出会い
もしも、自分の目の前にもう一人の自分が現れたら、あなたはどんな反応をするだろうか。
驚いて腰を抜かす?それとも馬鹿みたいに口を開けたまま、その場にたたずむのだろうか。
どちらにしても、大変滑稽なことにかわりがないが、それでは少し面白みに欠ける。
まあ、面白さを求めるのはともかく、大概の人間は驚くに違いない。
相原由愛の場合も例外ではなく、自分には生き別れの姉妹がいたのか、などとくだらないことを考えていると、今にも花が咲かんばかりの満面の笑みで自分に話しかけられた。
「おかえりっ、今日は遅かったね。図書館でほんでもかりてきたの?」
どうして私の動向を知っているのだと顔に出ていたのだろう。私は少し困った顔をしらがらも、私の疑問に答えてくれた。
「だって、私はあなただもの。あなたの行動ぐらいわかる。いや、あなたというよりは、あなたの影といったほうが正しいけど。」
「影?」
「そう。私はあなたの影。わかりやすくいうと、あなたの心の奥底にある負の感情の塊だよ。」
彼女の目は真剣そのもので、嘘をついているふうではない。別に彼女の言うことを疑っているわけではないが、あまりにも現実から離れた話に脳がついていかなかった。
「ドッペルゲンガーってやつ?私はもうすぐ死ぬの?」
彼女の目を真っ直ぐに見つめながら、昔どこかで聴いたことがある話を思い出す。もう一人の自分にあった人間は死ぬのだと。
彼女は上に目線をやりながら、あごに手を当て考えるようなしぐさをした。
「まぁ似たようなものではあるけど、少し違うかな。」
少し困ったふうに笑いながら、なんていったら良いのか考えあぐねているようだ。
「私はあなたに危害を加えるつもりは、これっぽっちもない。それどころか、どうしてここにいるのかさえわからないんだから。」
「どういうこと?」
「私は、いつもあなたの心の奥底にいた。けど、気がついたらあなたの部屋にいたってわけ。」
彼女はお手上げとばかりにため息をつきながら、勉強机の上にどっかりと座り込んだ。
机の上にあったプリントが、ぐしゃりと嫌な音を立てる。
私が彼女に非難の目を向けると、ばつが悪い顔をしながら彼女は私は悪くない、こんなところに置いておくほうが悪いとばかりにそっぽを向いてしまった。
可愛くないなぁと思いながら、そういえばまだ重大なことを聞くのを忘れていたことを思い出す。
「ねぇ、あなたのことなんて呼んだら良いの?」
さすがに、自分と同じ名前では紛らわしいし不便だ。
私のこの言葉に、やっと私のほうを向いた彼女はそうだなぁと呟いた。
「じゃぁ・・・シャドウ。」
「シャドウ?」
「影って英語でシャドウでしょ?なんかシャドウって響きが格好良くない?」
彼女・・・もといシャドウは、目を輝かせながら私の肩を掴んで激しく揺さぶって同意を求めてきた。
「かっ、格好良いんじゃないかなぁ。」
「だよね。そう思うよね。」
そろそろ気持ち悪くなってきたという頃、やっとシャドウの私を揺さぶる手が止まった。それから私を真っ直ぐに見つめ真剣な顔をしてこう言った。
「これから宜しくね。由愛。」
自分に自分の名前を呼ばれるなんて、なかなか奇妙な光景だなぁと思いながら、由愛もシャドウを真っ直ぐに見つめて言った。
「あっ、うん宜しく。」
これが、私とシャドウの奇妙な出会いだった。
処女作です。良かったら感想下さい。