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婚約破棄された蒼薔薇の子爵は、洗脳されていた婚約者を救い出し王太子にざまぁする ― 灰月王国秘史 ―  作者: ちゃーき


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6/7

王太子の影

翌朝。

王太子アルベルトの私室には、張り詰めた空気が満ちていた。


「……まだ、完全ではないのか」


低く抑えた声。

その一言に、部屋の温度が下がる。


黒いローブを纏った魔導顧問――クレイン卿は、静かに頭を下げた。


「はい、殿下。影界の干渉は継続しておりますが……何者かの防御が介入しております」


「防御、だと?」


アルベルトの眉が、露骨に歪んだ。


「毎晩、確実に心へ干渉しているはずだろう。

 なぜ、あの女は正気を保っている」


「おそらく――」


クレインは一瞬、言葉を選ぶように間を置いた。


「蒼薔薇の子爵、セオディアス・クレイヴンの仕業かと」


「馬鹿な」


アルベルトは鼻で笑った。


「所詮は子爵だ。王家に楯突けるほどの力があるものか」


「油断は禁物です、殿下」


クレインの細い瞳が、不気味に光る。


「蒼薔薇家は代々、《音霊術》を継ぐ一族。

 諜報・遮断・防御に特化した、極めて厄介な魔術です」


「……だから、あの夜会でも妙に落ち着いていたというわけか」


アルベルトは舌打ちし、窓の外を睨みつけた。


「だが、儀式は必要だ。

 リリアナの魔力がなければ、影界の門は開かん」


「その点は、ご安心を」


クレインは、ゆっくりと口角を吊り上げた。


「地下神殿へ、直接お連れすればよいのです」



「地下神殿……」


「ええ。影界との接続が最も強い場所。

 あそこでは、いかなる防御魔法も意味を成しません」


アルベルトの瞳に、欲望の色が宿る。


「いつだ」


「三日後の夜。

 月が欠け始める刻が、最適でしょう」



「よし」


王太子は満足げに頷いた。


「セオディアス・クレイヴンが、どれほど足掻こうと無駄だ。

 リリアナは、必ず我が物になる」


その言葉を――

天井の隅に潜む“何か”が、静かに聞いていた。


蒼白く光る、小さな蝶。


▫ ▫ ▫


同じ頃。

蒼薔薇子爵邸。


執務室の奥で、セオディアスは蝶から流れ込む情報を受け取っていた。


「……地下神殿、か」


蒼い瞳が、冷たく細められる。


「ついに、切ってきたな」


机の上に広げられたのは、王宮地下の構造図。

複雑に入り組んだ通路、封鎖された旧区画、魔法陣の痕跡。


「正面からは無理だ」


独り言のように呟く。


「イリス」


声をかけると、影の中から銀髪の少女が姿を現した。


「お呼びでございますか、主」


「三日後、動く」


即断だった。


「王太子は、リリアナを地下神殿へ連れて行く。

 そこが、すべての分岐点だ」


イリスの表情が引き締まる。


影喰シャドウイーターが出る可能性が高いかと」


「構わない」


セオディアスは立ち上がり、黒い外套に手を伸ばした。


「それ以上に――彼女を奪われるわけにはいかない」


一瞬だけ、声に感情が滲んだ。



「必ず、救い出す」



イリスは深く頭を下げる。


「御意。

 主の影として、先行調査を開始します」


少女の姿は、次の瞬間には闇に溶けた。


窓の外では、月がゆっくりと欠け始めている。


三日後。

蒼薔薇の子爵と王太子の思惑が、地下で激突する。


それを知らず、リリアナは今も、蒼い蝶に守られて眠っていた。



――だが。


影は、確実に彼女へと近づいていた。


次はいよいよ潜入――闇の中へ。

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