ミシェルの願い 2
「ロレンツィオ、お願いがあるの。射撃を教えてほしいの」
夕食後、私は切り出した。パパがロレンツィオと射撃の試合をして、ロレンツィオが勝ったことがあるといっていた。
「ミシェル、射撃なんて習ってどうするつもりだ?」
ロレンツィオは驚いた顔でいう。ロレンツィオが驚く方が驚きだ。
「そりゃ、射撃ができればいろいろ役に立つでしょう? コロシとか!」
ロレンツィオはなぜか絶句して、私の頭をわしわしと撫で、部屋を出て行ってしまった。
すぐに射撃を教えてもらえると思っていたのに。
この家の地下にはアンナが作らせた射撃の練習場がある。
しばらくすると、ロレンツィオはもどってきて、雑誌をくれた。
「これでも読んでなさい。コロシなんて物騒な言葉、女の子が使ってはいけない。」
なんて、とんちんかんなことをいう。
アンナだって、四十四口径マグナム持ってたじゃん!!
オトナの女ならいいの? 男ならいいの?
「女の子じゃないもん。男になる。パパだって、男になれ! って、いったもん」
とりあえず、パパのいっていたパパを超える男を目指そう。女だけど。
「男になれ? アキラがそんなこといったのか? ・・・わけがわからん。それより女向けの雑誌でも・・・」
ロレンツィオは自分がもってきた雑誌に何気なく目をおとした。
アンナが買ってきてそのままになっていた雑誌だ。
派手なロゴが並ぶ女性誌。これでアナタもオトコをトリコにできる!
「いや、これは、まだ読まなくていい」
ロレンツィオはなぜかあわててまた雑誌を回収して出て行ってしまった。
ロレンツィオ、わけわかんない。
それより、早く射撃教えて。早くしないと、あの軟弱ボス、守れないし!
とりあえず、ロレンツィオは射撃を教えてくれることになった。
コロシのためではなく、単なる一般教養のスポーツとして、というわけのわからない前置きをして。
パパに基本的な手ほどきは受けている。パパからは才能がある、とおだてられたこともある。私はおだてられると、木にのぼるタイプだ。
私は真剣に取り組んだ。この手に軟弱なボスの命がかかっている。そう思うと手が震えた。手が震えたのに、私が撃った弾は100発99中だった。ロレンツィオはうなって、私を天才だといった。
そもそも基準がわからないので、天才かどうかはわからないが、軟弱ボスを守るためには、腕がいいに越したことはない。
得意なのはハンドガン(拳銃)よりもライフルだ。動いている標的を撃つのも得意だ。ただ、ほとんどの銃が私には大きすぎるし、重すぎるので苦労する。パパとアンナのコレクションの中から小さくて、軽くて、銃身が長めのやつを選ぶ。
ロレンツィオがいうには、私は動態視力がいいらしい。
子供の頃、パパが指ではじいたアーモンドチョコを口でキャッチしていたのがよかったのだろうか。もっともそれは、私がアーモンドチョコをのどに詰まらせ、死にかけたのをきっかけにママに絶対禁止令を食らい、グリーン豆に変わったが。
動く標的を撃てるということは、アンナみたいに敵をやっつけることができるということだ。一歩目標に近づいた。
でも、うかうかしていられない。今日も軟弱ボスは死にかけているかもしれないのだから。はやくボスを護りたい。