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婚約破棄された蒼薔薇の子爵は、洗脳されていた婚約者を救い出し王太子にざまぁする ― 灰月王国秘史 ―  作者: ちゃーき


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5/6

蒼い蝶は、夜を越えて

王都の裏路地。


月明かりすら届かぬ闇の中で、黒いローブの男が立ち止まっていた。


「……なるほど。蒼薔薇の子爵が、ここまでとは」


クレイン卿は、指先で空をなぞる。

その軌跡に沿って、黒い霧が微かに蠢いた。


「だが、まだだ。

影界の“準備”は整っていない」


低く笑う。


「王太子殿下も、あの娘も……まだ駒に過ぎぬ」


霧はやがて霧散し、男の姿も闇に溶けた。


▫ ▫ ▫


――同じ夜。


王城の一室で、リリアナは浅い眠りに沈んでいた。


完全に眠れているとは言えない。

悪夢が、いつ戻ってきてもおかしくない。


(……また、あの夢を見るのかしら)


胸に手を当てる。

心の奥に残る、得体の知れない違和感。


そのとき。

風もないのに、カーテンがふわりと揺れた。


「……?」


リリアナが顔を上げると、窓辺に小さな光が舞っていた。

蒼白く、やさしく瞬く光。


「……蝶……?」


それは、蒼い蝶だった。

夜の闇に溶けるようでいて、確かにそこに存在している。


「また……来てくれたの……?」


蝶は答えるように、静かに羽を震わせた。

そして、ふわりとリリアナの頬に触れる。


――あたたかい。


胸の奥に、じんわりと広がる感覚。

それは、悪夢の冷たさをそっと溶かしていくようだった。


「セオディアス様……」


名前を呼ぶだけで、涙が滲む。

不安も、恐怖も、すべて消えたわけではない。

それでも――。


蝶は空中に、淡い光の文字を描いた。


『悪夢に負けるな』


その言葉を見た瞬間、胸が強く脈打った。


『それは、外からの干渉だ』

『お前の心は、お前のものだ』


(……外から……?)


意味は、すべて理解できない。

けれど、自分が“何かに侵されかけている”という感覚だけは、確かにあった。


蝶はさらに光を揺らす。


『この蝶がいる間は、悪夢は来ない』

『安心して眠れ』


「……ありがとう……」


リリアナは、そっと蝶を両手で包み込んだ。

壊れ物を扱うように、慎重に。


(わたくしは……一人じゃない)


それだけで、心が少し強くなる。


蝶はそのまま、彼女の枕元で淡く光り続けた。

まるで、夜を見張る守護者のように。


その夜、リリアナは久しぶりに、夢を見なかった。


闇も、鏡も、囁きもない。

ただ、穏やかな眠り。


蒼い蝶は、朝まで消えることなく、彼女を守っていた。


蒼い蝶の回でした

不穏は静かに、希望は確かに。

次話から、敵側が本格的に動き始めます。

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