小さな誓 2
孤児となってしまったミシェルを引き取るつもりでいたが、ロレンツィオが引き取ると言い出した。もともとミシェル・アキラ親子、ロレンツィオ・アンナ夫婦は家族ぐるみの付き合いをしており、アンナは母のいないミシェルを可愛がっていたという。アンナを失ったロレンツィオにとってミシェルの存在は癒しになるのかもしれないし、ミシェルにとってもよく知っているロレンツィオと一緒にいる方がいいのかもしれない。
ミシェルには家庭教師を今までどおりつけ、アキラの家に通っていた家政婦のマリアを引き続きロレンツィオが雇うことになり、ミシェルはロレンツィオの家に落ち着いた。どこにいても危険が無いわけではないが、私の手元に置くよりはマシだろう。
ミシェルの小さな濡れそぼった肩、ミシェルの真剣なまなざし、泣くまいとした毅然とした表情、そしてあの言葉。何もかもが愛おしく、手元において大切に守ってやりたいような衝動に駆られたが、そもそもミシェルから最愛の父を奪った原因は私にある。ミシェルがロレンツィオの元にいたいというなら、それでいいだろう。
しばらくしてロレンツィオから仰天することを聞かされた。
ミシェルが真剣にコロシを教えてほしい、とねだったという。12歳の娘のいうことではない。ロレンツィオも一通り銃器を扱うことはできるし、射撃の腕前もなかなかのものだ。最近は頭脳労働を中心として行動派のアンナとタッグを組み、活動することが多かったが・・・。
父に代わって、ボスをお守りします、というのは本気らしい。
ミシェルは大人びてはいるが、純真さが抜けず、一途なところがある。一度思い込むと案外やっかいな娘かもしれない。そもそもアキラはつかみどころのない変人だった。一人娘のミシェルにどんな教育をしていたか、わかったものではない。コロシを教えてほしいなど・・・! ロレンツィオの元にやったのは間違いだったかもしれない。
ミシェルを「まっとうな子」に育て、カタギの世界に送り出してやりたい、と、この私はいつしか願うようになってしまった。アンナのような女にはなってほしくない。そして、それはそれは困難な道のりだったのだ・・・。