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4 黒崎との対面


――その歯車は、確かに動き続ける。




路地裏の戦闘から一夜。翌日の学校はなんだか落ち着きがなかった。


俺が廊下を通ると、チラリと見ては避けられる。

昨日の現場を見られていたのだろうか...?

さすがに不安になった時、机の上に1枚の紙が置いてあるのを見つけた。



『放課後、屋上に来い。一人でな。 黒崎』



「......黒崎?」


「陽斗!!だめだよ!!!」


横から飛んできたのは、凛の声だった。


「びっくりした、いきなりでかい声出すなよ...。」


「だめったらだめ!!黒崎といえば、警察にも目をつけられてる地元の不良のリーダーだよ!?関わったらなにされるか分かったもんじゃないし...。」


「だーかーら、声がでかいっての。それにしても、不良、ねえ...。」


正直、無限に近い魔力を持っている俺に、怖いものなどなかった。

俺は凛を安心させるように、軽く言った。


「ま、大丈夫だろ。どうせ大した用じゃないし。」


「もう!そういう脳天気なところが一番心配なんだってば...!」


凛の制止を適当に流し、放課後、俺は屋上へ向かった。



***



屋上のフェンスによりかかり、煙草を――吸っているわけではなく、咥えた棒付きキャンディをガリッと噛み砕く、赤と黒のパーカーの少年。彼こそが、手紙の差出人――黒崎蓮(くろさきれん)だった。

その鋭い眼光は、陽斗の姿をまっすぐに捉えていた。



「来たか、天宮陽斗。逃げると思ってたぜ。」


不良らしい威圧感。一般生徒であれば、だれもが怯え、道を開けてしまうだろう。

しかし、異世界で魔王との戦闘をしのいできた俺には、少し不機嫌な猫のような可愛いものだ。



「どうしたんだ急に、忘れ物でもしたか?」



先程から彼から感じる()()。おそらく、こいつも...。



「はっ、これが勇者サマの余裕ってやつか?」


「勇者?さては、ラノベの読み過ぎか。」



間違いない。こいつは知っている。

あの世界のことも、魔物のことも。



「誤魔化しても無駄さ......昨日見てたんだ、あんたが『シャドウ・スパイダー』を"消した"現場を。」



パチパチ、と不吉な音を立てて黒崎の手のひらでどす黒い火花が散る。

負のオーラを放つそれは、憎悪と呪いがドロドロと溶けている。



「見られてんのかよ...おまえの()()もARか?」


()()がこの世界のものではないことはひと目で分かる。

どうせ、雑魚の部類だろう。



「ARだあ?ふざけんな。俺は選ばれなかったんだよ!!!!」



戦いの合図が鳴る。一般人では決して追いつけないスピード。

強い風がスクールバッグを煽る。



(速い!)



予想よりは速いスピードだ。実力を低く見積もりすぎたか...。

だが、いままで戦ってきたそこらの魔物と大して変わらない。

スロモーションのように見える黒崎の攻撃を、昨日の要領で魔法を盾に受け流す。



――ガキィィィィン!!



俺が展開したシールドとナイフがぶつかり、強烈な金属音を立てる。

閃光に反応するように、揺れたキーホルダーが一瞬その力を解放したことに、陽斗は気づいていない。



――ドゴォォォォン!



爆発音とともに、黒崎の体がフェンスに突き飛ばされる。

彼の握っていたナイフは、弾かれた衝撃で折れてしまっている。


「お、まえ...な、なにをした...。」


「なに、ちょっと魔力で受け止めただけさ。」



勇者としての余裕。それがいまになって役に立った。魔力のシールドを作る際、出力をだいぶ抑えたはずなんだが...たぶん、黒崎のステータスの防御値に偏りがあるだけだろう。



「さっき、言ったよな。選ばれなかった、って。」


「なん、だよ...。」



憎しみに満ちた黒い瞳。だが、先程よりは驚きが含まれている。



「おまえの気持ちは......少し、分かる気がする。」


「......おまえなんかに、分かってたまるか...。お前が王城で美味い飯食ってる間に、俺は命を削って、美味くもない魔物の肉を生で食ってんだ。そうでもなきゃ、生きていけなかった...!」



バッグを地面に置き、魔力を弱める。



「...俺は、あっちでの生活を誇りに思ってるわけじゃない。ただ、米が美味くて、風呂が温かくて、誰も死なない日本の今日が、気に入っているだけだ。」


「......。」


「おまえ、日本に帰ってきてから、まともなもんを食ったか?」


「...は?なにを......。」


黒崎は毒気を抜かれたかのような表情でこちらを見つめている。


「おまえの技には迷いがなかった。向こうで血の滲むような努力を重ねて、戦場を生き延びてきたやつの腕だ。......だが、この日本でその力を振るうには少し平和すぎる。」


ドアの付近に放置されたバッグをちらりと見て、続ける。


「喧嘩の続きはあとでいい。一回、ラーメンで腹ごしらえしようぜ。えぐいニンニクの、あの店で。」


沈黙が流れる。

数秒後、黒崎はゆっくりと立ち上がった。



「......『ラーメン次郎』か。あそこの呪文(コール)は難しいぜ?」


そう言って、先に入口へと歩き出す。すれ違う際、「......むかつく。」と小さな声でつぶやいたことに、陽斗は気づいていた。

敗北を認めた黒崎の後ろ姿からは先程までの刺々しい雰囲気が消え、どこか吹っ切れたような苦笑いが浮かんだ。


そんな黒崎を、陽斗はスクールバッグを手にゆっくりと追いかける。



――そして、近くのビルの屋上から、スーツの女が陽斗たちの姿を捉えていた。



「転移者、発見。」



強風に吹かれ、小さな言葉がまたひとつ、床に落ちる。



最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

次回、黒崎と陽斗のラーメン攻略。果たして完食できるのか!?


(*+ - +*) < 次の更新も、明日の予定です!


ブクマ9件ありがとうございます!!

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