第二話
第二話
「心を覗く、のか・・・雨さん、一応聞いておきたいんだけど、俺と雷火に何が起きていたの?」
「よーく分からんが、なんか別人になって龍脈ぶっ壊して、めっちゃ強そうだった」
大雑把な説明でなんの情報も得られないが、恐らく雨の日も理解できていないのだろう
それに昨日雷火の日からも一応少しだけ話は聞いているので、正直そこまで多くの情報は雨の日に期待していなかった
「撫子ちゃんから話は聞きましたわ。では、さっそく心読まさせていただいてもよろしいですか?制約は既に払っていますのでご心配なく」
正直心を読まれることは恐怖でもあるが、フレディの奥さんである奈緒美にそんな感情を抱くこと自体間違っているだろう
そう、晴れの日は自分に言い聞かせ一呼吸おいて頷いた
「じゃぁ、俺からお願いします!」
「では、目を閉じて・・・深く息を吸って・・・」
言われた通りにする
すると不思議なことにスゥっと意識が遠のき、一瞬の間にして夢の世界に行ってしまった・・・
「あれ・・・また変な夢だ?」
またもや明晰夢だ
だが、今度は誰も何も見えてこない
見えるのはただひたすらに闇だけだ
「んだよ・・・誰かいないのかー!!っていないか、俺の夢だし」
だが、そこに思いもよらない人物が現れた・・・
『大きな声を出すな五月蠅い』
「え!?え!?俺ェ!?」
そう、晴れの日とうりふたつの、もう一人の晴れの日だった
真っ暗なこの世界でふわふわと浮くようにポケットに手を入れてつっ立っている
『正確にはお前の体を借りているだけの物だ』
「は、はぁ・・・」
そういわれたところで理解できるわけがない
半信半疑で空返事をしてその姿を全身くまなく眺めるが、やはり自分と瓜二つ
とても奇妙な感覚に陥る
「あ、名前も俺と同じなのか?」
『いや、名はデュラハンと言う。すまない、詳しいことまで話す時間は無いから手短に話しておこう・・・お前はまだ弱い。できる限り早く、その熱の能力の真の境地にたどり着いた方がいい・・・1000年前の過ちが、繰り返される前に・・・』
徐々にデュラハンの姿が霞んでいく
まるで霧が晴れるかのようにサァっと消えゆくその姿に思わず手を伸ばす晴れの日だが、その手はただ、虚空を掴むだけだった・・・
「ま、まて・・・意味が分からなさすぎるぞ!?なんだよ過ちって・・・おい!お・・・い・・・わかりやすいフラグ残していくなこらー!!」
そして晴れの日も徐々に夢の中での意識が遠のく
目覚めの時なのだろうか・・・確か奈緒美に心を覗いてもらうとか会話をしていたような気がするが頭の中がぼんやりしていてよくわからなくなってきた
まるで眠りに落ちるかのような感覚が体を支配し、ハッと気が付いた
「あれ・・・俺、寝てたよな・・・?」
「あぁ、それはもうバッチリ寝てたぜ」
目覚めた時、晴れの日以外の全員が心配そうに晴れの日を覗き込んでいた
雨の日をはじめとして、撫子、フレディと奈緒美
そして、白い髪をなびかせた少女・・・雷火の日に似た容姿ではあるが雰囲気が確実に違う
寝ぼけている頭ではあるがその少女が一体誰なのか気になる
じーっと見つめるとその少女は体を半身捻り人差し指を咥え色っぽく口を開いた
『んもぅ、そんなにじろじろ見ないでよんっ・・・!』
「え、あ、ごめん!?」
その一言で完全に意識が覚醒した晴れの日は思わず視線をそらしバツが悪そうに頭を掻く
そして、雨の日にその少女の素性を尋ねる
「えと、あの子は誰なの?てか雷火は?」
「んと・・・俺らも困惑中なんだわ・・・撫子、晴れにある程度シルヴァの話を頼む」
どうやら雨の日にも現状が理解できていないようだ
細かい説明が苦手な雨の日はその説明を撫子に託す
託された撫子はと言うと嫌な顔一つせず、一つ頷きそして晴れの日にその問いの答えを話し始めた
「実は、晴れの日君が読心してもらった後、中々起きないからそのまま雷火の読心をしたの・・・そしたら読心が急に弾かれたらしくて、気が付いたらあの子が居たの。名前はシルヴァって名前らしくて・・・本人曰く、『全ての力を統べる能力』の変革者らしいのよぉ・・・」
全てを統べる能力・・・それを聞いたところで何も理解できない晴れの日は頭上に?をたくさん浮かべる
それを察したのか、会話を聞いていたシルヴァが割り込んでくる
『そそ!制約のせいで肉体失っちゃってねぇ・・・今はとりあえずこの子、美咲ちゃんの体お借りしってまーす!』
美咲。それは雷火の日の本名であり、ここ最近誰もその名で呼んでいない名でもある
だが、何故シルヴァが今ここにいるのか。そもそもなぜ雷火の日の中に居るのかまだまだ分からない
それに、晴れの日が見たあの夢に出てきた男の正体は何なのだろうか
「んと、アメ!meは奈緒美を休ませるね!今弾かれたのがかなり体調に来たみたいだよ!」
「無理させてわりぃ・・・撫子、診てやってくれ。こっちは俺に任せとけ」
晴れの日にとってはついさっきまで元気いっぱいだった奈緒美が、今は肩で息をしていて髪も乱れ目の焦点さえも若干怪しい
体が弱いのか、読心を弾かれた反動でかなりダウン状態に近い
思わず心配になる一同だが、撫子とフレディのタッグによる治療があるこの場では、ひとまず安心はできると思う
「な、奈緒美さん大丈夫なんですか?」
「ん、あいつは元々体が弱くてな・・・今日もちょっと無理言ってお前と雷火の心を読んでもらったんだ」
「そう・・・なんですか・・・それで、何かわかりましたか?」
奈緒美の事を心配しつつも、自分の中に居たあのデュラハンとかいう男の事や、今の雷火の日、正確にはシルヴァのことなど、頭の中は謎で埋め尽くされている
だが、晴れの日の問いに対して雨の日の表情は曇った
「それがねぇ・・・言い方わりぃけど、お前の心空っぽなんだってよ。分かったのは、お前の中には何か別の巨大な力が眠っているって事と、お前には人並みの『心』が無いんだと」
心が、無い
その一言が言葉の意味そのものとして理解できるまで晴れの日は少しの時間を要した
だが、すぐに理解に達し反論する
「いやいや!力云々はなんとなく心当たりあるけど、心が無いってことは無いんじゃないかな!?」
正直、シルヴァを完全にほったらかしにしてしまっているものの、シルヴァは部屋にある変わった形のランプや人をダメダメにするソファに興味津々で全く意に介していない様子だ
「俺にもよくわかんね。まぁとりあえず問題はもう一つ・・・お前の中に眠る力については俺の方で調べられそうなもんなんだが・・・」
雨の日は、人をダメダメにするソファにダイブを繰り返すシルヴァに目を移す
そして、ため息交じりでこう言葉をつなげた
「あのシルヴァって奴1000歳は超えてる変革者だ」
「・・・はぁ!?」