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婚約破棄された蒼薔薇の子爵は、洗脳されていた婚約者を救い出し王太子にざまぁする ― 灰月王国秘史 ―  作者: ちゃーき


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影喰の群れ


闇が、動いた。


それは錯覚ではない。

確かに――蠢いた。


「……囲まれましたね」


イリスが小さく息を吐く。

彼女の視線の先、崩れかけた回廊の奥、天井の亀裂、柱の陰。

そこかしこから、黒い影が滲み出してくる。


一体、二体……三体。


「いや、もっといる」


セオディアスは、すでに数を数えるのをやめていた。


音霊術が捉える“音”は、明確だった。

粘つく魔力の脈動。

不規則で、不快で――生き物のそれではない。


「影喰……群れで動く段階まで、侵食が進んでいるか」


影喰シャドウイーター

影界から滲み出た魔物。

実体を持たず、恐怖や魂の揺らぎに引き寄せられる存在。


そして――

数が増えるほど、厄介になる。


「主、どうしますか」


イリスの声は冷静だった。

だが、その指先は、わずかに緊張している。


セオディアスは一歩、前に出た。


「突破する」


短く、それだけ。


「時間をかける余裕はない。

 ここで足止めを食らえば、地下神殿に間に合わなくなる」


リリアナの顔が、脳裏をよぎる。


(三日後――いや、もう二日しかない)


影喰の一体が、ずるりと前に出た。

形が定まらない腕が、空を掻く。


その瞬間。


「――来る」


セオディアスの声と同時に、闇が襲いかかってきた。



▫ ▫ ▫




音は、ほとんどなかった。


影喰は、音を立てずに殺しに来る。

それが、最も恐ろしい点だ。


だが――


「遅い」


セオディアスの蒼い瞳が、鋭く光る。


音霊術が、来る前の揺らぎを捉えていた。


彼は、影が触れるより先に動く。

短剣が、蒼白い軌跡を描いた。


一体、消滅。


「……っ!」


すぐさま、別方向から二体。


イリスが前に出る。


「――主、背後!」


銀色の閃光。

細身の刃が、影を裂く。


「一体、消えた……!」


だが、影喰は減らない。

むしろ――増えている。


「……厄介ですね。倒しても、倒しても……」


「影界に近づいている証拠だ」


セオディアスは、奥を見据えた。


「ここは入口に過ぎない。

 本命は、さらに深部にいる」


影喰たちが、一斉に動いた。


それは、獣の群れのようだった。


「――退路を切る」


セオディアスは、短剣を収める。


「イリス、ついて来い」


「御意!」


次の瞬間。


彼の足元から、蒼白い光が広がった。


音霊術・応用――

《共鳴遮断》。


音も、気配も、存在感すら削ぎ落とす術。


影喰たちが、一瞬、動きを止めた。


「今だ!」


二人は、影の隙間を縫うように走る。


背後で、

無数の影が、怒り狂う気配がした。


だが、追いつけない。


「……ふぅ」


回廊の奥、比較的安全な地点で、足を止める。


イリスが振り返った。


「……主。

 影喰が、こちらを学習しています」


「分かっている」


セオディアスは、静かに答えた。


「次は、同じ手は通じない」


だが――

彼の表情に、焦りはなかった。


「それでも、行く」


蒼い瞳に、揺るぎない決意が宿る。


「彼女が待っている」


闇の奥で、

影喰たちが、再び動き始めていた。


地下神殿は、もう近い。


次回、リリアナ側の異変

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