6 警察と少女
(*+ - +*)< わくわくの戦闘が、はじまりますよ〜♪
「確保...随分と物騒な物言いじゃねえか。警察かなんかか?」
先程食べたラーメンの満腹感を抱えつつ、戦闘の姿勢に入る。
黒スーツの集団は、確かな敵意とともに、魔道具をこちらに向ける。
両脇の男たちは、特殊な印のようなものが入った警棒を持っている。
「警察庁公安部、特務四課――異能対策科、通称『帰還者対策室』だ。君たち二人の異能は、我が国の安全を脅かす可能性がある。おとなしく捕まることだな。」
言葉を発すると、女は手帳を見せてくる。名前は――氷室。
「チッ...あっちの『神殿騎士団』みたいなやつらだな。......力でねじ伏せて、支配下に入れるつもりだ。」
黒崎もナイフを構える。パチパチ、という音とともにドス黒いオーラを刃に纏い、尖った先端をスーツへと向ける。
少女は一直線に陽斗を見つめたいた。
小さくて弱々しい、可愛げのある声が沈黙に響く。
「やっと、見つけた...勇者...ハルト......。」
その声が、陽斗の記憶を一気に刺激する。
そうだ、魔王城で見たぞ、あの子...。
「待ちなさい、『被検体No.9』!まだ君の出番ではないわ。」
「......嫌だ......あの人は...私の......。」
少女の手から魔力が溢れ出す。明らかに力を制御しきれていない。
強大な魔素が空気を歪め、ピキピキ、と不吉な音を立てる。
「まずいな、暴走だ......黒崎、止めるぞ。」
「は?あれは敵だろ。」
「事情はあとだ。ここで爆発なんてしたら、コンビニにも行けなくなる......やるぞ!」
「なんでコンビニ!?まあ、そこまでいうならいいけどよ...。」
返事を聞かず、スクールバッグ片手に一気に踏み込む。
魔道具を持っているとはいえ、所詮は一般人。
慌てて警棒を構えた頃には、もう俺は通り過ぎている。
「早っ――!?」
俺の狙いは彼らではない。
足取りの怪しい少女から、行く宛のない力が集まり、真っ直ぐに発射される。
その瞬間、俺は魔力を解放し、盾のようにスクールバッグを突き出す。
――ガッキイイイイイイイン!!
鼓膜を破るほどの金属音。同時に、放たれた力は銀色に光るキーホルダーに吸い込まれていく。
「......まじかよ。」
黒崎の驚きがアスファルトに落ちる。
しかし、一番驚いているのは俺自身だった。
(......最近のバッグは衝撃吸収機能までついてるのか?すげえな、日本の技術。)
完全なる勘違いである。自分の手柄をここぞと主張するグラムであったが、そのことに陽斗は気づかない。そして、黒崎もまた、陽斗の底知れぬ魔力によるものだと勘違いしていた。
一気に魔力を失った少女はさらにおぼつかない足取りで陽斗に寄りかかってきた。
「......温かい...。本当に......ハルト...さま......。」
小柄な角の生えた、少女。その姿は、当たり前ながらに人間ではなかった。
陽斗は、この角を知っていた。魔王軍の角――それも、上級魔族のものだ。
そして彼は、この少女をよく知っていた。
「被検体を奪還せよ!攻撃を許可する!!」
慌てたように氷室が指示を出す。命令とともに、左右の男が手の塞がった陽斗へ飛びかかってくる。
――まずい。
「させるかああああ!!!」
――ガアアアアアン!!
衝撃によって煙が立ち、視界が奪われる。
しかし、彼の前にいるのは紛れもなく黒崎だった。
「おまえは先に行け!こっちは片付ける!!」
まだ出会って半日ほどである二人だが、あの一杯のラーメンが共に魔王を倒した相棒のような関係を作り上げていた。そして、敵を見つめる黒崎の姿は、かつて異世界にいたときの傭兵の姿が重なっていた。
「恩に着る!あとでコンビニのアイス奢ってやるからな!!」
「だからなんでコンビニなんだよ!?」
俺は少女を抱えて、夜の街に跳んだ。
背後で、黒い雷鳴と金属音が響く。
勇者、傭兵、魔族、そして警察。
俺の望んだ平和な二度目の人生は、いよいよ取り返しのつかない方向へと走り始めていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
(*+ - +*) < 今日は、午後四時頃に特別エピソードが出ます。
もしかしたら投稿忘れてるかもです。




