5 晩餐
(*+ - +*)< 作者は二郎系を食べたことないので、味は想像で書いています。
(本来は明日の朝八時投稿だったのですが、間違えて投稿してしまいました...。)
「本当に、ここでいいんだよな?」
黒崎が、おののいたような様子で店の前で立ち止まる。
放課後の住宅街を抜け、俺達がたどり着いたのは、黄色い看板が闇に浮かぶラーメン店だった。
店の外には、開店を待つ大勢の人々が、列をなしている。
「ネットの掲示板で見たんだ。ここは、数少ない『現代の魔境』と呼ばれる店らしい。」
「......あっちの『キラーベア』の肉よりやばそうに見えるな。」
俺と黒崎は、列の一番うしろについた。
つい数十分前まで喧嘩...というより戦闘をしていたとは思えない光景だ。
黒崎はまだ痛みのとれないであろう右手を、グーパーして不思議そうに見ている。
「...なあ、そのバッグになんか仕込んでるのか?」
「ん?ああ、別に何も。強いて言えば、教科書が入ってるくらいだけど。」
おい、俺を忘れるな!といわんばかりにキーホルダーが激しく揺れる。
「...そうか。」
キーホルダー――剣の行動も虚しく、黒崎は陽斗の言葉を完全に信じた。
(......きっと、体の中に大量の魔力が満ちてるんだ。それに、本当は超高度な魔法を隠していたり...。底が知れねえぞ、こいつ。)
黒崎の中で、陽斗への評価が全盛期の魔王ぐらいにまで跳ね上がったことなど、俺は知る由もなかった。
***
いよいよ、俺達の番が来た。
狭いカウンター席に座ると、険しい顔の店主が「――ニンニク、入れますか?」と聞いてくる。
二人で顔を見合わせる。きっと、同じことを考えている。
――来た。これが噂の呪文だ、と。
「「ニンニクマシマシヤサイアブラ。」」
そして、数分後。
俺達の前には、もはや『料理』を逸脱した山盛りの野菜と背脂の塊があった。
「......なんだ、この威圧感。魔王軍の鮮鋭か...。」
「食うぞ。これこそが平和な日本の闇であり、光だ。」
割り箸を割り、まずはスープを一口。
「――ッ!?」
脳髄を直接揺さぶるような強烈な塩分とニンニクの刺激。
健康、美容、マナー、そんな現代的な概念が崩壊するような野菜の暴力。
「うめえ、なんだこれ。なんかめちゃくちゃだけど、うめえ...。」
「あっちの世界じゃ、出会えない味だな...。」
俺達は無言で麺をすすった。
勇者と、傭兵。二人の間に、確かな友情が生まれようとしていた。
先程まで戦闘していた彼らはいま、同じ味を共有している。
ふと、脇に置かれたスクールバッグが小刻みに揺れる。
(......おい主よ、その美味そうな脂をよこしなさい......主だけずるいぞ。)
そんな剣の声は、ひたすら麺をすすり続ける勇者には届かなかった。
無事完食した二人は(...主ずるい。)清々しい疲労感とともにで店を出た。
「......悔しいけど負けだ。その強さも、胃袋も。」
「はは、おまえも良い食べっぷりだった。」
しかし、お互いの健闘を称え合う道中を、三人のスーツが取り囲む。
「...だれだ、あんたら。」
『索敵スキル』が反応する。こちらに向けられているのは、明らかな戦闘意思。
部下二人の間に立つ女の手には、黒を基調とした魔道具が握られている。しかし、陽斗の視線は、スーツの後ろに立つ、ローブを身にまとった少女に向けられていた。
――あの少女、どこかで見た気がする...。
記憶を探る陽斗の耳に、テキパキとしたスーツの女の声がはっきりと入ってくる。
「勇者ハルト、発見。」
「帰還者『天宮陽斗』および『黒崎蓮』――確保します。」
こうして、平和な夕食の時間は幕を閉じた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
次回、謎の少女とスーツの女。誰が敵で、誰が味方か――。
(*+ - +*) < 次の更新は、明後日の朝、8:00です。




