資産家独居老人の道楽16
剛田甚左衛門は魔国との国境にある砦を目指して空を飛んでいた。超高速である。
魔国の国境は谷になっており辺境伯領側は分厚くて高い壁で谷を塞いでいた。
剛田甚左衛門はその砦の上に降り守備兵の1人を捕まえて質問した。
「状況はどうなのじゃ?魔国の使者はどこじゃ?」
「あの…。どちらさまですか?」
「どちらさまでもない!辺境伯じゃわい!」
「これは大変失礼しました!現在ご覧のように魔国からの難民が多く押し寄せて来ておる状況でして…。対応に困っております。使者は守備隊長の応接室にて待機しております」
「難民はおよそどのくらいの見積もりなのじゃ?」
「見える範囲では10万を越えるかと」
「うむ!わかったのじゃ!」
剛田甚左衛門は守備兵に案内されて衛兵長の応接室に向う。
衛兵がドアをノックして声をかける。
「守備隊長!辺境伯のお越しです!」
「開けてくれ!」
剛田甚左衛門が部屋に入ると守備隊長が綺麗な敬礼をしていた。
「はいるぞ」
剛田甚左衛門は魔国の使者らしき人物の前にすわり尋ねた。
「魔国の状況はどうなのじゃ?」
「魔王様と四天王たちが応戦し戦線は拮抗状態と思いますが、その魔力量と生命力から考えてあまり時間は無いかと思います」
「よかろう。守備隊長よ難民を受け入れて、この砦付近に避難キャンプを設営するのじゃ、とりあえず屋根があれば良い。あと砦の食料の余剰分を配給に回せ、もう一度辺境伯の館に早馬を送り、食料と毛布…あとスパルタン達1万を周辺警護にあたらせるのじゃ」
「かしこまりました!」
「ワシは魔国の魔王城へ行き黒龍を止めてまいる」
「単身でですか?」
「守備隊長も一緒にくるかの??」
「そうですね、足を引っ張りそうなのでご遠慮します!」
「そういうことじゃ」
剛田甚左衛門は砦の上から飛び立ち谷にそって飛行していた。
「10万…20万…。これはキリがないのう」
そこから1時間ほど飛行すると花火大会の会場の様なものが見えた!
「これは…魔法戦かのう?遠くで観るには実に美しいのう」
「だれじゃーー!お主はーー!」
ちびっ子悪魔少女が声をかけてくる。
「ただの辺境伯じゃよ」
「むほーー!救援依頼が届いたのじゃなー!で?何万で来てくれたのかの?ん?5万か?」
「ワシ1人なのじゃ……。ところで小娘は誰じゃ?」
「あよいしょ!よく聞いてくれたー!私こそ!天下の!大魔王!デビル様じゃ!」
「デビルよ、何故に天下の大魔王が黒龍を倒せないのじゃ?」
「聞くがよい!黒龍ナーガには魔法攻撃は効かぬのじゃ、物理攻撃もまったく効かん。困ったものよのーう」
剛田甚左衛門の黒剣がカタカタと震えて唸り声をあげている。
〈お…の…れ!我々は…決して許さぬぞ……ザッ…ザッザッ〉
「うむ、何か因縁がありそうじゃの…デビルとやら!ちと一撃入れてくるのでのう。援護射撃を頼むのじゃ」
「一撃ってそんな簡単にいうけど大丈夫のーう?」
剛田甚左衛門は黒龍ナーガのブレスをかいくぐり高周波ブレードビームの射程距離に入ると高周波ブレードレーザーを振るった!!
パリーーん!!
黒龍ナーガの身体に触れるやいなや光の剣は砕け散った。
「ならばこれはどうかの?」
黒龍ナーガの左頬に義手を押し付けて…。
「リボ払いじゃ!」
と叫んでドガーン!!と杭を撃ち込んだ。
ぐらつく黒龍ナーガ。だがそれだけである。黒龍から見て右側面から魔王と四天王の魔法攻撃が集中砲火される。
剛田甚左衛門は黒剣を抜き放つ!
黒剣にはいつもには無い雷の稲妻がバチバチと火花を散らしていた。
「悪く思うなよ黒龍ナーガよ!」
〈じごく…へ……みち…ずれ…ザッ…ザッ〉
黒剣が怨霊の様な声を上げる。剛田甚左衛門はためらいもなく黒龍ナーガの首に剣を入れる!!
黒龍ナーガが本能的に身を交わす!!
「おしいのう…。浅いわい」
黒龍ナーガは首筋から血をながして剛田甚左衛門を見る…と言うよりは…黒剣を見る。
黒龍ナーガの瞳にみるみるうちに怯えの色が見えて黒龍ナーガはその場を飛び去って行った!!
「いや…もう少しじゃったのにのう」
「本当に惜しかったのーうじゃ!」
「デビル嬢ちゃんかい?これだけ国土を破壊されてどうするつもりなのじゃ?」
「どうするもこうするも、しばらくはお主の世話になるつもりじゃのーうじゃ!」
「そうは言うても難民およそ30万人を賄う食料がないのう」
「心配するなし!備蓄庫に3年分はあるのじゃのじゃ!」
「国境の砦の向こうに避難キャンプが作られておる。そこに運んでくれんかのう」
剛田甚左衛門は考えていた。黒龍ナーガは再び現れるであろう。そしてその時に頼れるのは黒剣のみ。
黒龍ナーガの強さと自身の力量を鑑みて、良くて相討ちになるであろうことを。
「デビル嬢ちゃんよ」
「なんじゃ!のじゃ!」
「急ぎやることを思い出したので、ワシは帰るのじゃ」
「もう行くのか!?気の早いやつよのう!じゃ!」
剛田甚左衛門は時間との勝負と考えていた。
砦の守備隊長に今後の大まかな指示を出して、剛田甚左衛門は館へと急いだ。
「エルミンはおるかのう?」
「辺境伯、こちらに!」
「二日酔いではないようじゃのう」
「二日酔いになるほど飲めませんので」
それから1週間書記を用意してザエモン辺境伯領の経営、法整備、インフラ、都市計画、軍事、そして自警団などの今後の展望をエルミンに伝えた。
ゴウンとスパルタンにも急ぎ軍師の育成を依頼して、それまでの間軍事行動に関してはゴウンとスパルタンの合議制で行うこととした。
そう…すべて剛田甚左衛門がこの世界から不在になったあとのための布石であった。
剛田甚左衛門は思った。剛田甚左衛門辺境伯がこの世界から居なくなれば、王国から新しい辺境伯が送られて、これまでの努力も領地の経営方針も元の木闇になりかねない。特に多くの元奴隷市民が暮らすこの辺境伯領に再び奴隷制が発布されたら悲惨なことになるであろうと。
剛田甚左衛門が考えていることはただ1つ。
後継者にエルミン・キルヒアイスを任命させることだ。
脅しでもよい。
剛田甚左衛門はそう考えていた。
剛田甚左衛門がすべての手配を終えたころに、珍客が現れた。魔王デビルである。
「久しいのう辺境伯。元気そうなのじゃ!のじゃ!」
「うるさいのう。何の用件があるのじゃ?」
「うむ、魔国は辺境伯領の属領になろうと思っておるのじゃ!のじゃ!」
「それは復興費用をワシらに肩代わりさせるつもりかのう?」
「そうじゃないのじゃ!のじゃ!難民キャンプはテントだらけじゃったのに、そのたらの領民が街を作ってくれてのう…。ほとほと感動したのじゃのじゃ!」
「そんな命令はしておらんのじゃか…。そういうことであればいくつか温泉を掘ろうではないか!」
こうして剛田甚左衛門は良さそうな地にクリエイトホットスプリングで温泉を掘った。
住民は南無遍照金剛と剛田甚左衛門を崇めるようになっていった。
----王都に黒龍の襲撃あり----
また早馬での伝令なので事態の発生から1週間経過している推測になる。
「デビル嬢ちゃん!ちょっと一緒に王都へ行ってくれんかの?」
「オーケーなのじゃ!のじゃ!」
館の前には四天王が待っていた。
剛田甚左衛門はそれぞれの名を聞いた。
ミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエル……。
4大天使…。
「デビル嬢ちゃんの本当の名はルシフェルかい?」
「なぜ!秘密の名を!!超能力者なのか!?」
「まあいいさ、急ぐぞ!!」
こうして国王の居る王都を目指すも地上には難民が溢れていた。
「今は手だてがないのじゃ!黒龍ナーガを倒すぞ!」
「うぃーす」
「何じゃお主らの気の抜けた返事は!?」
「あっしら剛田さんの陽動なんで…じゃ!!」
王都にはひと回り身体が大きくなった黒龍ナーガがゴジラのように口から破壊光線を出していた。
もう壊滅状態である。
剛田甚左衛門の黒剣はカタカタと震え始めて抜け!抜いてくれ!と剛田に話しかけているようだった。
「陽動を始めてくれ!」
「うぃーす」
剛田甚左衛門の目の前で花火大会が始まった。
剛田は黒龍ナーガの右側面後方に位置を取り黒剣にも気配を消すように命じて抜刀した。
蜻蛉の構え。
あの時剛田甚左衛門の左腕を切断した渋谷剛三の技。
一閃。
黒龍ナーガの首に綺麗に黒剣の刃が入る。
その時である黒剣の黒の刃にヒビが入り、黒龍ナーガの全身にもヒビが入った。
剛田甚左衛門が不意に刀をひねると黒剣の黒龍ナーガの漆黒の黒が弾け飛んで輝く白磁の銀色の剣と白磁の銀色の龍の姿が現れた。
「何じゃ、これは……」
「剛田甚左衛門よ良く我を黒剣を祓ってくれた!これは……褒美じゃ。この勾玉に剛田が願えばどこへでもいけるぞ。あとのことは、この織田信長に任せるがよい」
「織田信長殿…なのか!?」
「3000世界で殺戮を繰り広げて我は血塗られた呪いに染め上げられた。その呪いを聖剣になすりつけて黒剣にし、神に預けてこの世界で4000年は生きながらえておる。まさか黒剣が我を見つけるとは」
「では1つ頼みが」
「なんでも言うが良い」
「ザエモン辺境伯領を頼みたい。細かいことはエルミン・キルヒアイスに伝えてあるゆえに」
「たやすいことだ!さあ!行くが良い!」
剛田甚左衛門は勾玉を握りしめてアキと甚右衛門を想った。
そして刹那姿を消した。
白龍織田信長は人の姿に変化して、アンドロイド国王の元へ向かった。
「聞いての通りだ。ザエモン辺境伯領はもらい受ける」
横から魔王デビルことラファエルが入り込んで来てアンドロイド国王に言った。
「魔国もザエモン辺境伯領に併合されたからよろしくなのじゃ!のじゃ!」
---巨大なスーパーセル…ウルトラセルが東京上空を覆っています。外出禁止令が出ております!くれぐれも命の安全を第一に行動してください!!----
キー局各社が緊急特番を組んでいた。
ドガーンドガーンドガーン!!
ピカッ!!ゴロゴロ!!
剛田甚左衛門邸宅の上空には雲が渦を巻いて禍々しい雰囲気と猛烈な雨風が吹いていた。
「甚右衛門お腹出していると雷様にオヘソを取られちゃいますよ!」
「ママ抱っこして〜!」
「はいはい」
アキは甚右衛門を抱きしめて空の様子を眺めていた。
その時聞き覚えのある音楽が微かに聴こえてきた。
---ダーダダダーダダダダッダーー---
ティンパニーの音もする。
「これは……ガンバスターのテーマなの??」
すると雲の渦の中心から小さい人の形をした物が腕を組んで真っ直ぐに降りてくる。
渦巻いていた暗雲は消えて生き強烈な日差しの中から、見間違うことのない男の姿が見えた。
「嘘!!」
----報道局です!!暗雲の中から現れたのは巨大隕石を防いだとされる日本有数の資産家剛田甚左衛門その人のようです!!果たして何が起きているのでしょうか?----
剛田甚左衛門邸宅の庭に剛田甚左衛門が帰って来たのであります!
「あなた!!」
「おー!アキかのう。相変わらず美しいのう。これが甚右衛門かのう。何歳になったのじゃ?」
「3歳になった……ばかりです……わ……」
アキは剛田甚左衛門を抱きしてて泣き初めていた。
「ママ〜?なんで泣いているの?このおじいちゃんだれ?」
「おじいちゃんか、確かに甚右衛門からみたらおじいちゃんじゃのう」
不思議なことに空に雲は1つも無くなっていた。
庭には初夏の緑の香りが吹き抜けていった。




