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まっとうでない生活 1

 ミシェルを全寮制の高校に入れて、3年。もうすぐミシェルの高校生活も終わりだ。ミシェルは輝くように綺麗になっていた。面立ちは母親によく似てきたが、母親のような繊細で壊れそうな美しさではなく、父親のアキラのもつ不思議と人をひきつける魅力をもっている。きちんと、学生生活を送り、普通の同じ年のお友達もでき、コーラス部にも入って。


 私は誇らしいような気持ちでミシェルを眺めていた。土日にあわせ、ささやかなバースデーパーティーを催したのだ。ミシェルには今日、明日と帰省許可をとらせてある。今日は何か歌でも歌ってもらおうか。いつも私をおちょくっているセルジオはフランスに飛ばしておいた。


「ボス、お誕生会を開いてくれてありがとう。うれしい」

 女らしいワンピースドレスをきたミシェルがふんわりと笑って腕をまわしてくる。

「ハッピバースデー、ミシェル」

 私は目を細め、ミシェルをハグした。かわゆい娘よ!

 柔らかなミシェルの体の感触・・・。

 いや?この体は・・・?

 一瞬感じた違和感。


 それは、娘らしくなったミシェルの体形に対して、ではない。

 もう一度ゆっくりとミシェルの背に手をまわす。

「・・・ボス?」

 ミシェルのワンピースドレスは背中が大胆にカットされていて、素肌が覗いている。


 それが厭らしくなく、セクシーかつ健康的に映える背中。

 ドレスを着こなし、自分に自信を持っている人間、あるいは日焼けしたりして全身に程よく色がのっている人間、それから全身をくまなく鍛えている人間。

 ミシェルの背に見覚えがあった。


 アンナはセクシーで露出度の高い服を好んだ。セクシーでありながら、その体は凶器だった。全身を常に鍛え抜き、一分の隙もなかった。ミシェルの背は、体は、鍛え抜いたアンナのそれによく似ている。

「・・・」

 ミシェルは怪訝な顔をして私を見あげた。

 長い睫にふちどられた可憐な瞳。

 母親によく似ていながら、その瞳の奥に宿るものは全く違っている。

 私はミシェルの瞳をみつめながら、ミシェルの手をとった。

 手の感触を確かめながら、ゆっくりと自分の口元にもっていく。

 ミシェルが顔を赤らめ、動揺している。

 ミシェルの指先に口づけながら、ハッキリと悟った。

 私のお目出度い勘違いを。


「ミシェル、なんだこれは?」

 ミシェルの指先を握ったまま目の高さにつきだす。

 ミシェルの指も手も銃を常に扱っている者にしかないはずの形跡がはっきりと刻み込まれている。コーラスをやっているだけではあり得ない腕の筋肉。皮の厚くなった手。

 はっとしたミシェルがとっさに手をひこうとしたが、私は手を離さなかった。

「どういうことかと聞いているんだ。お前は、全寮制の高校で、何を勉強している? まさか、授業で拳銃の使い方までならうのか? ちゃんと学校にはいっているのか? ミシェル、答えなさい」


「ちゃんと、学校にはいっているし、寮で生活している。勉強も頑張っているし、コーラス部もちゃんとずっと続けてる。でも、どうしても私はボスのそばにいたいの。ボスを護りたいの。それだけ」


 ミシェルは泣きそうになりながら、それでも真っ直ぐ私の目をみてそういった。


 もう子供の目でも子供の体でもなかった。


 私はゆっくりと息を吐き、手をはなした。

 ミシェルはこちらを伺うように、不安げな大きな瞳でじっとみている。


「好きにしろ」

 完敗だった。ミシェルの顔がぱあっと明るくなった。それは、大きなヒマワリの花が咲いたようだった。

 私はミシェルを抱きしめていた。


 よくよく聞いてみると、3年間高校でまじめに授業を受け、課外活動のコーラス部で体を鍛え? 土日には父親のアキラの知り合いのところで武術の稽古をしていたらしい。その上、そこでアキラの射撃仲間(と、ミシェルはいっていたが、その男はその筋では有名な武器商人のブルーだった)とも知り合いになり、射撃の稽古から武器の扱いまで一通り勉強していたというのだ。


 ダマされた、という思いと同時にどうしようもない温かい喜びが胸を満たした。ミシェルの平和を願いながらも、そこまでしても自分のそばにいたい、自分を守りたいというミシェルが愛おしくて仕方がない。


 ミシェルも、もう子供ではない。最近は世間の風潮も当局の監視も厳しく、ドンパチはほとんどない。安全のため、部下を養うため、当局の監視をくぐるため、違法な「ビジネス(取引)」から足を洗い、合法な「会社」としての枠組み作りへ奔走してきた。まあ、その強硬策がしばらく裏目に出て命を狙われていたのだが。ようやく会社も軌道にのり、最近は表だった危険もほとんどない。我々もそろそろ、カタギといえなくもないのではないだろうか。まあ、まだ相当黒い会社だが。ならばしばらくミシェルを手元に置き、好きなようにさせておくのも悪くないかもしれない。あまり危険もなく、父親のときとは時代が変わってきた事を肌で感じれば、賢い子だ、また、違う目標を見いだせるかもしれない。

それでも、ずっと一緒にいたいといいはるなら・・・妻にしてもいい。


 そう思ってミシェルをみると、ミシェルは嬉しそうにロレンツィオと寄り添っていた。そういえば、ミシェルの願いはロレンツィオのパートナーになり、ロレンツィオとタッグを組んで私を守ること、だったか。


 この、腹の底から湧きあがる理不尽な思いはなんなのだろう。こう、ロレンツィオを絞め殺したくなるような・・・?


 私の視線に気が付いたのか、ロレンツィオが視線をあげた。一瞬、口の端をあげてニヤリと笑い、ミシェルに視線を戻す。糞。


読んでくださってありがとうございます。

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