舞台は、すでに整っていた
※投稿日時ミスをしました。気をつけます
その夜、王太子の私室。
アルベルトは、満足げに笑っていた。
「ざまあみろ、セオディアス・クレイヴン」
彼は窓辺に立ち、夜空を見上げる。
「あの高慢な男が、屈辱に耐えている姿は実に痛快だった」
「……殿下」
低い声が、背後から滑るように響いた。
振り返った時には、
すでに黒いローブの男が立っている。
魔導顧問――クレイン卿だった。
「ああ。リリアナ・エヴェレットを手に入れた」
アルベルトは愉悦を隠そうともしない。
「あの娘の魔力は、儀式に不可欠だからな」
「抵抗は、想定の範囲内です」
クレイン卿は、感情の起伏のない声で告げた。
「問題ない」
アルベルトは鼻で笑う。
「徐々に支配していけばいい。
どうせ、あの娘は道具に過ぎない」
「……素材としては、非常に優秀です」
淡々とした評価だった。
そこに、人を気遣う響きはない。
「儀式に支障はありません。
調整は、こちらで行います」
「では……セオディアス・クレイヴンは?」
「放っておけ」
アルベルトは即答した。
「所詮は子爵だ。何もできはしない」
――その会話のすべてを、
蒼白い蝶が静かに記録していた。
音霊の蝶は、夜風に溶けるように窓を抜け、
主のもとへと帰還する。
セオディアスは、蝶から流れ込む情報を受け取り、
静かに目を伏せた。
「洗脳……いや、“調整”か」
言葉の端々に、違和感が残る。
「影界の力。儀式……」
点と点が、線になっていく。
「なるほど……」
彼の口元に、冷たい微笑が浮かんだ。
「いいだろう、アルベルト」
セオディアスは立ち上がり、
執務室の奥にある隠し扉を開く。
そこには、黒い外套と、数々の武器が整然と並んでいた。
「僕を甘く見ているなら――好都合だ」
蒼い瞳に、確かな決意が宿る。
「お前の陰謀、すべて暴いてやる。
そして、リリアナを救い出す」
――舞台は、すでに整っていた。
読んでいただきありがとうございます!
次話から、少しずつ裏側が動き出します。
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