3 陽斗の嘘
(*+ - +*)< ブックマーク7件つきました!あと日間ランクイン感謝です!!
「......説明、してもらえるわよね?陽斗。」
路地裏の湿った空気の中、凛の声は震えていた。
地面に座り込んだままの彼女は、俺と、つい数秒前まで『シャドウ・スパイダー』――彼女から見れば「巨大な蜘蛛」がいた場所を交互に見つめている。
......やばい。
魔王を倒す方法は何通りでも考えられるが、幼馴染に「路地裏で怪物を粉砕した理由」を説明する方法は、神様でも教えてくれないだろう。
「あー......その、凛。驚くと思うけど、最新のホログラム装置のテストをしてたんだ。」
「.........は?ホロ、グラム...?」
冷や汗をかきながら、ポケットからスマホを取り出す。
使い方こそ怪しいが、現代の魔法の機械になってくれることを祈るしかない。
「ほ、ほら...最近、あるだろ?その、VRとか、ARとかさ。休みの間に知り合いに頼まれてたんだ。怪物はホログラムで、衝撃も演出だから。消えたのは、その、プログラムが終わったから...俺が実際に粉砕したわけじゃなくて...。」
「嘘...。だって、すっごい強い風が吹いてきたし...ゴミ箱も吹き飛んだけど...。」
「それは...演出用の!風...だよ...。臨場感!って...大事...だろ?その、企業秘密だから、詳しくは言えないんだけど...。」
「演出っていっても...機械が見当たらないじゃない。」
「一般人には見えない特殊技術...みたいなもんだ。」
我ながら、下手な嘘だった。
しかし、異世界で十年間過ごし、現代知識が止まったままだった俺にはこんなハッタリしか言えない。
凛はまだ納得のいかない顔だったが、「これ以上は言えないんだ。頼む、他の人には言わないでくれ...。」と懇願すると、「もういいわよ。変な宗教にハマってるんじゃないなら...。でもまあ、危ないことはしないでよ。」とひとまずは突っ込まないでくれた。
「ありがとな。」
上手く誤魔化した俺は、凛を家まで送り届けて、帰宅した。
......一応、家の前でもう一度、念を押しておいた。
***
帰宅後。俺は自分の部屋で、手のひらサイズのそれを見つめていた。もしかすると、神様の言っていた『退職金』は魔力ではなくこの剣なのかもしれない、と考えたからだ。
試しに魔力を流してみても、全く反応しない。十円玉で叩いてみても、コツ、コツ、と音が鳴るだけで十円玉が引き裂ける、なんてことは起きなかった。
「...やっぱ、俺の魔力の出力がでかすぎただけか。」
スクールバッグにもう一度それをつけ直し、スマホの電源を入れてみる。
一瞬、キーホルダーから「チッ...」という本当に微かな声が出ていたが、彼の意識は既に長方形の文明機器に向けられていた。
***
その日の深夜。陽斗が眠りについた頃。
路地裏の現場には、スーツ姿の男女が三人、集まっていた。
「――係長、やはり微弱ながらも『門』の残滓が検出されました。」
「今月で三件目か。......しかし、この衝突の痕跡は何だ?」
「...おそらく"狩った"者がいたのね。防犯カメラで洗い出しなさい。それと、大穴が開く前に浄化処理を。」
リーダー格の女が、少し離れた場所のカメラに視線を向ける。
「一般人か、『帰還者』か。気になるところですね。」
――その様子を、少し離れたビルから見下ろす、人影があった。
赤と黒のパーカーを羽織った少年――黒崎蓮。
彼の手のひらの上で、パチパチ、と火花を弾ける。
「......あいつ、ただの一般生徒かと思ったが、とんでもねえもんを隠してやがるな...。」
「.........面白くなってきたぜ。」
勇者が望んだ平和な日常。
しかし、運命の歯車は、彼の知らないところで加速し始めていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
次回、黒崎が陽斗に接触――!?
(*+ - +*) < 次の更新は、明日の朝、8:00です。




