すれ違い 2
かわいい娘が出て行ってしまった。
父親宣言をしてまだ一週間もしていないのに。
何がいけなかったのか。
何もかもいけなかった。
全てすれ違いだった。
まっとうな子に育てるために、射撃や武道は遠ざけた。もちろん、スポーツとしてならいい。だが、なまじ腕がいいだけに、将来が怖い。ロレンツィオの話ではアンナもびっくりのS級らしい。さすがはアキラの娘だ。
フランス語をやりたいというので、講師を呼んでやったら、講義を始めてすぐに居眠りを開始し、起きたと思ったら綺麗な発音で、超もれそうです! とどなってどこかへいってしまったという。
暇そうだったので、ピアノの前に座らせたが、エリーゼのためじゃなくってボスのため、とかぶつぶついっている。ピアノを棺桶のかわりにするとか物騒なことを言い始める始末。
ピアノに飽きたのか、
「ちょっとドライブにいってきてもいいですか? 申し訳ありませんが、車のキーをかしてください。なるべく早くお返しします」
と、丁寧な言葉で上目使いにいう。
ミシェルの上目使いは可愛い。
それは、認める。
だが、14の娘がドライブに連れてってじゃなくて、キーをかせ、ときた。運転するのかと聞いたら、猫でも運転するとおっしゃる。すべてが万事こんな調子で。
そして。
「軟弱な子供のくせに! 大人しく私に守られていればいいのよ!!」
軟弱な子供とは私のことなのか・・・。
茫然とする私の横でまたもやセルジオが爆笑していた。
ミシェルは
「セルジオっていっつも笑ってるのね。もういい。ロレンツィオのところにかえる」
そういって出て行ってしまったのだ。
「いやあ、一週間もたないとは。今回の賭け、ロレンツィオの勝だな。ボス、愛しい女を一週間も繋ぎ止められないなんて、情けないぜ?」
セルジオがニヤニヤしながらいった。
「賭け? 何のことだ? お前、ロレンツィオと賭けなんかしていたのか?」
私が言うと、セルジオはウインクしていった。
「ロレンツィオが一週間もたないだろう、っていったから、賭けをしたんですよ。もちろん私はボスを信じて一週間くらいはもつ、って方に賭けたんですけどね。ボスを信じたばっかりに大損ですよ」
そういって、ぎゃははは、と変な笑い声をあげた。
ロレンツィオのやつ。しれっとした顔で、じゃあミシェルをよろしくお願いします、とかなんとかいいながら影でそんな賭けをしていたとは。
絶対に許さない。ロレンツィオにはミシェルはやらん。
黒い気持ちを抑えることが、私にはできなかった。