・・・まるで砂にでもなるかのようにしてさらさらと消えゆくまさにその一瞬だったのだ・・・
「なにが・・・どうなってるの・・・!?」
「わかんねぇ・・・けど、下手したら俺ら・・・」
それ以上先のセリフを今口にすることは晴れの日には不可能だった
いや、誰であれ難しいだろう。出口も見当がつかず対処法も思い浮かばない
それにこれだけの大事になっているというのに雷の日や雨の日曇りの日は一向に助けに来る気配もない
「いいから走るわよ!まだこの先は異変も何もないわ!」
「・・・あぁ!!」
死ぬ気で。いや、生きる気でその足で地を蹴り続ける
徐々に近づく崩壊の波と天井の落盤
そして砂のように消え去る家
呼吸が苦しい。動機も激しい
走ることに意味を見いだせなくなる
だが、死ぬわけにはいかない
こんなところで死ぬようでは変革者最強の名は永遠に語れないだろう
その思いで晴れの日は進み続ける、が―――
「は・・・h・・・も・・k・・uigv//cdsyv//fewibuuc」
「おい!?雷火!!」
雷火の日がその場で完全に停止し、訳の分からない言語を口走る。さらには体のいたるところがノイズでぶれぶれになり、体が伸びたり縮んだりを繰り返し始めた
そのホラーな光景に晴れの日は思わず一歩後ずさるが、パートナーの身は我が身も同じと勢いよく雷火の日の腕を掴む・・・のだがその体はまるでその場に無いかのように透ける
「雷火!!おい!大丈夫なのか!!」
だが声は聞こえていることを願いひたすらに声をかけ続ける
だが、走行しているうちに晴れの日以外のすべての物は砂と化し、周囲の風景すべてが消え去る
ただいまあるのは停止した雷火の日だけ
だが・・・それも今まさに砂となり消え去った
「うそ・・・だろ?」
思わずそんな言葉がこぼれる
前とは違いあまりにも状況が読めない事態に動揺を顕わにする晴れの日だが、その言葉に答えてくれる人は誰もいない
つい先まで脳内で会話が出来ていたデュラハンでさえも何の反応も示さないのだ
「何がどうなってやがる・・・!」
晴れの日はただ一人。真っ暗で上も下も右も左も前も後ろもない世界にただ一人取り残された・・・