それから 1
ミシェルを私の屋敷で療養させている。
もう、ミシェルを手放すのは無理だ。
ロレンツィオのもとにかえす気は毛頭ないし、どこにもやるつもりはない。
さっさと嫁にしてしまおう。
そんなときだった。ロレンツィオから呼び出されたのは。
「ちょっとそこに座れ」
いきなりロレンツィオにいわれた。
「・・・・」
ロレンツィオは慇懃無礼なところが無いわけではないが、ボスである私に向かってそのような口をきいたことは、今までない。
「俺の可愛い娘をよくも危険なめにあわせてくれたな」
「・・・悪かった・・・」
ロレンツィオのまとう空気が凍る。
「悪いですむか。その上、手をだしたのか。俺の娘に」
「・・・え?・・・・まだ、その」
「まだ?・・・ほう。まだ、とは?」
ロレンツィオがゆらり、と近づいてきた。
指をバキバキと鳴らして。
ロレンツィオは頼りになる男だ。だが、それはあくまでも味方であればの話で。敵にまわったロレンツィオがこれ程恐ろしいとは・・・。
「ミ、ミシェルと結婚させてください!!」
思わず口走っていた。
ロレンツィオが口の端をあげて微かに笑ったような気がした。
が、ロレンツィオは冷たい空気をまとったまま、いった。
「ミシェルは絶対にお前には、嫁にやらん。カタギの男に嫁がせる」
・・・なんかデジャヴ? のような気もするが、今は。
「必ず、ミシェルを幸せにする!・・・だから・・・!」
そういってロレンツィオをみると、ニヤニヤ笑いながらあらぬ方をみている。
ロレンツィオの視線をたどると、そこには悶絶して地面をのたうつセルジオがいた。
笑いすぎて声も出ないのか、ひーひーと涙を流している。
・・・はめられた。
と、思った。が、ロレンツィオはそれなりに本気だったようで。
「ミシェルを二度と危険なめにあわせないと誓え」
と、続けた。
「誓います・・・」
「ミシェルを大切にすると誓え」
「誓います・・・」
「ミシェルを必ず守ると誓え」
「誓います・・・」
ありとあらゆることを誓った。お義父さんに。