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婚約破棄された蒼薔薇の子爵は、洗脳されていた婚約者を救い出し王太子にざまぁする ― 灰月王国秘史 ―  作者: ちゃーき


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7/7

地下迷宮への潜入

王都の地下へ続く、封鎖された旧下水道。

その入口の前に、二つの影があった。


「ここから入る」


低く告げたのは、黒い外套を纏った青年――

蒼薔薇の子爵、セオディアス・クレイヴン。


「……空気が、淀んでいますね」


隣に立つ銀髪の少女、イリスが周囲を警戒する。

湿った石壁。

鼻を刺す、鉄と腐臭が混じったような匂い。


「影界の影響だ。入口付近から、すでに侵食が始まっている」


セオディアスは静かに、地面へ手を置いた。


次の瞬間――

彼の指先から、蒼白い光が波紋のように広がる。


音霊術サウンドシェイド


音を“聴く”魔法ではない。

空気の揺らぎ、魔力の残響、命の気配――

あらゆる情報を、音として捉える秘術。


「……下、三十メートル。

 魔力反応、複数。動いている」


「影喰、ですか」


「ああ。まだ気づかれてはいない」


二人は、静かに地下へと降りていった。


▫ ▫ ▫


階段を下り切った先は、巨大な空洞だった。


天井は高く、支柱のない石造り。

壁一面に刻まれた、古い魔法陣。

ところどころが黒く染み、崩れかけている。


「……神殿の外縁部ですね」


イリスが囁く。


「王宮の地下に、こんなものが……」


「意図的に隠されてきたんだろう」


セオディアスは歩みを止めず、進む。


――その時。


ピチャリ。


何かが、天井から落ちた。


「止まれ」


即座に、セオディアスが手を上げる。


音霊術が捉えたのは――

粘つくような、不快な“音”。


(……来る)


次の瞬間、壁際の影が蠢いた。


黒い霧が凝集し、形を成す。

四肢の輪郭は曖昧。

顔のあるべき場所には、穴のような闇。


「――影喰シャドウイーター


イリスが短く息を呑む。


影喰は、ゆっくりとこちらを向いた。

だが、まだ完全には実体化していない。


「……まだ“腹を空かせている”段階だ」


セオディアスは、腰の短剣に手をかけた。


「この程度なら、騒ぎにはならない」


「私が、先に」


イリスが一歩踏み出す。


「いや」


セオディアスは首を振った。


「音を立てるな。

 ――一体だけ、消す」


影喰が、にたりと笑った――ように見えた。


次の瞬間。


セオディアスの姿が、掻き消えた。

音もなく、影の中へ溶けるように。


そして――

鈍い断裂音。


蒼白い閃光が走り、影喰の胴体が裂けた。


「……っ」


影喰は声にならない悲鳴を上げ、霧となって崩れ落ちる。


残響すら、ほとんど残らなかった。



「……お見事です、主」


「まだ入口だ」


セオディアスは短剣を拭い、周囲を見渡す。


「本命は、もっと奥だ」


彼の脳裏に、リリアナの姿が浮かぶ。


(三日後――必ず、迎えに行く)



だがその時。


音霊術が、新たな“音”を捉えた。


――複数。

――さっきより、近い。


セオディアスの蒼い瞳が、鋭く細められる。


「……イリス」


「はい」


「気づかれた」



闇の奥で、

無数の影が、こちらを見ていた。


次回は、迷宮本格突入&戦闘になrります

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