7 少女の正体
(*+ - +*)< ブクマ1件減ってた...(泣)
特務四課の追走を振り切り、俺は深夜の公園に降り立った。
「ふう、なんとか逃げ切ったな......。」
腕の中の少女が、喘ぎ声を漏らす。
「ハルト...さま......夢、じゃ、ない?」
「ああ...とりあえず無事で良かった。」
記憶が正しければ、俺は彼女を知っている。十年前のあの日、掴めなかった小さな手。
月明かりの下、彼女は角に毒々しい漆黒を纏い、肌に魔紋を浮き出している。
小さな手には、黒紫の鋭い爪が並び、小さな体を少し古いローブが覆っている。
不安げに揺れる瞳には、十年前と変わらず綺麗なランプブラックが映し出されている。
「おまえ、まさか魔王城の......?」
異世界での記憶に、薄暗い魔王城が浮かぶ。
金銀の彩りで作られた魔王の玉座。周囲には大きな柱がそびえ立ち、魔族にされてしまった、元は人間だった、忠誠心の塊がそれぞれの柱の下で武器を持ち、常に警戒を張っている。血に、泥に、汚れながらも俺は聖剣グラムを振るい、ついには魔王の命を絶った。そしてその様子をずっと見つめている、敵意のない魔族、小さな少女が1つの柱の裏に怯えていた。魔王討伐後、崩壊する魔王城から少女を助けようと、俺は手を伸ばした。しかし、崩れ落ちる瓦礫と、神様の用意した帰還の門が俺の指先を拒んだ。
救えなかった。ずっと、そう思っていた。
寒さに震えながらも、彼女はゆっくりと口を開いた。
「......あの日...魔王...に......血、を...流し、込まれて......。」
「...私は......人間じゃ...なくなって......でも.........。」
少女の手がそっと、だが強く、俺の制服を掴んだ。
「......あなたが、最後に...光を......日本を...見せて、くれた......。」
「日本に......光の国に...来たくて.........信じて...追いかけて......。」
胸が締め付けられる。
あの日、死を覚悟していたであろう少女に、せめて希望を持ってほしかった。だから、「俺の国では美味しいご飯があってさ。誰も死なないし、誰も泣かないんだ。」と日本の話を聞かせた。
「......追いかけてきたのか、日本まで。」
「はい......ハルトさまの...いる......世界.........。」
そこまで言って、彼女は眠ってしまった。
角があり、爪があり、魔王の血が流れている。
しかし、どう考えても彼女は「人間」で守るべき存在だった。
――ガサッ
植え込みが揺れ、ボロボロになった黒崎が姿を現す。
制服には複数の裂け目があり、頬には切り傷があった。
「はあ、はあ......あいつら、まじで容赦ねえぜ...まったく.........。」
「ありがとな、黒崎。」
「......ああ...それより、魔族の野郎は...?」
「見ての通り、寝てる。しばらくは俺が家で面倒を見るよ。」
「いや、家でっつっても...角生えてるし、厳しくねえか?」
俺は少女を抱き直し、慎重に立ち上がる。
「......母さんには『道で留学生を拾った』って言っとくよ。」
「さすがに無理があるだろ、その嘘......まあ、そうするしかないんだろうが......。」
黒崎は呆れたように笑いながらも、周囲を警戒していた。
なあ、神様。
『退職金』は、魔力だけじゃなかったってことで...いいんだよな?
あの時救えなかったと思っていた命を、今度こそ、守ってみせる。
...日本の平和を満喫するなんてことは、しばらく無理そうだけどな。
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次回、少女と陽斗の、のんびり回です。
(*+ - +*) < 次の更新は、明日の朝、8:00です。




